見解(建築編)
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長期荷重(日常)は使用性、短期荷重(地震)は安全性
07年7月27日、日本建築構造技術者協会中部支部は、本建築物の構造計算書及び構造設計図の耐震に関する妥当性、並びに床スラブの解析の妥当性について同協会構造レビュー委員会の審議の結果、建築基準法、同施行令及び告示に照らして妥当なものであると判断した。
また、国土交通省中部地方整備局及び桑名市等、特定行政庁の見解については、現時点においては、明確な言及等はない。
そもそも建築基準法、同施行令及び告示が構造物に要求している要件を満たしているかどうかについては、長期応力と地震力及び風圧力の2つにわけて考慮されなければならなず、長期応力とは、スラブなどの部材そのものの重さ(自重)とその上に積載される重さ(積載荷重)によってスラブなどに生じる力のことであり、地震力とは、水平荷重(横からの荷重)により生じる力のことである。
そして、まず第一にはスラブ(コンクリートや鉄筋)そのものの重さやその上に積載される家具などの重さで、スラブなどに著しい変形など使用上の支障が起こってはならない。この使用上の支障とは、使用性に問題が生じること(ドアの開閉不良や、めまいなど歩行感覚の問題)であって、地震などによって建築物が倒壊・崩落するなどの安全性に問題が生じるほどの重大なレベルの話(人の命にかかわる話)ではない。
この点、建築基準法、同施行令及び告示などは、構造物には使用上の支障が起こってはならないこと(剛性の確保)と、瞬間的破壊が生じないこと(靭性の確保)が要求されている。
また、本件欠陥マンション問題における最大の争点は、床(スラブ)に生じる亀裂やたわみ等であるが、スラブは2次部材といい長期応力のみで設計されるため、スラブの安全性に関しては地震力の話(地震が発生した場合どうなるなどの話)はスラブ解析の妥当性に全く関係のない話でもある(議論しても意味のないことである)。
従って、法律等をそのまま適用すれば、本マンションは同施行令及び告示などに違反していないと言い切れるものではないが、慣行的に当該問題(床のたわみや過大な亀裂)などについては、当該違反箇所が是正され、仮に当該変形が弾性範囲内に修復可能であるならば、回復したという右の結果等により違法な状態は除去されたとみなされるため、部材に発生した変形や損傷が弾性変形範囲内であるか否か、ということは補修または、補強の点から非常に重要な論点となる。
弾性剛性(剛性の低下)
以上の点をふまえた上で、不静定構造物の解析をおこなうのであるならば、応力および変形の算定は、弾性剛性に立脚した、弾性理論により部材の曲げ剛性、せん断剛性、軸方向剛性にもとづいておこなわれるべきである。
構造物に生じる応力度が地震時に、短期許容応力度や、それを超える状態になると部材には、局部的に亀裂が発生し最初の弾性剛性よりかなり低い剛性を示すようになると考えられているが、本件によって、長期許容応力度程度の応力でも、右の低下は生じることが証明された。そして、斯様な現象を剛性の低下とよぶ。
日本建築構造技術者協会中部支部は、一般の消費者が看破し難い、当該部材に局部的に発生した亀裂等を考慮せず、剛性の低下には該らないとして慣行の『長期荷重に対する構造解析はほぼ弾性範囲である』という仮定理論に基づいて、剛性の低下をあえて無視せざるおえなかった何らかの理由が存在したのではないかと考える。
しかし、現実に、当該部材に過大な亀裂や20mm〜30mm程度の変形が生じており、これによりスラブに剛性の低下が生じていると考えられる場合、静定構造物やリミットアナリシスの理論などから、イールドヒンジを形成できる骨組であれば、力学的に剛性の変化は応力分布にさほど影響がないように思われるが、剛性の低下と不静定応力とは、互いに関連をもち、低応力から高応力に移るにつれて応力分布も変化するため実情に、より近い応力の推定は極めて重要となる。
この応力分布の変化は、弾性体でないものには、必然的に起こり得るものであり、応力と変形が比例しないがゆえに生じる現象であるが、このため、弾性理論の基礎が崩れ、重ね合せの法則も成り立たず非線形解析などが必要とされる。
確かに、一般の設計全てに弾塑性非線形解析などを実施していたのでは非常に煩雑である。しかしながら、本件においては、剛性の低下は明らかであるため、最低限、構造解析を行うのであれば、部材の降伏以前の剛性変形を割線剛性として、これを繰り返し計算することで、当該スラブに発生する応力を略算的にでも推定するなど、何らかの方法によって応力および変形を実情により近い状態にして算定するべきであったが、それも現実に、剛性の低下が生じてしまったスラブ、すなわち「弾性剛性に立脚した弾性理論の基礎」が崩れた実情下におけるスラブにおいては意味のない理論上の作業である。
つまり、床(スラブ)の構造解析(断面2次モーメント等の全断面を求めて、曲げ変形、せん断変形、軸方向変形に対する弾性剛性を算定)や、部材の変形(曲げモーメントおよびせん断力による変形)の考慮や、平成12年建告1459号. 建築物の使用上の支障が起こらないことを確かめる必要がある場合及びその確認方法を定める件(たわみが構造計算書上の数値以内なのでok)などは、長期荷重時にクリープなどが作用しない状態にあって、かつ、ほぼ弾性範囲内において、算定されなければならず(使用上の支障が起こってから、妥当性を判断しても意味がなく)、ほぼ全住戸にて剛性の低下が生じてしまってからでは、部材の妥当性を判断することは、構造士においてさえ極めて困難であると解するのが相当であろう。また、当該たわみが、構造計算書上、許容されるとする数値内での変形にもかかわらず、使用性に支障が生じているということは、弾性たわみの算定(1,45mm等)若しくは、その16倍という数値の算定等何らかに問題があったことにもなろう。
修復性(弾性変形内への修復可能性)
また、部材に発生した変形や損傷が弾性変形範囲内(当該違反箇所が是正され、弾性範囲内に回復可能)であるか、否かについては、本件については、瑕疵(欠陥)の程度からみても補修は、その目的が「劣化した部材あるいは構造体の今後の劣化拡大等を抑制し、かつ、耐久性や機能を回復することで現状を維持すること」であるため本件については、基本的に現状の維持を目的とした、「補修」=表面処理工法、注入工法や充てん工法および断面修復工法等)は妥当ではなく、劣化した部材や骨組の剛性回復や荷重に対する強度の増加等が目的である「補強」が必要となろう。
しかしながら、「補強」については、(1)補強材の追加、(2)コンクリート断面の増加、(3)部材の追加、(4)部材の交換、(5)支持点の追加などが考えられるが、本マンション構造計算書を見る限り、基礎などに余裕がないため、(2)コンクリート断面の増加【増厚工法等】、(3)部材の追加【小梁増設工法】などは考えられず、また、(1)補強材の追加【鋼板接着方法】および【繊維シート接着工法】などは、コンクリート部材の引張応力作用面に接着させて、性能の向上を図る工法ではあるが、変形した部分は元に戻らない(弾性範囲内に回復不可能な)ため、これも考えられない。
さらに(5)支持点の追加【支持工法】は、部屋の中央に柱などを新たに追加増設するというものであるが、これも荷重に影響するであろう。
従って、残る候補としては、(4)部材の交換【打ち換え工法】しか考えられないが、これは、スラブなどを一旦、取り壊して新たに鉄筋を配置し、プレストレスを導入してコンクリートを打設するというものであり、本件瑕疵が局部的な瑕疵なら妥当であるが、ほぼ全住戸となると現実的でない。
以上、上記問題点を、まとめると部材に発生した変形や損傷は、それらは全てが、平常時(地震発生時でない日常時)であるならば、設計上の問題にせよ、施工上の問題(施工上のミスでもコンクリートの自重(死荷重)は常に作用しており、その荷重に耐えられる強度でなかったため変形していると考えられるため)にせよ、いずれの場合にもその変形等(瑕疵、欠陥)が弾性変形範囲内(元に戻る変形の範囲内)でなければならない。
ちなみに、大地震発生時には塑性変形(弾性変形を超える元に戻らない変形すなわち、過大な損傷等の発生など)は許容される。
また、建築基準法、同施行令及び告示などには、『構造物には使用上の支障が起こってはならないこと(剛性の確保=変形が生じない強度の確保)と、瞬間的破壊が生じないこと(靭性の確保)が必要である』と要求されているが、これらの同施行令及び告示などの規準等を遵守しなければならない立場にある国土交通省など当該特定行政庁が、現時点まで、本件および本件に類似する案件などを慣行的に、看過あるいは、これらに対する明確な見解をかわし、回答を変遷させてきたことが、本件欠陥マンション問題や同様の案件への発生要因の一つとなったことはいうまでもないが、かような当局らの法規に対する『最も基本的な心構え』を遵守しない姿勢に関しては、国民の法意識および法感情から背馳したものであるといえ、我々、一般消費者は常に右のこと(欠陥マンションは稀でないこと)を認識しておかねばならないであろう。