Maid & Earl 3



  「ど、どちらのケーキを召し上がりますか」
  「え、あ、その端っこのレモンのやつを。半分でいいから」
  箱の中でも、大きめのケーキを示す。
  甘いものは好きだけど、紅茶もなしに丸々一つはちょっと重い。かといって、他のではちょっと足りない。残り半分は、夜にでも食べればいいだろう。
  「はい、分かりました」
  半分とお願いしたのに、ティルダさんは全部を紙皿に移してしまった。そのまま箱を閉じてしまう。
  「あれ、ティルダさんの分は?」
  「私は後からいただきますから」
  ティルダさんは言いながら、紙皿の上でケーキを半分にする。なぜか頬が赤くなっている。
  首をかしげて見守っていると、さらに小さく切り分けて、その欠片をフォークに乗せて、そして、僕の方に差し出した。
  「……ど、どうぞ」
  「……え?」
  思わず、ティルダさんの顔を見つめてしまった。
  「……どうぞ」
  顔を伏せ、でも赤い頬をしたままもう一度言うと、フォークを僕の口元に近付けた。その下には、落とさないように添えられた白い手の平がある。
  「若様、その、あーん、してください」



日々の中で少しずつ変わっていく、二人の関係。



  「以前から、考えていました」
  すぐ隣から僕を見つめる瞳が揺れている。
  「私は、若様のお役に立てているのでしょうか」
  そんなの、決まっている。
  「もちろん。僕にとって必要な人だよ。ずっと前の、カフェで再会した日から、とても感謝してる」
  この気持ちをどう言ったらいいんだろう。酔っている頭では、うまい伝え方が浮かんでこない。
  ティルダさんは、僕の方へ身体の向きを変えた。
  「若様にとって、私はどんな存在なのですか」



そして訪れる、転機の日。



  「そりゃ、今日は記念日だからね」
  「記念日、ですか」
  僕は首をひねる。今日という日に何か特別なことがあったという記憶はない。
  引っ越しの準備は僕の荷物が残っているし、領地の館でやるお披露目の用意も、当然ながらまだできていない。
  強いて言っても何もない。
  僕の表情を見て、少佐は苦笑した。
  「いや、君じゃないよ。あるのは私の方」
  手を頭の後ろで組んで、身体をソファへ預けた。
  「ここから遠い場所へ転属するんだ。その記念さ」



「僕」とティルダさんと、一匹の猫の話。

完結編。





「冗談なんかじゃないよ。あの夜と違って、私も君も酔っていない。今度こそ、あの夜を現実のことにしたい」

「いってらっしゃいませ、旦那様」





発行日:
2011年 コミックマーケット81(予定)

頒布スペース:
12/31 土曜日 東4 レ-17a 「boox」     委託先:未定

タイトル:
「Maid & Earl 3」

サイズ:
A5



表紙/挿絵
Primeさん(12/31 土曜日 東3 カ-04b 「LOFLAT」)
趣味を織り交ぜる日記

執筆



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