シリリッド


(1)流星群「シリリッド」現る

1913年2月9日午後9時5分ごろ、カナダのトロント市上空に珍しい光景が観測された。北西の空に赤い火の玉が現れた。それは近ずくにつれて大きくなり長い尾を引いていた。
この火の玉は1つだけではなく、最初に尾を引く1つ、その後に3〜4個の集団(しかしこれは最初の物ほど尾は長く無かった)、そしてその後に尾を引かない1つの星、そして最後にも尾を引かない星が観測された。これらはいずれも同じ進路をたどって南西の空に消えていったのである。
また、これらの物体が見えなくなってすぐに多くの地点で大音響が3回、短い間隔を置いて聞こえたという。この音響はかなり大きく地面や家屋を振動させたほどであった。
この壮大な天体ショーが実際にどれくらいの時間があったのかは正確には記録されていないがおそらく3分ちょっとあったのではないかとされている。
そしてこの天体は観測された2月9日の聖シリルの日(St. Cyril's day)にちなんで「シリリッド」(Cyrillids)と名づけられた。(天体が1つではなく複数あったことからCyrillidsと複数形に書かれており英語音に近づけて言えば"シリリッズ"と言ったほうが近いかもしれないがここでは参考文献の表記に従い"シリリッド"とする)


(2)シリリッドはただの流星では無い!?

この様な天体ショーはまれではあるがまったく無いわけではない。隕石の落下と思われる現象は世界各地で観測されている。シリリッドがそう言うものであるなら特にこの場で詳しく述べるほどの出来事でもない。しかしシリリッドは普通の隕石の落下とは少し違っていた。
トロント上空に出現したシリリッドは地球に降下する様子は全く見せず地表と完全に水平をなして南西の方向に向かいそのうち距離が遠くなり見えなくなってしまったと記録されている。またこのシリリッドはトロント以外でも西はカナダのサスカチュワン州リジナ(Regina)、東はブラジルのサンロケ岬(Cape Sao Roque)でも観測されている。またリジナとサンロケ岬を結ぶ線上のニューヨーク、バーミュダ海上の船舶などでも数多く観測されたと言う事が後の調査により分かった(図1)。さらにそれらの観測された地域は幅が非常に狭く、いずれの地域でもシリリッドは地表と水平に飛行していたという。
シリリッドが観測された地域とそれらをもとにしたシリリッドの軌跡


(3)シリリッドは第2の月!?

ここで注目すべき点は3点。
1点目は、リジナとサンロケ岬は地球の中心からの角度が約60°ある事。2点目は観測された地域の幅が狭いこと。そして3点目はリジナ、トロント、サンロケ岬など各地域でシリリッドが地表と平行に飛行していたことである。
この3つの事実をもとに描いた図が図2である。
この図から言えることはシリリッドがほぼ円軌道上を飛んでいたということである。もしシリリッドが地球に対して低速の隕石であったならば、地球の近傍では円軌道ではなく放物線の軌道を取ることになる。そういう天体は大気圏に対してある角度を持って突入することとなるためすぐに落下、消滅してしまいリジナやサンロケ岬の様な離れた地域で観測されることは無い。
シリリッドがリジナやサンロケ岬で水平に飛行していた観測結果は、それが円軌道であったと考えなければ説明出来ないのである。
つまりシリリッドは地球の衛星、第2の月であったと言う事になるのだ!!

リジナとサンロケ岬とでシリリッドが水平に観測されたことはそれが円軌道であった証拠である。


(4)2回目は観測されず

シリリッドが群をなして観測された事は恐らく大気圏に入った時の衝撃で1つの小天体がいくつかに分裂したためと考えられる。分裂した物の中に尾を引いていないものが観測されていた結果から、いくつかのものは大気の減速作用が比較的小さな高い軌道にまだあったと考えられる。シリリッドの群の中のいくつかの物はさらに地球を1周した可能性も考えられる。
このことを確かめるためにシリリッドの軌道を計算し2回目に出現するであろう地域を予想しその地域での目撃情報の調査が行われた。シリリッドの周期は約90分と計算さた。90分後に現れる地域はアメリカ中西部と予想され、そにはネプラスカ、アイオワ、ミネソタ等人口の多いい地域があるた。もしシリリッドが地球を1周してそれらの上空を通過したのなら必ず目撃情報があるはずであった(当日の天候はいずれの地域でも晴れであった)。しかし結果はいずれの地域でも流星の目撃情報は得られなかった。シリリッドはサンロケ岬を通過した後にすべて大気圏に突入したものと考えられる。


(5)シリリッドの生い立ち

シリリッドが地球の衛星であったとすれば、それはどの様にして地球の衛星になったのであろうか?図 はシリリッドが地球の衛星になって落下するまでを想像したものである。

1:地球に対してある相対速度を持っていた小天体が地球の引力圏に入り地球に衛星となる。この時の軌道は楕円軌道であったと考えるのが自然である。
2:この小衛星は巨大衛星"月"の引力による影響、摂動により軌道が変化して近地点が地球の大気の影響を受ける高度まで下がる。
3:近地点での大気の減速作用で軌道の遠地点高度は徐々に下がっていく(衛星軌道は近地点で減速すると近地点の高度はほとんど変化せず遠地点の高度が下がる)。その結果、小衛星の軌道は低高度の円軌道に近づく。
4:大気の影響で軌道が維持できなくなり、大気圏に突入する。


シリリッドは恐らく以上の様にして地球の衛星となり最後に壮大な流星ショーを見せたものと思われる。


(6)宇宙のロマン…

シリリッドが実際どれくらい地球を回っていのかはまったく不明である。地球はには巨大な衛星"月"があり、この月の摂動により衛星は半永久的に安定軌道を取ることは出来ない。シリリッドな地球軌道に存在した期間はいくら長く見積もっても数百年が良いところであろう。または地球を数周しただけかもしれない。いずれにしろ地球の歴史から見れば一瞬の出来事であることには違いはない。
しかし一度起こったことは以前にも、そしてこれからも同様なことが起こるということである。現在もひょっとすれば地球の軌道上に天然衛星が存在するかも知れない。しかしもしその天然衛星を見ることが出来たとしても我々はそれを大きな出来事と感じることは決して無いだろう。
「あっ、人工衛星が見えた。」それだけに終わってしまうからだ。 文明の発達とは時として人々からロマンを奪うものなのであろうか...。
(第1版 2000/12/15)


参考文献
「科学読売」(1961年11月号)
Entry of a Natural Satellite?
LIGHTS IN THE SKY (シリリッドのスケッチ図有り)

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