惨敗の民主党と前原誠司氏の代表選出に思う
2005年9月17日、民主党の惨敗を受けて、民主党は新代表に前原誠司氏を選出した。前原氏は1962年
生まれ、大枠では「新人類」世代に属する。ついに、わが国の政権中枢争いに「新人類」世代が参入
する時代となった。それに、僕は感慨とともに危惧を抱く。
まずは、民主党惨敗の要因を考えてみよう。マスコミで語られているのは、
1.自民党との違いがはっきりしない。
2.「改革を止めるな!」と叫ぶ小泉純一郎首相に「改革」のお株を奪われてしまった。
3.郵政民営化についてあいまいな姿勢をとったため、「改革」への態度が鮮明にならなかった。
4.「刺客」騒動などの「小泉劇場」に埋没してしまった。
といったところである。それぞれ、検討してみよう。
1.についてはたびたび指摘される民主党の宿命であり、2.や3.の論点もこれに重なる。
松下政経塾出身者に多く見られるような、新自由主義・市場原理主義と軍事大国化の
両面で自民党よりも右寄りの勢力の「元気さ」が目立つ一方で、労働組合の全国センターである連合
(日本労働組合連合会)の支持を得ていたり、旧社会党や市民運動の流れを汲む人権派、福祉重視派、
ハト派なども抱え込んだりという幅の広さがあって、党全体のイメージがあいまいなところがある。
元気
があるのは前原氏に代表されるような「自民党より右」の勢力だが、リベラル派の存在も無視できず、
大衆的支持基盤の面でも、右から自民党への不満を持つ層と左から自民党を批判する層の両方を抱え
ることになっている。マニフェストも、安全保障政策はあいまいな記述にし、他は新自由主義政策と
リベラルな政策とが接木されるようなものになっている。つまり、「自民党より右」の政策と
リベラルな政策が混在する。
この民主党の性格は、従来は実力以上の集票力を民主党が持つ要因となってきたことを忘れては
ならない。自前の組織が脆弱なこの党が、まがりなりにも「2大政党」の一角を担ってきたのは、
さまざまな面から自民党政治に不満を持つ層が、それぞれに自由な(勝手な?)思い入れ
を込めて民主党に投票してきたからである。それを無視して、民主党の性格が鮮明でないことを
外在的に批判しても、民主党の支持を減らす以外の意味はない。私はそういう民主党批判
をためらうものではないが、民主党を応援する立場からのそういう批判は、民主党の主流を左右
いずれかの方に引っ張ろうとする以外の意味はない。つまり、政治学的な営為という意味ではこの手
の批判に意味はなく、政治学者がこの手の批判をする場合には、それは政治学的な分析なのではなく、
自らの政治的立場を表明しているに過ぎないということである。
基本政策では、むしろ自民党との違いが目立たなくなってしまう。以前は政策的整合性に問題が
あったとしても「反自民」色を優先してリベラルに見えることを掲げたことも多かったし
、経済政策では自民より右の新自由主義的な位置取りが目立ったとしても
それは利権国家の解体という意味では国民にはリベラルに見えていた。現実は単純には自民党より
左とは言えなくても、国民にとっては自民党より左に見えることが多かった。それが、ときを経る
ごとに「責任政党」の名のもとに、そういうリベラルに見える面を減らし、小沢一郎氏の自由党との
合併後には消費税増税と改憲をマニフェストに掲げるにいたった。イラク戦争と自衛隊のイラク派兵
には反対してはいるが、小泉首相は民主党の姿勢を見透かすかのように「民主党が政権の座にあっても
自衛隊のイラク派遣に反対と言えるのか」と挑発した。この民主党の方向転換の影に、財界との関係が
あったことも指摘されている。2003年のマニフェスト作成過程で民主党は日本経団連と懇談をもち、
その席で消費税増税と改憲をマニフェストに盛り込むことを日本経団連から要望され、その後
発表された正式なマニフェストでは消費税増税と改憲が盛り込まれていたからである。
基本政策を別にすれば、民主党のいろいろな態度表明の特徴は「ウケねらい」だろう。強力な組織を
持たない民主党の頼みの綱は無党派層であり、浮動票である。基本政策や、郵政民営化のような
党内の諸勢力に配慮せねばならない政策の場合、党内力学も重要な意味を持つが、それ以外のことに
ついては、どのように自公政権を批判してみせれば世論にウケるかということが大きなポイントに
なっている。そして、やってみてウケが悪ければ軌道修正をする、という姿勢が、ときに右往左往の
ドタバタを演じさせてしまう。3.で指摘した解散後の郵政民営化をめぐる態度のドタバタ、すなわち、
当初は「郵政民営化は争点ではない」と大見得をきっておいて、世論が郵政民営化に好意的であること
がわかると、「郵便職員の大幅削減」を含んだ「真の郵政改革」を喧伝しようとした、というのは
その典型であった。
ウケねらい、という点では4.の「小泉劇場」を演出した小泉首相の方が一枚上手だったのだから、
小泉自民党に民主党が敗北したのはむしろ当然、という話になってしまう。
さて、前原氏である。民主党が前原氏を代表に選出したのは、若さや新鮮さという要素への期待が
ある、という論評が一般的だった。しかし、政策面では民主党は明らかに右旋回を選択した、という
ことの方が重要なのではないか。総選挙の敗北は、民主党が改革派に見えなかったからなのだから、
もっと鮮明に新自由主義
改革を推進する党になる、という決意のあらわれだということだ。そして、前原氏は改憲や安全保障
政策の面でも踏み込んだ発言をしていた。これには、党内から反発が出て、アフガニスタンの米軍支援
のための自衛隊インド洋派兵の延長に賛成することは実現しなかったし、改憲でもややトーンダウンを
余儀なくされて、民主党の「憲法提言」では9条改憲を明言しながらもその方向性を明確に示すことは
できな
かった。それでも、民主党の大勢が改憲を前提に議論していることの意味は重い。党内護憲派がなお
根強い抵抗を示し、その帰趨は明らかでないとしても。
もうひとつ、前原氏の「新人類」性をどう見るか、ということがある。「新人類」にとっては、所有
している情報において、直接の体験によって得た情報と、テレビを中心としたマスメディア経由で得た
情報とでは後者の方が多い。それは現実認識がリアルでなく、バーチャルな性格を帯びるということ
である。前原氏の言動の特徴は、確かに歯切れはいいのだが、認識がテレビ的というかゲーム的という
か、表層の動きには精通しているのだけれど、その奥とか裏にあるものがとらえられていない。
言い換えれば、認識に時間(歴史)的にも空間(国際)的にも奥行きがない。時間と空間の重なりに
よって現実世界が成り立っていることがよく理解できず、ブラウン管を見るように世界を眺めて
しまう、ということであろう。これはわが世代が世代として共有する世界観であって、
トップリーダーとしては致命的な欠陥である。
表層の動きをとらえるのに長けていいることは、サブ・リーダー(中間的なリーダー)としては能力を
発揮することも多いのだけれど、トップリ−ダーとしてはそれでは足らない。安倍晋三氏に代表される
「お坊ちゃん右翼」にもリアルな現実感覚はないのだけれど、それはお坊ちゃんであるがゆえに
ナマの生活体験が不足しているところから来るもので、階層的なものであって世代的なものではない。
この「新人類」世代の特徴は三木谷浩史・
楽天社長にも共通するものである。堀江貴文ライブドア社長(ホリエモン)は、団塊ジュニア世代で
彼の言動にも団塊ジュニア世代の特徴がにじみ出ている。「新人類」との違いは、良くも悪くも素直な
屈託のなさであろう。
前原氏の民主党代表就任は、ついに「新人類」世代がトップリーダーの一角を占めるようになった
という現実を示している。しかし、それは同時にその危うさを示すことであるということだと
私は思う。
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