成田美名子作品における女性キャラクターの役割を考える

 本稿は、1997年にあるコピー誌に寄稿したものです。内容はやや古いし、否定的言及ばかりですが、 成田作品がいかに「男の世界」で構成されているのか、を浮き彫りにすることができたのではないかと 思いますので、upすることにしました。


 成田美名子の世界は「男の世界」である。主人公の男性キャラを中心に「男の友情」が展開され、 それを軸に作品が構成される。その成田美名子の世界における女性キャラの位置について作品の 年代順に検討してみたい。
 「みき&ユーティ」シリーズは男子校の話である。みきにもユーティにも恋愛はあるが、それは 「淡い初恋」のレベルであり、後の成田作品に見られるような人格形成上の位置づけは与えられて いない。ルシフィンの「押し掛け女房」は異色ではあるし、その突飛な行動や芯の強さなどに魅力を 感じない訳ではないが、彼女の生き方の基本は古風なものであり、古典的な「女の悲劇」である。 その物語自体がいかに彼女に振り回されようと、彼女の生き方が、主体的な選択として、成田によって いかに肯定的で正当なものとして描かれようと、そこでの彼女の主体性は「一週間の恋愛」に しかない。
 『あいつ』ではみさとが主人公になっているが、『あいつ』に恋愛の要素はそれこそ影も形もない。 みさとが女性であるのは、彼女の悩みが読者と共有できるものであったからである。涼や七穂との 関係は、彼らと友情を育む中でそうした悩みを乗り越えていくというところにあり、その意味で みさとは「女」扱いをされていない。『あいつ』の主題は確かにみさとの成長にあるが、それは涼と 七穂の魅力的な生き方に触れることによるものであって、みさと自身はそんなに主体的に生きる キャラとはなっていない。
 『エイリアン通り』における翼の存在は大きい。翼抜きにこの作品は語れない。しかし、翼はいわば 「読者代表」の、「女の子らしい」女性である。シャールと翼の恋愛は確かにこの作品の主軸の一つを かたちづくり、翼が恋におけるためらいを「デスバレーに捨てた」後は、焦点は「ホーム」を 失うことへのシャールの恐れと関連させられる形で、2人の恋愛が問題にされる。しかもその恋愛の 中身は少女マンガの古典的パターンである。テロリストによる翼とシャールの誘拐・拉致・監禁と その救出というドラマの中でこの恋愛は感動を呼ぶものとなっているのであり、恋愛そのものが 主題となって物語が組み立てられている訳ではない。
 それから、『エイリアン通り』においては、まともに人格として扱われる女性キャラがほとんど 出て来ない。『エイリアン通り』で女性といえば翼のことである。ナーディアにしてもバージニアに しても、その人格はシャールや翼やセレムを描くための道具立てに過ぎない。例外として小夜子が いるが、そもそも小夜子が登場する4st.全体がひとつのエピソードという側面がある。翼と小夜子の 関係だけが、この作品の中で描かれる唯一の女性同士の関係であるが、これとて翼にとって進行形の 関係とは言えないのではないか。
 『CIPHER』では、これまでと一転して女性が重要な役割を果たすようになる。5巻までの 導入部分では、アニスによって双子たちの人格が明らかにされ、アニスとサイファの恋愛を中心に ストーリーが展開される。アニスとルース、後にモリーの女性同士の関係もストーリーのカギとなる 重要な位置を占めている。「シヴァ」をめぐっての「女の世界」のさやあても登場する。 『CIPHER』が「男の世界」であることに変わりはないが、複数の女性キャラが決定的な役割を 割り当てられているという点では、他の成田作品とは区別される。
 『ALEXANDRITE』におけるアンブローシアの比重は、『エイリアン通り』における翼や 『CIPHER』におけるアニスと比較してもさらに大きい。彼女とレヴァインの葛藤に含まれる ものこそがこの作品のテーマそのものであるからである。全編を通じて行きつ戻りつする2人の 関係に、我々はレヴァインの成長やアンブローシアの成長を見るのではないか。ただ、 『ALXANDRITE』においても、女性同士の関係はほとんど登場しない。辛うじてマーシアと アンブローシアの関係がわずかに描かれるだけなのである。
 『NATURAL』においても、「男の世界」一色である。前の作品と比較して、個々の女性こそ たくさん登場するが、それは「男の世界」の男たちを軸として展開され、女性同士の関係には大きな 展開はない。
 ただ、『NATURAL』「前哨戦」(1巻所収)は、リコを中心とする「女の世界」で展開 されたという成田作品では類例を見ない作品となっている。このことは、管理社会日本における 人間のあり方についても問題提起を含んでいることからも『NATURAL』本編への重要な伏線を なしていることともに、重視されるべきであると考える。


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