KanonSS/栞ダーク/バッドエンドver/
(このSSは、korieの『さくらんぼ』とは一切関係ありません)

 これは酷い話です。非難や中傷も遠慮せずお寄せ下さい。







 生きていたくなんてなかった。




「螢」‐prologue『さくらんぼ』





 手術用の眩しいランプと、無機質なお医者様たちはいつも私より上にいた。
 徐々に意識が薄れていく感覚と、目が覚めた時のどうしようもない違和感にも、私はいつの間にか慣れてしまっていた。

「……ん…」
 突然目の奥に刺し込む眩しい光に、私は開きかけたまぶたを反射的に手で覆った。
「…あ、起こしちゃった?」
 聞きなれた声。お母さんの声。
 照りつける光が人工のものではないということに、私はここが手術室ではなく病室だということを感じた。
「…ほら、いい天気よ」
 お母さんの声を受けながら、なんとか目をこじ開けて枕元に置いた時計を見る。
 時刻は朝の七時半。刺し込んでいるのは朝日。
 ゆっくりと上体を起こす私に、お母さんは振り返って、私の顔を目を細めて見つめた。
「…手術、何の問題もなかったそうよ」
「……そう」
 私は安心したように微笑みかける。お母さんはそんな私を見て、寂しそうに、でも笑った。

 成功したのは手術。そう、ただそれだけ。
 私を助けるためのものではなく、私の命を引き延ばすためだけの。



 誰もいなくなった病室で、私は窓の外を眺めていた。
 外の世界は青く澄みわたり、あまりにも完璧過ぎて、絵画の中を覗いているような錯覚さえおぼえる。
 ……いいえ、きっと絵の中にいるのは私のほう。
 どこまでも冴えきった世界に覗き込まれ、世界は私を見て、思わず口元に手を当てる。

 『なんだ、まだ生きてるよ』
 『かわいそうにね』

 そして、完璧過ぎる世界が滲んでゆく。
 私を描いた絵の具が、溶けて流れる。

 誰もいなくなった病室で、私は独り声を殺して泣いた。





 生きていてよかったと、いつか思える日が来るんですか?
 生かされていてよかったと、そう思える日があるのですか?
 「生きる権利と、幸せになる権利は、誰にでもある」
 ねえお医者さま、テレビの人。
 生かされなければいけない義務も、誰にでもあるのですか?
 何キロもの機械を埋め込まれて、色とりどりのチューブにつながれて、
 そうまでして私は、生きていなければならないのですか?


 それは私のため?
 お母さんのため?
 お父さんのため?
 お姉ちゃんのため?
 お医者さまのため?

 私は生きていたくないのに。



 私はもうすぐ死ななきゃならない。
 それがわかりすぎるほどよくわかって、逆に少し微笑ましかった。



<つづく>




 これは栞の話です。
 病気、治療に関してのオリジナルな設定をいくつか含んでいますが、基本的に本編に準じます。

 繰り返しますが、これは酷い話です。
 不快感や怒りを覚えた方には、心から謝罪致します。
 なお、このSSは作者本人の愉悦のためではないことを重ねて明言させていただきます。


詐欺師



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