ヴェーテルさんに感謝を込めて。








「今年が終わる前に渡したいものがあるんだ」
彼は電話でそう言ってわたしを誘った。
わたしはそれを二つ返事でOKした。


何時も通りの喫茶店で彼を待つ。
最後に会ったのはクリスマスの日。
あれから数日は声も聞けなかった。
寂しかったがあの日十分に甘えたことを思えばお釣りがくる。
けど、寂しかったことに変わりはなかった。
「佐祐理さん」
「ふぇ」
突然声をかけられ驚いてしまう。
目の前には彼がいた。
「どうしたの?」
「祐一さん、いつからそこに居たんですか」
時計を見ると待ち合わせの時間は過ぎていた。
「少し前かな」
「そ、それじゃあ…」
彼の目を見て恐る恐ると尋ねる。
彼はそんなわたしを見て一言。
「可愛かったよ」
自分でも顔が真っ赤になったのがわかる。
嬉しいけど意地悪な答え。
「怒るに怒れないじゃないですか」
思わず口に出るそんな台詞。
そんなわたしを見て彼は笑う。
「これで機嫌を直してくれないかな」
花束をそう言って差し出す。
「本当に、ずるいです」
笑顔での答え。
優しくて意地悪で子供っぽい彼。
わたしはそんな彼が好き。
「さ、それじゃあ行こうか」
そう言うと(何時の間にかに来ていた)紅茶を飲み干し立ち上がった。
「あの、祐一さん。
今度はすぐ声をかけてくださいね」
彼は笑ってそれには答えなかった。


彼の車に乗りレストランへと向かう。
「そう言えば佐祐理さんは免許取らないの?」
「取らないと思いますよ」
「何で?」
「祐一さんがいますから。
わたしは祐一さんの隣に居たいんですよ。
それに…」
「それに?」
「こんな事も出来ますから」
言うが早いか彼の頬にキスをする。
予想外の出来事にビックリしたのか脇に車が止まる。
「佐祐理さん」
「はい」
「えーと、その。
…やっぱり取らなくていいよ」
目を泳がせながらの台詞。
照れている彼をみてクスッと笑う。
そんな彼にもう一度キスをする。
少しだけ長いキスを。


「――以上でお揃いでしょうか」
「はい」
食後のデザートを楽しんでいると彼が質問をしてきた。
「佐祐理さん」
「はい、何でしょう祐一さん」
「気のせいかもしれないけど最近よくここで食事をしてないか?」
どうやら疑問に思っていたらしい。
「はい、お気に入りのお店ですから」
「そーなの?」
「雰囲気もいいですし、お料理も美味しいですから何回でも来たくなりますよ」
「ふーん、確かにそーだね。まあ、だけど…」
「だけど?」
「いや、やっぱ何でもないよ」
「気になりますよ」
「恥ずかしいから」
「ますます気になります」
彼は観念したのかこう囁いた。
わたしの耳へそっと
「俺は佐祐理さんの手料理の方が好きだな」
と。


「車、運転できなくなっちゃいましたね」
花束を両手で抱えて夜道を歩く。
「こうやってふたりで歩くってのも偶にはいいんじゃないの」
「そうですね。綺麗なお月様をゆっくりと見れますし」
「もっと綺麗な月の女神はいつも見てるけどね」
「くさい台詞ですよ」
「佐祐理さんにしか言えない台詞だからな」
「もう…」
そういいながらわたしは彼に寄りかかる。
彼はわたしを見て微笑む。
「甘えん坊な俺の女神」
わたしはそんな彼をぎゅっと抱きしめた。


帰り道の途中にある高台の公園にさしかかる。 急に彼は立ち止まった。
「ふぇ、どうかしました?」
「公園、寄ってかない?」
そう言って目の前にある公園を指差す。
「はい、このまま帰るのは勿体無い月夜ですものね」
わたしの手を引き歩き始める。
目的の場所に向かっているかのように足取りに迷いはない。
どうやら中央にある噴水の方に向かっているみたい。
「そろそろいいかな」
「何がです?」
「遅くなったけど、私こと相沢祐一の本日最大のイベントを」
大仰な身振りを交え彼の舞台が幕を開ける。
「ここで、ですか」
「場所的にここが一番なのでね。
やりなおしが効かないから思い出のトコで、と」
「綺麗な噴水ですものね」
「まあ、そんなとこだ」
わざとあのことには触れない。
恥ずかしいのか、彼も触れない。
ここは、わたし達にとってもう一つの始まりの場所。
あの時は桜が咲く季節。
今は夜空を月と星が覆っている。
いつもわたし達と共にある思いでの場所。

わたしは彼の次の言葉に耳をすませる。
彼は一度大きく深呼吸をする。
そんなに緊張することって何だろう?
「佐祐理さんに、受けとってほしい物があるんだ」
そう言って彼は小さな小箱を差し出す。
中に置かれてるのは指輪。
「これを受け取ってほしい」
「…」
「佐祐理さんを愛してる」
彼を見つめ一言。
「わたしで…いいのですか」
「俺は佐祐理さんを愛してる。
他の誰でも無い佐祐理さんだけを愛してる」
「わたしも…祐一さんのことだけを…」
そっと左手を差し出す。
薬指にはめられる指輪。
月明かりの照らす中、影が1つになる。
祝福するように月が静かに見守っていた。


わたしは彼にこう囁く。


わたしはあなたのそばにいます。
これからもずっと――




戻る