VIPでアニメを作ろうぜ □暗転している ???(飛鳥)「それじゃあ、よろしく頼みますね」 ???(ナナ)「はい、任せてください。必ず解決して見せますから……」 リビングから、キーを叩く音が聞こえる 光一がノートPCを広げて、操作していた 九織「ただいまー」 光一「……」 玄関から九織の声が聞こえるが、光一はちらとそちらに目を向けるだけで、無視した 九織「あの、お兄ちゃん……」 光一「…………」 九織はリビングへ通ずるドアの向こうから気まずそうに光一に話し掛けた後、悲しそうに眉を寄せてとんとんと自室へと上がっていった 二人の仲は今、険悪だった 光一「……」 僕、別府光一と、妹の九織の仲が険悪になったのは、一昨日の事故が原因だった 光一『ねぇ九織、紅茶煎れてほしいんだけど、頼める?』 ノートPCを小脇に抱えた光一が、リビングへと入ってきた 九織『あ、うん、いいよ。ちょっと待ってて』 リビングに置かれている大机で週刊誌を眺めていた九織は、特に嫌そうな顔もせずにキッチンへと足を運んだ 九織『ねぇお兄ちゃん、いつもパソコンでなにをやってるの?』 光一『明日は大学のレポート提出日なんだ。仕上げをしてるところ』 九織『ふーん……』 キッチンから聞こえてきた声に返事をしつつ、ブラインドタッチで作業を進める光一 九織『そんなこと言って、また変なことしてるんじゃないの?』 光一『なんだよ、また変なこと、って……。別にやましいことなんか……』 嫌な汗をかきつつ、トレイに二つカップを乗せて戻ってきた九織に、光一が言った はぁ、と溜め息を吐きつつ、朴杖をついてパソコンに集中する 九織『ホント? でも、お兄ちゃんいつもパソコン触ってるから怪しい……きゃっ!』 小さな悲鳴とともに、九織がつまずいた 光一が顔を上げると、カップがパソコンと光一に向かって飛び掛っていた 光一『熱っ!』 九織『あぁ、ごめんなさい! 待ってて、拭くもの取ってくるから!』 九織が慌てふためきながらキッチンへ駆け戻った 光一は、紅茶が滴る前髪をそのままに、濡れてしまった服をつまむ 紅茶は、思ったほど光一にはかからなかったようだ ふと、バジッ! と何かが弾けるような音がして、光一は前を向いた PCが紅茶まみれになっていた 光一『ああぁぁぁあぁぁぁ!!?』 突然リビングから響いた光一の悲鳴に、九織がビクッとして、慌てて光一の元へ行った 光一はパソコンを床へ置き、手をつき膝をついてうなだれていた 九織『お、お兄ちゃん?』 光一『く、九織! お前のせいで、お前のせいでパソコンがノッキンオンヘブンズドア!』 九織『お、お兄ちゃん落ち着いて! パソコンが壊れちゃったの?』 光一『レポートも画像も音楽も何もかもが飛んだ! なんてことしてくれたんだ! この、馬鹿九織!」 九織『ご、ごめんなさい……』 発っされた罵声に、九織が頭を垂れた 光一は激昂して怒鳴る 九織『お、お兄ちゃん……』 光一『なんだよ! もういいから向こうに行っていてくれ!』 九織は悲しそうに俯くと、カップを拾ってとぼとぼとリビングから出て行った まったく、悪いのは向こうなのに、何時まで意地を張っているつもりなのか 光一は小さく溜め息をつくと、パソコンに向き直った そして、終了処理をし、ノートパソコンをパタンと閉じた □暗転 □街中 光一「えっと……」 大学、自宅からは徒歩で通っているため、帰宅途中に行きつけのCDショップに足を運んでいる 綺麗に陳列されたものを一つ取り、レジへ向かった 店員の抑揚のない感謝の言葉を背に、店を出る 上機嫌で足を進めると、視線の先に若い男がいた 飛鳥「いいかげんにしろ! もうこないでくれ!」 派手な格好をした若い男が、黒スーツにアタッシュケースを持った男を突き飛ばして怒鳴っていた その剣幕に、自分にそれが向けられているわけではないのにもかかわらず、息を呑む スーツの男は、逃げるようにその場を後にした 若い男は、小さく溜め息をつく 男が出てきた店を見上げると、怪しげ、というような雰囲気を醸し出した、黒がベース色の建物が建っていた 風俗……店か? 九織「飛鳥さん、こんにちは」 突然聞こえてきた声に、条件反射的に身を隠す 九織が、飛鳥をはさんだ向こう側の道にいた 飛鳥「ああ、九織ちゃん。こんにちは。今日も頑張ってね」 九織「はい!」 飛鳥が、その容姿と雰囲気には相応しくない爽やかさで言い、九織はそれに笑顔で答えた 九織、ここで働いているのだろうか? いや、まさか……な 物陰から二人の様子を見ていると、飛鳥は九織の肩を抱き、店へと入っていった その時、飛鳥はこちらを見、にやりと笑ったような気がした 光一「九織、大丈夫なのか……」 九織が、心配――― 光一「ふ、ふん。別に好きにすればいいじゃないか。僕には関係ないよ」 別にいいじゃないか、九織なんか 僕には関係ないね そう考え、光一は特に気にせず、家路についた □暗転 □再び街中 光一「はぁ……。やっとレポート出せたよ……。まったく荒巻の奴、あんなに減点しなくてもいいじゃないか」 歩きながら、一人ごちる それもこれも、みんな九織のせいだ まったく…… CDショップの前を、昨日と同じ道を通る なんとなく横目で黒の建物を意識しながら通り過ぎようとすると、昨日入った狭い路地から声が聞こえた 見ると、そこにはケータイを持った飛鳥がいた 一瞬目が合い、どぎまぎとしながらもなんとなく気になり、飛鳥の死角に身を寄せ、盗み聞く 飛鳥「どうした。……その件は、相手に足元を見られないようにしろと言っておいただろ。手に入るだけ仕入れて来い。いい素材が、最近少なくいんだ……。ん? 最近入った子? あぁ、九織ちゃんか。彼女はなかなかいい具合だ。高く売れるんじゃないか? 彼女のは」 会話の内容が一瞬理解できず、嫌な汗をかきながら聞き入る それから世間話のような会話を、飛鳥と電話の相手は続けた どういうことだ? 売れる、って……。 まさかとは思うけど、身売り……なんて、ありえないよな 考えをめぐらせていると、飛鳥が路地から出てきた 飛鳥は光一に目をやると、見下すように睨んだ後、店内に入っていった □自宅玄関 光一「はぁ……」 飛鳥のことが気になって、足取り重く玄関のドアノブを捻る まだ、誰も帰ってはいない 九織はあの男と、あの店にいるのだろうか 九織『ご、ごめんなさい……』 光一「九織……」 フルフルと頭を振りながら、ひとりごち、自室のある二階への階段を上る 目を瞑りながら、部屋のドアをあけた 瞬間、閃光とともに轟音 射るような青い光が、ノートPCのディスプレイから放たれている 光一「う、うわっ!?」 光に当てられ、後ろに転び、尻餅をつく 足音が聞こえる 青白い光を後光に、足音の持ち主の輪郭がはっきりとした 光一「あ、あなたは……!?」 ナナ「……あなたを、助けにきましたよ」 少女は、微笑んだ 小奇麗な狭い部屋で、男と女がいる 互いに膝を突き合わせ、床に正座している 光一「で、君何?」 ナナ「はい、私はナナって言います……」 光一「そう。じゃあナナさん、不法侵入って知ってる?」 ナナ「刑法百三十条 、住居侵入罪です。……というか、驚かないんですか?」 汗をたらしているナナを他所に、光一はケータイを取り出して、ボタンを押す ボタンが三回しか押されなかったことを確認するや否や、ナナは光一に飛びついた ナナ「うおーい! な、何をやってるんですか!」 光一「何って警察に……うわっ!?」 飛びつかれ、もつれながら倒れる ナナはケータイをひったくると、広がる限界以上に力を加えた 嫌な音とともに、ケータイが逝去された 光一「うおーい! な、何やってんですかあなたは!?」 ナナ「何って、俗に言う逆パカというやつを……」 光一は無残な姿になったケータイを見、いつかのように膝をつき手をついてうなだれた 光一「っていうか、あなた一体に何しにきたんですか……」 ナナ「あ、そうでした。えー、わかりやすく言うと……。あなたを助けに来ました」 光一「帰ってもらえますか……」 ナナ「何言ってるんですか! 妹さんがどうなってもいいんですか?」 ナナの言葉に、光一は眉を寄せた 光一「何であなたが九織のこと知ってるんですか」 ナナ「あ、いや……。と、とにかく、妹さんをあの男の人から引き離さないと、きっと大変なことになりますよ?」 光一「何であなたがあの男の人知ってるんですか」 ナナ「わ、私は、その……。いろいろ知ってるんです」 光一「ていうか、別に放って置けばいいじゃないですか。僕には関係ないよ」 不貞腐れた光一の態度に、ナナ声の調子を落とし、諭すような口調でいった ナナ「なにがあったか知りませんけどね、家族は大切にしなくちゃいけないですよ?」 光一「わかってるよ! だけどあいつ、僕の40GBの秘蔵データ集を……」 ナナ「そんなものが、本当に妹さんより大切ですか?」 光一「う……」 ナナ「いいですか? 家族っていうのは、どんなものも等価にはなりえない、世界で一番かけがえのない大切なものなんですよ? よく考えてみてください。自分はどうするべきなのか。意地を張っている場合じゃないでしょう?」 光一「…………」 九織『お兄ちゃん』 ふわふわと、頭の中で妹の姿を思い浮かべる 九織は優しくて可愛らしい、素直な出来た子だ それなのに、僕はこんなくだらないことを根に持って もしかしたら妹が危ない目にあうかもしれないのに 光一「……そうだよね。僕が間違ってた。パソコンはまた買えばいいけど、九織の代わりはいないんだもんね」 ナナ「わかってもらえましたか」 光一が照れ隠しに頭をがりがりと掻く ナナは優しく微笑むと、悦に入っていった ナナ「それにしても私、いいこと言ったなぁ……。そう思いませんか?」 光一「そうだね。今ので台無しになったけど」 呆れ顔の光一を見て、ナナが汗をたらす ナナはぱっと立ち上がると、決然と言った ナナ「と、とにかく! 今は妹さんと和解するのが先決です! 今、妹さんは何処に?」 光一「知らないよ」 ナナ「携帯電話とかで連絡を取れないんですか?」 光一はナナの言葉に、ケータイ電話を見せた ナナは気まずげに目を逸らす ナナ「では、正攻法で探しましょう!」 光一「正攻法?」 ナナ「空から探すんですよ」 ナナはそう言うと、ノートPCのディスプレイに手を突っ込んだ 光一「う、うわっ!? な、どうなってるの!?」 ナナ「私はスッレッド―ガールといって、ネット世界の住人なんです。人助けをする時にこうやって、リアルワールドに来るんです」 ナナは光一を見ながら、説明する 毒電波でも受信しているのかと疑われるような発言だったが、ディスプレイが波打って彼女を受け入れているところを見せられては、反論のしようがない 光一が困った顔をしていると、ナナが嬌声を上げた なな「あ、いました! ほら、出てきなさい!」 ナナがパソコンから手を引き抜くと、白い影が飛び出してきて、光一の鼻っ柱に激突する 光一「あいたっ!」 光一が後ろに倒れるが、ナナは大して気にとめず、飛び回るブーンを捕まえた ブーン「うはっ! ちょ、ナナちゃん、一体なんだお?」 ナナ「ちょっと協力してほしいの。お願いね?」 胸に抱きかかえるようにしてブーンを捕まえる ブーンは必死にもがいているが、体格が違いすぎる ブーン「ちょ! まだおkって言ってないお!」 光一「ってか、それ何……?」 ぶつかった衝撃で飛んでいったメガネをかけながら、言い合う二人を見、光一が呟く ブーン「あ、ブーンはブーンだお。よろしくだお」 ナナから抜け出したブーンが近くまで寄ってきて、手を差し出した 光一は戸惑いながらも小さなそれを受け取り、上下に降る ナナ「じゃあ、ブーン。私たちを空が飛べるようにしてほしいんだけど」 ブーン「わかったお。じゃあ、腕を広げて『ブーン!』って言えば、空も飛べるお」 ブーンが空中に浮きながら言う ニコニコしたその表情からは、いまいち何を考えているのか察しにくい ナナ「わかった! ブーン!」 ナナが叫んで腕を広げるも、何もおこらない 少しの沈黙が流れる ナナは二人の褪めた視線を一身に受けた ブーン「そんなんで空が飛べるわけないお。ナナちゃんは馬鹿かお?」 ブーンがつぶやくと、ナナの顔が真っ赤になった ナナ「ま、真面目にやってよ!」 ナナが照れ隠しに怒鳴るも、ブーンは特に動じた様子はない 光一は、そのやり取りに肩を微妙に落としつつ、見つめていた ブーン「わかったお。……うp!」 ブーンの掛け声と、手首をくいっと上げる動作で、そこにいた全員が空中に浮かぶ 光一「うわっ!? な、なに? これ!」 ナナ「驚いてる暇はないですよ、光一さん」 光一「ちょ、ちょっと待ってよ!」 さっさと外へ出て行ってしまったナナを、光一が平泳ぎで追いかける 光一「ていうか! 人が空なんて飛んでたら、通報されるよ!」 ナナ「あ、そうでした」 はっとした顔でナナが光一を見る ナナ「あ、でも私は、私を知っている人意外には見えないので、安心してくださいね」 光一「僕は見られると困るんだよ!」 ナナ「あ、気付きませんでした」 光一「おい!」 ナナが光一に近づき、手を差し出した 光一「な、何?」 ナナ「手を握ってください。あなたも見えなくなるよう、設定を変えます」  光一は少しためらうが、すぐに観念する 光一がナナの手に触れると、キュインという駆動音のような音が聞こえ、少し光った そのまま手をつないだ状態で光一の腕を引っ張り、ナナが急かす ナナ「さあ! 探しに行きますよ!」 光一「う、うん!」 ナナ「妹さんはこの時間、何処にいるかあては?」 光一「何処にいるかは知らないけど……。町の方に真っ黒な風俗の店があるんだ。たぶん、そこに……」 ナナ「わかりました! では、そこへ行ってみましょう!」 「ごー!」 と言うナナの威勢のよい掛け声と共に、三人は目的地へと、飛びたった 光一「ホントに僕達のこと、見えてないんだよね?」 ナナ「はい、見えませんよ? どうかしました?」 光一「わかってはいるけど、なんだか落ち着かないね。こういうの経験ないから」 人ごみから少しばかり外れた位置を、三人は歩いていた ブーンはナナの目線を飛んでいるので、歩いているとは言えないかもしれないが ブーン「でも、光を屈折させてるだけだから、物には触れるお。万引きするのに便利だお」 光一「へ、へぇ……」 ナナ「な、何言ってるの!? 犯罪はよくないですよ!」 光一「ナナちゃん、不法侵入って知ってる?」 ナナ「も、もうその話はいいじゃないですか……」 ブーン「ナナちゃん犯罪者かお、フヒヒwwww」 小馬鹿にしてきたブーンに、ナナが怒って飛びついた そんな二人に溜め息をつき、前を見上げ、眉を寄せた 真っ黒な建物が、そびえている ナナ「ここが、そうなんですか?」 光一「うん、ここに九織が入っていくのを見たんだ。……男の人と一緒に」 ナナ「飛鳥さんですか?」 光一「知ってるの?」 ナナ「あ、いえ、その……。知らないですよ?」 挙動の怪しいナナに怪訝な目を向けながら、マジックミラーの自動ドアの前に立つ 中は煌びやかな装飾品と、綺麗な女性や男性が大勢いた 違う世界に入ってしまったような、違和と心細さを感じた 光一「こ、ここ、ジュエリーショップじゃないか……」 ナナ「ですねー。あ、これ綺麗ー!」 困惑しながら店内を見回す光一 ナナとブーンは宝石に目がいっているようだ 光一「九織、いないのかな……。ってか、とりあえずはいかがわしい店じゃなくってよかっ……」 女性「きゃあああー!」 光一「な、なに!?」 突然聞こえてきた悲鳴に、背筋をはねさせて振り向いた そこには体中に宝石を身に着けてはしゃいでいるナナと、王冠のようなデザインのそれと大きなネックレスをつけてあたりを飛び回っているブーンがいた 一瞬で事態を理解する 彼女等は誰にも見えていない そりゃあ悲鳴も上げるよな…… 光一「なにやってんだよアンタら!」 ナナ「あ、光一さん! どうです、似合います?」 ナナがガラスケースの上に立ち上がり、くねくねとポーズをとる 光一「馬鹿! 騒ぎなんか起こしてどうするのさ!」 ナナ「あ、しまった」 光一「アンタって人はー!」 どうしてこう、迷惑なことしかしないのだろうか 店内を縦横無尽に飛びまわるブーンとあわせて、一瞬殺意すらよぎる 幸せそうなナナを睨みつけていると、ナナが声をあげた ナナ「あ、あれじゃないですか?」 光一「え?」 自分の後ろを指差され、後ろを向く 店の前に真っ黒な車が置いてあり、九織といつかの男が乗り込もうとしていた ブーンから逃げている女性がセンサーに拾われたせいで開いた自動ドア その隙間の先の男と、目が合った 再びにやりと笑う男 光一「ナナちゃん! あれだ! 追いかけるよ!」 ナナ「はーい。こら、ブーン。宝石はちゃんと置いていくの」 のんきな彼等を置いて、一人車に追いすがる 体を前傾姿勢に、スピードをあげる 車は予想以上にスピードを上げて、追いつくのがやっとだった ナナ「光一さん、待ってくださいよ!」 光一「あれに九織が乗ってるんだ! 何かあってからじゃ……!」 ブーン「うし、じゃあ、スピードうpだお」 ブーンが前傾姿勢だった体を起こすと、地響きのような音を立ててスピードが上がった ブーンにつられて光一とナナのスピードも上がる しかし、上げすぎだ 光一「ちょ、止めて止めて! 車、角曲がったよ!」 ブーン「光る風をー追い越してぇー!」 ナナ「あー……。スイッチが入っちゃったみたいです」 光一「もぉぉぉ!」 □港 辺りをとろりとしたオレンジが包み始めていた 完全に車を見失った彼等は、当てもなく辺りをさまよっていた 光一「九織……。九織……」 ナナ「いませんねー……」  ブーン「ウホッ! いい車……」 ブーンが車を見つけた 車は、港の傍の倉庫付近を走っていた 辺りには人影のない、いかがわしいことをするにはうってつけ、といった感じだ 光一「見つけたけど、どうしよう?」 ナナ「とりあえず、高度を落として様子を見ましょう」 ナナに言われるまま高度を落とし、車の少し上を飛ぶ ナナは光一の死角から車に向けて手を振っていた 車はそれを合図にするかのように、少しスピードを落とした 光一「ねぇ、どうするのさ?」 ナナ「まぁ、とりあえず行って下さい」 光一「え? うわぁ!?」 ナナが光一の背中を突き飛ばした さっきまで働いていたブーンの力も解け、重力にしたがって落ちていった 光一が車の少し前に尻餅をついて落ちると、車は急ブレーキをかけた ブーンが落ちる直前に力をかけたのか、光一はたいした怪我もないようだ 光一「ありえない……。普通に考えて、正気の人間のすることじゃない……」 ばたんと倒れ、痛む臀部をさすりながらナナに呪いの声をあげる そうしていると、車の助手席から九織が飛び出してきた 九織「お兄ちゃん、大丈夫!? どうしてここに!?」 光一「あぁ、光が見えるよ、九織……」 九織「お、落ち着いてお兄ちゃん! 大丈夫!?」 大丈夫だよ、と言いながら、肩を借りて立ちあがる 九織「それにしても、なな、何でここに? ど、どど、どうして空から降ってくるの?」 光一「変な人に突き飛ばされて……。って、九織も落ち着けよ」 完全にてんぱっているのか、あたふたとしている それを肩に手を置いて止め、言う 光一「って、そんなこといいんだ。それより、ごめんな。いままで辛く当たったりして」 九織「え……?」 光一「……近くにありすぎて、大事なものの価値がわからなくなっていたんだ。……許して、もらえるかな?」 九織「お兄ちゃん……。うん……、私もごめんなさい。今度からは、気をつけるから」 突然謝られて困惑しながらも、九織は頬を紅に染めて、嬉しそうに微笑んだ すると、車の運転席から男が降りてきた さっと九織を自分の体で庇うように男から遠ざけ、睨む 飛鳥「大丈夫でしたか?」 光一「……お前、九織を車なんかに連れ込んでどうするつもりだったんだ」 対峙する形になった二人の間に、ぴりぴりとした空気が流れる 事態のつかめていない九織を他所に睨み合っていると、空から闖入者が降ってきた ナナ「飛鳥さーん、うまくいきました―?」 飛鳥「ええ。……途中突然いなくなった時は、どうしたものかと思いましたよ」 ナナ「あ、あはは……」 飛鳥とナナは、初見とは思えない顔で会話を交わしていた 光一は思わず叫ぶ 光一「ど、どういうこと? 知り合いだったの!?」 ナナ「言わずもがなー」 飛鳥「知り合ったのは、三日前ですけどね」 光一「じ、じゃあ、自作自演だったってこと!?」 光一がショックと落胆と微かな殺意を顔にのせ、言った わけを知らなかったブーンと、ナナが言い合っているのを脱力しながら聞き流す ナナ「飛鳥さんが困っているのを感知したんです。それで、助けていたんですよ」 飛鳥「九織さんがあなたと喧嘩をしてしまったと、私のところに相談にきたんです。それで、です」 光一「そ、そうだったの……。ってか、別にこんな回りくどいことしなくたってよかったじゃない……」 ナナ「でも、なかなか楽しかったでしょう?」 楽しかったでしょう、って……、と光一が盛大に溜め息をついた ナナを知らない、見えない九織が光一のすそを引っ張って、言った 九織「ねぇ、お兄ちゃん。誰と喋ってるの?」 光一「あ、あぁ。ナナちゃん、九織はナナちゃんのこと、知らないの?」 ナナ「見えてないなら知らない、ってことでしょう。少しは自分で考えたらどうですか?」 光一「お前、一段落ついたら覚えてろよ」 □暗転 九織「そんなことがあったんですか……。ごめんなさい、迷惑かけちゃって……」 話を聞いた九織が、申し訳なさそうな顔で言った 飛鳥は三人から少しはなれた場所で、車に寄り添っている ナナ「いえいえ、気にしないで下さいよ」 光一「ホントに面倒なことだよ。わざわざにあんな行程を踏まなくたって、仲直りは出来たよ。ね、九織?」 ナナ「それを言うなら、パソコンが壊れたくらいであんなに怒る光一さんの心の狭さをどうにかしたらどうです?」 光一「あはは、そうかもね」 ナナ「あはは、そうですよ。……というか、光一さん私の足踏んでます。わざとですか? わざとですか?」 殴り合いを始める二人 九織がブーンが煽っているのを困り顔で見ていると、飛鳥が九織に近寄った 飛鳥「九織さん。あれ、渡したらどうですか?」 九織「あ、はい、そうですね」 九織は持っていたバッグから小包を取り出すと、レベルの低い喧嘩をしている二人に近寄った 九織「お、お兄ちゃん!」 九織の呼びかけに、二人は喧嘩を止め、九織に向き直る 九織は光一に包みを差し出した 九織「はい、お兄ちゃん」 光一「……え、なに?」 飛鳥「受け取ってください。九織さんが作ったんですよ」 包みの中身は、綺麗なネックレスだった ナナとブーンが歓声をあげる 光一「これ……」 九織「パソコンより安いけど……。お詫びに作ったの。あんまり、上手には出来なかったけど……」 光一「そんなことないよ。ありがとう。……って、これ何処で作ったの」 九織「えと、飛鳥さんのお店で、特別に作らせて貰ったの」 光一「え……」 飛鳥「私、あの店の店長なんですよ。九織さんは、バイトで雇っていて」 光一「そうだったんですか……」 光一は飛鳥に顔を向けると、申し訳ないような顔をした 光一「なんだか、怖い人なのかと思ってたんですけど……。違ったみたいですね」 飛鳥「すいません。私も慣れないのですが、こういう格好の方が有利なこともあるんですよ」 飛鳥はいつかの爽やかな顔で笑い、光一は苦笑った そうしていると、九織が声をあげた 九織「ねぇ、お兄ちゃん。着けて?」 光一「あ、うん」 光一の首に、九織がネックレスをかける 九織「似合ってるよ、お兄ちゃん」 光一「うん、ありがとう、九織」 ナナ「あー、似合ってるんじゃないですか? そのアレな服をどうにかすれば、ましになるかと」 光一「ありがとう」 ナナにはとげとげとした声で返し、九織の頭に手をぽんと置く 光一「あの、飛鳥さん。本当にありがとうございました。その、色々と……」 飛鳥「いえ……」 オレンジに染まった海をバックに、光一と飛鳥が向き合う 飛鳥「九織さんを、大切にしてあげてくださいね」 光一「ええ、まかせてください」 二人は手を出し合い、握手をした その光景を見ていたナナが、呟くように言った ナナ「……これで、一件らくちゃ……」 ブーン「これで一件落着だお!」 ナナ「あああ! 私がまとめようと思ってたのに!」 港に、みんなの笑い声が響いた □光一の家 リビング 光一「ねぇ九織、紅茶入れてもらえる?」 九織「うん、わかった。待ってて」 九織が読んでいた週刊誌を机に置き、キッチンへと足を運んだ 九織「お兄ちゃん、今日はなにをやってるの?」 光一「ああ、飛鳥さんとメールをね」 キッチンにいる九織に言う トレイに紅茶を入れてきた九織に、光一が「もう転ばないでよ」、と笑った 「わかってるよ」、と頬を膨らませる九織 九織「飛鳥さん、なんだって?」 光一「あのお馬鹿さんな連中のせいで、お店がめちゃくちゃになってて大変だってさ」 やれやれと言った感じで言い、カップを受け取り、口を近づける すると、PCのディスプレイから手がのびてきて、顔がカップに沈む 光一「あっづー!」 ナナ「だーれがお馬鹿さんですか?」 ナナがディスプレイから、呪いのビデオよろしく出てくる ブーンも後からついてきていた 九織「あ、ナナちゃん。こんにちは」 ナナ「こんにちはー。また遊びにきたよ!」 ブーン「きたお!」 光一「来るなよ!」 ナナ「いいじゃないですかー。ねー?」 ブーン「おー?」 九織「今クッキー焼いてるんだ。食べる?」 三人は笑いあいながら、キッチンへと入っていった 楽しそうに笑う九織 その姿に、微笑ましい気持になる 光一の胸には、あの日のネックレスが光っていた それを優しく手にとる ……ありがとうね、ナナちゃん そう心の中で呟いて、ノートPCを閉じた