平成一二年(レツ)第四号 敷金返還請求上告事件 神奈川県XXX市XXXXXXXX 上 告 人 甲A 神奈川県XXX郡XXX町XXXXXXX 被 上 告 人 乙B 平成一二年 七月 七日 右 上 告 人 甲A 東京高等裁判所 御中 上 告 理 由 書 右当事者間の頭書事件について、上告人は上告状記載の上告の理由を補正ないし補足し、次のとおり上 告理由を申し述べる。 一、 1 上告人は、原審において、ハウスクリーニングに関する本件特約が、「汚損の程度が明らかに通常の 使用による結果とはいえない場合のみ、業者にハウスクリーニングを委託する趣旨である」ことを本件 契約締結時の仲介者である証人O川の「ハウスクリーニングをしない借主もあったから、通常程度に気 を付けていれば特に心配はない」との発言、および建設省住宅局民間住宅課監修の「賃貸住宅の原状回 復をめぐるトラブル事例とガイドライン」を援用し主張した。 また、上告人は原審において、平成一二年二月二五日付準備書面二の第四款第一項の中で、貸室の汚 損の程度の如何を問わず借主が業者によるハウスクリーニングの債務を負うことは、通常の原状回復義 務を超える義務であることも右ガイドラインを援用して記載し、口頭弁論期日において陳述した。 2 右準備書面の当該主張は、本件当該特約の趣旨に関する主張であり、前記証人O川の発言は、右特約 の趣旨について具体的に主張するために、上告人が援用したものである。 原審における上告人主張は、仲介者証人O川の本件契約締結時の右発言を勘案して右特約を合理的に 解釈すると、右特約は、通常の原状回復義務として考えられる範囲においてのみ、業者にハウスクリー ニングを委託する趣旨である旨の主張である。 汚損・損耗の程度が、明らかに通常の使用による結果とはいえない場合の外では、賃借人が原状回復 義務を負わないことは、賃貸借契約が目的物を賃借人に使用させる契約であることから、当然のことと されている。 上告人は、原審において、本件契約締結の際、右特約について右に述べた趣旨であることを前提に了 解したこと、当該貸室の汚損の程度は極めて軽微なもので、右特約および上告人の原状回復義務の範囲 に及ぶものではないことを主張した。 3 さらに、被上告人が、右特約について「汚損の程度の如何を問わず、必ず借主に履行させる趣旨であ る」として履行を求めるならば、それは、本来貸主の有する修繕義務(民法六〇六条)を、借主である 上告人に負担させることであり、本件契約締結の際、かような趣旨での契約の成立を認める要件は満た していないので、本件特約をそうした「借主が通常の原状回復義務を超える債務を負う」趣旨の特約と するならば、右特約の成立そのものも無効であると、前記ガイドラインを援用して主張した。   本件特約の趣旨に関しては、上告人は、建設省住宅局民間住宅課監修の「賃貸住宅の原状回復をめぐ るトラブル事例とガイドライン」図表(甲七)を援用している。 これは、右特約の趣旨を「汚損の有無や程度にかかわらず業者にハウスクリーニングを委託する」と 解釈すると、明らかに不合理であるため、その趣旨の合理的な解釈として提出したものである。 4 原判決は、この本件特約の趣旨についての上告人主張に対し、右特約の成立を認定したにとどまり、 右特約の趣旨について何らの判断も示さないままに、ハウスクリーニング費用を敷金から差引くことを 認めている。これは、上告人の右主張に対し、何らの判断を示さない審理不尽、理由不備の違法がある とともに、もし右特約の趣旨を汚損の有無にかかわらず業者にハウスクリーニングを委託し、その費用 を敷金から控除すると解釈したのであれば、それは明らかに経験則に反する。 よって原判決は、民事訴訟法第三一二条第二項六号の理由不備に該当するため、破棄を免れない。 二、上告人は、原審において、汚損の程度が右特約によるハウスクリーニングを要しない、極めて軽微な 汚損であることを主張している。   平成一二年二月二五日付準備書面二の第四款第二項において、「なお、実際の当該貸部屋の汚損は、 専門業者の作業完了証明書(甲四)のとおり、通常程度の極めて軽微なものであり、建設省住宅局民間 住宅課監修の『賃貸住宅の原状回復をめぐるトラブル事例とガイドライン』の図表(甲七)の[賃借人 が通常の住まい方、使い方をしていても発生すると考えられるもの]の分類項目から漏れるものはない」 と記載し、口頭弁論期日に陳述した。 原判決は、この主張に対しても、何らの判断を示さない審理不尽、理由不備の違法があり、民事訴訟 法第三一二条第二項六号に該当するため、破棄を免れない。 三、前項で申し述べたとおり、当該貸室の汚損が借主負担によるハウスクリーニングを要しない程度であ る旨、原審における上告人の主張に対し、原判決は何らの判断を示さないのは、理由不備(民事訴訟法 第三一二条第二項六号)の違法があると解するが、もし原判決が、本件特約を貸室内の汚損の程度の 如何を問わず、常に借主が業者によるハウスクリーニングを負担する趣旨と解釈し、認容したのであれ ば、その契約は民法第一条第二項の信義則、民法第九〇条、民法第六〇六条に反し、法令違反であるの みならず、その実現を強制することは民法第一条第三項で禁じられる権利濫用といわざるを得ない。 これらの法令違反は、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反であり、民事訴訟法第三一二条 第三項に該当する。 よって、原判決は破棄を免れない。 以 上