平成一二年(レ)第九号 敷金返還請求事件(原審・小田原簡易裁判所平成一一年(ハ)第二九九号) [口頭弁論集結の日・平成一二年三月一七日] 判決言渡 平成12年4月28日 判決交付 平成12年4月28日 判決 神奈川県XXX市XXXXXXXX 控訴人 甲A 神奈川県XXXX郡XX町XXXX 被控訴人 乙B 主文 一 本件控訴を棄却する。 二 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実 控訴人は、「1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。2 被控訴人は控訴人に対し、金二六二五〇円 およびこれに対する平成一一年五月一日から支払い済まで年五分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。 当事者双方の主張は、別紙のとおり控訴人の主張を附加するほか、原判決の「第二 事案の概要」 のとおりであるから、これを引用する。 証拠関係は、原審および当審の書証目録および証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。 理由 一 当裁判所も控訴人の被控訴人に対する請求は、原判決が認容した限度において正当として これを認容し、その余は棄却すべきものと判断する。その理由は、次に付加するほか、 原判決の「第三 争点に対する判断」のとおりであるから、これを引用する。 1 証拠(甲四ないし六、九、乙一、二、原審証人O川I太郎、H野K美、 原審および当審における控訴人本人)および弁論の全趣旨によれば、本件賃貸借契約書 (乙一の一部)の第一三条三項には「賃借人は、本件契約を解約の際、専門業者による ハウスクリーニングをすること。」旨の記載があること、本件賃貸借契約を締結する際、 仲介者であるO川I太郎は控訴人に対し右契約書の各条項を一通り読み上げたあと、 各条項についての質問を求めたところ、控訴人からハウススクリーニングの条項について 質問を受けたこと、その際右O川は、退去の際に汚損等があった時専門業者に ハウスクリーニングを行なってもらう趣旨である、ハウスクリーニングをしない借主も あったから奇麗に使え、と回答していること、本件部屋の明渡し前に敷金返還について 紛議が生じ、被控訴人がハウスクリーニング代等にかかるので敷金が殆ど返らない旨 延べたところ、控訴人は本件部屋の汚損状況を見てもらうために、ハウスクリーニングの 専門業者を呼び、本件部屋のハウスクリーニングの見積もりをすることを依頼していること、 その見積り額は金二五〇〇〇円(消費税抜き)で、控訴人もその額は妥当な金額であると 考えていたこと、被控訴人はその場で右専門業者にハウスクリーニングを依頼したが、 その際、控訴人は何らの異議も述べなかったこと、その後、控訴人と被控訴人との間の 敷金返還の交渉においては、壁紙の張替え等のリフォーム費用の負担がもっぱら問題と なっており、ハウスクリーニング代金の負担は問題になっていなかったこと(控訴人が 平成一一年六月二一日に作成したメモである甲五には「『業者によるハウスクリーニング』は 甲Aが費用を支払い自薦の業者に依頼し、五月一日に掃除完了した」旨記載されている。) が認められる。 右認定事実によれば控訴人は部屋の明渡しの際に専門業者にハウスクリーニングをさせる 義務を了承して本件賃貸借契約を締結したものと認められる。 2 また、控訴人は、本件賃貸借契約におけるハウスクリーニングの特約は建設省住宅局民間 住宅課監修の「賃貸住宅の原状回復をめぐるトラブル事例とガイドライン」(甲七) に反するから無効である旨主張する。 しかし、右文書は契約締結の際に参考となるもの過ぎない(甲二参照)から、前示のとおり、 仲介者がハウスクリーニングについての前記条項を読み上げた上で質問を求め、控訴人が 右条項について質問して確認し仲介者が、退去の際に汚損等があった時は専門業者に ハウスクリーニングを行なってもらう趣旨であると明確に回答している本件においては、 右文書に照らしても、右特約の効力自体に影響を及ぼすものではない。 3 そうすると、ハウスクリーニング代金二六二五〇円は賃借人たる控訴人の負担に帰すべき ことになるから、敷金の返還を求める控訴人の本訴請求の内ハウスクリーニング代金 二六二五〇円の返還を求める部分は理由が無い。 二 以上によれば、控訴人の本件控訴の理由がない。 横浜地方裁判所第九民事部 裁判長裁判官 中野哲弘 裁判官 板垣千里 裁判官 田中寛明 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− (別紙) 控訴人の主張 一、借主負担の専門業者によるハウスクリーニング特約について 1.建設省住宅局民間住宅課監修の「賃貸住宅の原状回復をめぐるトラブル事例とガ イドライン」(甲七の4 特約について)によれば、借主に法律上、社会通念上の義 務とは別個の新たな義務を課す特約については以下の要件を満たしていなければそ の効力は不十分であるとしている。 @ 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在する事 A 借主が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負う事について 認識している事 B 借主が特約による義務負担の意思表示をしている事 以上であるが、@については「家賃を明らかに相場より安価にする替わりにこう した義務を借主に課す場合など、限定的なもの」とされており、本件賃貸借契約は それに該当しない。 Bについても本訴に至るまで争いとなっているので、控訴人に義務負担の意志表 示が無いのは明白である。 更にAについては、控訴人が業者によるハウスクリーニングを借主が負担する旨 の特約が通常の原状回復義務を超えた義務を負うものである事を認識したのは、本 件賃貸借契約の解約の際に被控訴人から「補修等に多大な費用がかかる為、敷金は 大方戻らぬであろう」と言われた事に不安を感じ、それ以降、控訴人が独自に関連 団体等や書籍から調べて知り得た事実であり、それ以前に、被訴人や仲介業者から は、そうした旨の説明を一切受けていない(借主が業者によるハウスクリーニング の債務を負うことが、通常の原状回復義務を超える義務であること、右債務を汚損 の程度の如何を問わず、退去時に必ず取り行なう旨の説明は一切なく、むしろ証人 O川は、ハイツ九三では場合によって、業者による清掃をしない場合もあった、と 言っていた。)ので、当然、契約締結時に控訴人はそうした認識を全く持ち得なか った。 この様に、本件賃貸借契約における業者によるハウスクリーニングを借主の負担 とする特約は、右三項目のいずれの要件も満たしていない。 2.なお、実際の当該貸部屋の汚損は、専門業者の作業完了証明書(甲四)のとおり、 通常程度の極めて軽微なものであり、建設省住宅局民間住宅課監修の「賃貸住宅の 原状回復をめぐるトラブル事例とガイドライン」の図表(甲七)の[賃借人が通常 の住まい方、使い方をしていても発生すると考えられるもの]の分類項目から漏れ るものはない。 3.よって、本件賃貸借契約における業者によるハウスクリーニングを借主の負担と する特約は、右1、2記載の理由から、無効であると主張する。