
競技のため閉鎖するとはいえ、公道で最速を競う唯一のFIA世界選手権。そこでの3年連続の栄冠に、まさに原動力となったEJ20型2000cc
DOHC「ボクサー」ターボ・エンジンは、世界最速のエンジンのひとつと呼んでいいだろう。このEJ20型エンジンを載せた、スバル・インプレッサのラ
リーカーが、1995、1996 、1997年とFIA世界ラリー選手権のマニュファクチャラーズのタイトルに輝いたのである。
EJ20型エンジンは、それぞれ2本のシリンダーを持つ2つのシリンダーブロックが同じ平面上に相対して組み合わさるという、ユニークな形状をしている。
4つのピストンの動きが、パンチを打ち合う2人のボクサーのように見えるところから「ボクサー」との呼び名を持つ。同じく独特のシンメトリカルAWDシス
テムと相持って、高出力だけでなく、低重心、重量バランスの良さ、全4輪へのスムーズな駆動力伝達という、まさにドライバーにとっての理想を実現してい
る。
EJ20型エンジンは典型的な高回転型である。低回転でのトルクの細さに不満を持つ人もいるが、アクセルをもうひと踏みさえすれば十分以上のトルクが得ら
れるのである。もっと平坦なトルク特性がお好みなら、三菱のランサー・エボリューションを選んだほうがよいかもしれない。しかし、それに搭載されている
4G63型エンジンは、EJ20型ほどの高回転域での盛り上がりはないかもしれないし、ワゴンタイプのエボリューションモデルもない。2002年発売のイ
ンプレッサSTiと2003年発売のレガシィから搭載されている、新しいEJ20型エンジンは低回転域での性能も向上している。うらやましい限りである。
制動力が勝敗を分ける時もある

馬力の数値を誇る車は数多くあるが、制動力
についてはどうだろうか。カタログ数値としてブレーキローター径は載っているが、エンジンの排気量ほどに重視されているだろうか。しかしながら、モーター
スポーツ競技においても、しばしば制動力が勝敗を分けるのである。
インプレッサ・ワゴンSTi-III
のブレーキ系は優秀である。特に大径のディスクとキャリパーを備えたフロントブレーキは、そのために専用デザインの16インチホイールを必要とするが、強
烈な制動力を生み出し、確実なブレーキコントロールを可能とする。
ブレンボやアルコンといった有名ブランド製ではないが、急カーブや全開ダウンヒルの最中でも頼りになる存在である。
他のモデルのインプレッサ乗りの中には、このブレーキを移植する人もいるほどである。現行のインプレッサSTiのブレーキシステムはブレンボ製となってい
るが、その他のWRXセダン、ワゴンにはSTi-IIIワゴンとほぼ同じブレーキシステムが採用されていて、STiのブレーキに引けをとらないと評する声
も少なくないのである。
褒められたものではないが、そこがまた魅力

インプレッサの独特の排気音はよく「ボクサー
サウンド」と呼ばれる。実際には水平対向エンジンのエギゾーストマニホールドが多くの場合、取り回しの制約からやむなく不等長になっているため、排気干渉
が生じて起こる音である。したがって、技術的にはあまり褒められた音ではないのだが、ある種魅力的な音ではある。
EJ20は高回転型エンジンであるが、アイドリングの音はまるで大排気量のOHVのV8であるかのように聞こえる。何かが小刻みに爆発しているような音で
あるが、それはエンジンの中で実際もっともっと早いペースで起こっていることである。おそらくそれが多くのひとがこの音を好む理由だろう。強力な心臓がボ
ンネットの下で鼓動しているのを感じることができるのである。
2002年発売のインプレッサSTiと2003年発売のレガシィに搭載されている、新型のEJ20エンジンは、排気干渉を起こさない新設計の排気系統によ
り、低回転での性能が向上している。新しいEJ20はアイドリングも静かで、もはや太古の野獣の如く、うなったりはしない。それは優れた工学技術の証では
あるが、慣れ親しんだ音が消えてしまったことに一抹の寂しさも感じてしまうのである。
"What you see is what you get"

どんなに高性能を誇る車であっても、その制御が適切に行なえないのであれば、せっかくの性能も意味のな
いものとなるだろう。インプレッサ・ワゴンSTi-IIIは、その点も抜かりはない。
本物のカーボンを使用したメーターパネルを別にすると、スポーティな演出はほとんどないが、コクピットのすべてがスポーツ・ドライビングのために設計され
ている。なかでも、運転席の視界の良さは特筆すべきであろう。狙ったコーナーリング・ラインを充分見通せないのであれば、そのラインをクリアすることなど
おぼつかないであろう。まさに"What you see is what you get"なのである。
それに加え、ショートストロークのシフトレバーは素早い変速を可能とし、ステアリングはドライバーの意志に的確に反応する。また、よく使うスイッチやダイ
ヤル類は自然に手が届く位置に配置されている。
ただこの車で唯一不満な点は、ウレタン製のエアバッグ内蔵のステアリングホイールである。当時エアバッグ内蔵で本革巻きのステアリングホイールはなかった
のである。それで、我が愛車には自分で本革のカバーを買ってきて巻いてある。エアバッグ内蔵が当たりまえとなったその後のモデルでは、MOMO
製の本革巻きのステアリングホイールが装備されているのであるが。
ずば抜けた性能と実用性の両立

レガシィのワゴンと比べると、もともとのイン
プレッサセダン自体コンパクトな上に、全長が変わらないインプレッサワゴンの積載量には自ずと限界がある。おそらく真っ当なワゴン乗りはレガシィを選ぶべ
きだろう。でないと積載量に不満が出るだろう。
しかしながら、それも比較の問題である。インプレッサワゴンの荷室はアウトドア用品や日常のお買い物を積むのに充分な容量がある。なにより、車体が小さく
軽量であることは優れた操縦性に寄与するのである。
ずば抜けた性能と実用性の両立がこの車の肝である。必要なものをすべて積込み、友人たちを乗せることができて、それでもなお、生粋のスポーツカー顔負けの
運転の喜びを味わえるのである。インプレッサスポーツワゴンWRX STi-Version III。それはとても欲張りな車なのである。