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「自分らしく」いきたい
山下 敬子
新学期,またまた,子どもたちの元気な声で一日が始まっています.新しいメンバーが加わって,また違ったふんいきです.今年は女の子が増えて,やさしい,おだやかな感じです.スタッフは前のメンバーで,昨年度と違うのは,私の母が月曜日の午前中,手芸を教えてくれることになりました.
子どもたちが最近凝っているのはカメの飼育です.熱帯魚の水槽(アクアリウム)とカメリウムが並びました.水槽の中に砂や流木を入れたり石のお城跡をつくったり,水草を植えたり,ちょっとした小宇宙のようです.庭には亀の運動場もあります.勉強はすべてここから広がっていきます.月1回『アクア新聞』(熱帯魚新聞)を出しています.アートは熱帯魚やカメの絵を描いたり,ゲームを作ったり.みんなで読んでいる本は『楽しい熱帯魚』.先月の料理のテーマは「魚料理」で,魚の三枚おろしだって子どもたち,できるようになったのです.野外へ行くときは,川のあるところ,池のあるところということになります.みんなが熱帯魚と亀にハマってしまっています.
毎日すごく楽しい.その楽しいという感じが子どもの中に残っていくのがわかる.わく星の子は「こういうふうに教育してやろう」というのがあると,それを敏感に感じて,反発するのにエネルギーを注いでしまう.学校で競争させられることで傷つき疲れはててきた分,もう人の意のままになりたくない,「自分のありのままでやらせて」というのが,わく星に来た子の願いだからです.
でも,「自分のありのままでいく」というのにも,ただそうすると「決心」したから今日からうまくできるわけではありません.一般に「自分らしくのびのびと…」というと勝手気まま,自分のやりたいことだけしかしない,常識はずれ,というようなイメージがあって誤解されてしまうことの方が多いです.そのことが子どもたちが「自分らしく生きる」ことへのブレーキになっていることも確かです.自分らしく,ありのままに生きて行くことは,勝手気ままや自分中心なのではなくて,むしろ人の権利を守ったり,自分の責任についてちゃんと考えて行動することなのだということで,それを実際に身につけるための大へんな苦労がこれからあるわけです.人の言いなりでレールの上をただ歩いて来た時の方が,こんな事は考えなくてよかったし,うまくいかないのは人のせいにしとけばよかったのだから.
「いじめ」にあった子どもたちによると,「学校では友達も先生も信用できない.仮面をかぶってみんなといっしょのふりをしていないといじめられるんだ」「いつもいつも,人と比べて品さだめをされるので本当に疲れてしまう」と言います.「もうそんなのはやめて本音の自分の生きていこう」ということで,そこから自分捜しがスタートします.「自分らしい」ということがどんなことかを捜すことをしはじめると,楽しくて,自然なことだということがわかります.
「ウチ,何となくでは高校へ行かへん.決めていくんや.世間でみんな行かはるしカッコ悪いしとかいうのじゃなくて,自分で行きたいと思うところに行く.自分のために,何がやりたいかを考えて決めさしてほしい」ときっぱりと言うようになったAさん.すべてに自信がなくオドオドしていたAさんだけど,ここ2年間の成長はめざましいものです.家族,仲間にありのままの自分が認められ,自分を肯定できるようになると,どんどん自信がつき,自分で選んだ道を進もうとしています.
どの子も人の役に立ちたい,そして認められたいと望んでいます.学力だけで品定めをされたのでは伸びる芽も伸びません.学力で競争させへんかったら,子どもってこんなに創造的で,友好的で,協力的なんだってことをわく星を始めて本当に実感しました.先生をしてたときは,子どものこれもできひんあれも不足している,とマイナス点ばかりが目についたし,子どもはもっともっとと大人がひっばっていくものだと,信じて疑わなかった.わく星をやって7年目.子どもをありのまま受け止めるのは大人の力量,「教えてやろう」「変えてやろう」というおごりはすぐ見抜かれる.先生という仕事のおもしろさは,子どもの後ろからついていって,子どもがどこへ行きたいのかがちゃんとわかり,子どもが求めたときに,サッとサービスしてニコッと目が合う一体感やと,このごろ思います.
そんなことを考えていると,今井田歌さんのことを思い出します.田歌さんは三味線弾きです.私が田歌さんから教わったのはこのことです.子どもにむりに何かを伝えようとするのではなく,自然に身体から内側から湧き出るものが子どもたちに伝わるんだ,ということでした.わく星学校を支え励ましてくださる方々がたくさんいます.今井田歌さんもその一人です.わく星が迷ったとき「わく星はわく星らしく,ありのままで.しんどいのは無理しすぎ」と言って,わく星の「自分らしさ」をそのままに,と応援してくれた人です.去年,大病をして休んでおられましたが,元気になられたということでぜひまたあの三味線おはなしをきかせてほしいと思い,今回お招きしました.最近は子どもたちのためにおはなしを三味線にのせた語りものをやってられます.
去年,わく星の入学パーティーでもやってもらいましたが,子どもたちが目をみはって聞いていました.
学校の先生,保育園,幼稚園の先生方にぜひきいてもらいたいです.そしてぜひ,子どもたちといっしょに,日本の音楽を楽しむ機会をつくって下さい.
私は日本舞踊が好きで,三味線の音をきいただけで何もかも忘れて身体が動きだします.私を作っている細胞が三味線に反応するようになっているようです.ありがたいことです.
西洋の音楽は手軽に聞けるのに,日本の伝統音楽に子どもたちが触れることはなかなか難しいのが残念でなりません.もっと身近なところで子どもたちが日本の芸能を楽しめるようにしませんか.
4月28日(日)18:00から,田中神社でのコンサート,ぜひおたのしみ下さい.
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