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赤く沈むメコンの夕日をながめながら
山下 敬子
「どこにいようと、どんな状況にあろうと子どもは子どもであることに変わりはない」とナートさんが以前言われていたのを思い出していました。
いつのころからか、私たちは幸せだった子ども時代が夢や、希望やファンタジーでいっぱいだったことを忘れかけていました。『子どもが、子どものままでいられる幸せ』今日一日を幸せな子どもとしてすごせること、それは今回訪れた「子どもの村学園(ムーバンデック)」「夢を織る家(バントーハン)」「愛を編む家」「バーン・ナナー(子どもの家)」の人々の願いであると思います。そしてまた今回の日本の私たちが「タイドラマ交流」プロジェクトにかけた想いでもありました。
タイドラマ交流プロジェクトというのは、社会人教育の団体「日本グルンドヴィ協会(清水満さん代表)」と九州の子ども文化劇団「道化」が共催し、タイの施設の子どもたちにドラマを通して交流を深めようと各地の人々に呼びかけて、寄付やボランティアを募り、一年がかりで準備した文化交流活動です。劇団「道化」の西雅子さんと西村賢治さんの「何ができるかな?」というのは、タオルやモップさいばしやお玉をつかって人形をつくり、野田かつひこさんのギターにあわせて「うさぎとかめ」などのわかりやすいストーリーをタイ語と日本語でドラマ化している。また「くすのきつばめ」さんのは「かんくろう」という鳥の人形をつかった腹話術や指人形どれもわかりやすく万国共通、子どもたちの夢やファンタジーを育むのにぴったりの出しものだった。私はこのタイ公演のプロジェクトに参加させてもらって一番強く感じたのは、ひとりの決心が、たくさんの人の心を動かし大きなエネルギーを生み、それがどんどん広がって夢のようなことが実現していくということです。
最初に訪れたのはタイの西部カンチャナブリにある「ムーン・バーン・ディク(子どもの村学園 http://www.ffc.or.th)」。ここはタイのフリースクールで孤児や、貧困、崩壊家庭の子どもたち130人とスタッフが、共同生活をしている。有機菜園や様々な工芸品の工房、が学園施設の中にあり、ここの自由・自主・自立をめざした運営は、子どもたちの会議によって決められ、子どもの自治によります。
ここではこのプロジェクトの最初の公演とあって、「道化」もくすのきさんも本当に真剣にとり組まれているのがわかった。お芝居を「届けてあげるんだ」ではないものをめざしたという彼らの心いきを見てとったのか、小さな子どもたちまでもが、くい入るような視線で芝居にひきつけられていくのがわかりました。
芝居が終った後、さっそく「タム・アライ・ダイ・バナ(何ができるかな?)」と子どもたちが、まねして遊んでいるのが印象的でした。身近にある日用品で、人形や動物をイメージしてストーリーをつくって遊べる、この演目のアイデアはすばらしいと思ったのでした。
もうひとつ、「子どもの村学園」の元スタッフで、今はチェンライの村で「愛を編む家」という新しい施設をはじめた藤井由美さんに久しぶりに再会した学園の子どもたちが本当にうれしそうに「Yoshimi! Yoshimi!」とぞくぞくと集まってくる様子をみて、ほんとうに由美さんは幸せだなあとうらやましく思いました。そしてそんな時の由美さんの表情がとっても美しいと思いました。
1月15日には次の訪問先のサンカブリの「バントゥ・ハン」に移りました。「バン・トゥ・ハン(夢を織る家)」は2002年わく星学校でも、ナートさん、ユパさんたちを囲んで集まりをもちましたが、現在ではプロジェクトはさらに広がりコミュニティーの八棟の宿舎の他に、町に「ベトナムレストラン」やコミュニティの人がつくった工芸品や草木染の服を売る店なども新しくできていました。そして日本とのつながりはさらに深まり、ここを第二のふるさとだと思っている人も多くいることでしょう。
今回の訪問の目的はここで年に1回行なわれる「グローバル=チルドレン=フェスティバル」で子どもたちにお芝居を楽しんでもらうことでした。この子どものお祭りは1000人以上の子どもたちが、近隣からバスやトラックでやってきてバントゥハンで、一日中遊んだり、食べたりして楽しくすごします。この催しの参加は全く無料で、食事やおやつ、子どもたちの世話などすべて寄付とボランティア活動でまかなわれています。前日から大学生やボランティアたちがヒッチハイクなどでやってきて準備をし、当日は大勢の子どもたちが来るのですが、夕方にはトラックなどでサーと引きあげていきますが、その流れが全く自然で、誰ひとり大声でさわぎたてることもなくにこやかで穏やかな時間の中で、子どもたちの歓声と笑い声だけがあふれている不思議な光景でした。こちらの日本スタッフはこの大勢の子どもたちにどうやって楽しんでもらうかみんなで工夫して頭をひねりましたが、劇団「道化」の『何ができるかな?』は会場にし立て上げた即席舞台の毛布の間から、子どもたちの顔がのぞいてキョロキョロ。どの目もキラキラして大うけにうけたのでした。60枚の整理券を3回くばって、まだまだ、もう一度見たいという子がいるほどの人気。
その次はタイ北部、チェンライ。日本人の藤井由美さんジットさんが新しくはじめた「愛を編む家」を訪ねました。そこでは村をあげてのおしばい見物。おばあさんたちまでが孫の手をひき大はしゃぎ。小学生たちのびっくりしたような、はにかんだような顔。はりきる先生達。なんだかなつかしい光景。村の人々と「愛を編む家」の輪の中に、日本から来た私達もすぐになじめて自然に入れてもらいほんとうに温かい公演の一日でした。
最後に訪れたのはミャンマーとの国境近くメーサイの「バーン・ナナ(チャイルドライフハウス)」。ここは、身よりのないストリートチルドレンや、タイまで追われて、国境近くでさまよっている貧しい少数民族の子どもたちが70人以上共同生活をしている施設です。ここでは子どもたちからも劇をやって見せてくれました。それは劇を通じて自分たちの困難な問題を、自らが解決していく方法に気づく、参加型学習タイプのワークショップの劇でした。貧困のために子どもが売り買いされたり、麻薬や売春のぎせいにあったり、ここの子どもたちは「生きている」ことだけでせいいっぱいのきびしい現実のただ中にいるのだと思われました。そんな子どもたちが、「道化」の芝居を見て、目の色や表情がどんどん変わっていくのがわかりました。ここの子どもたちの吸収力、学ぶ力はすごいと思いました。私はその様子を見て林竹二先生の「学ぶこと、変わること」という本にあった「学んだことの唯一の証しは、変わることだ」という一節と、真剣に学ぶ夜間中学生の一枚の写真を思い出しました。ここに来て『人は何のために生きるのか』という問いに対して、心を開いていく「真剣なまなざし」を見たように思いました。
どの場所でも、子どもたちのくい入る視線、そして明るい笑い声。笑顔にあふれ、それを見守るあたたかい大人のまなざし。その中にいるだけで心がほっとしました。そしてどこでも子どもたちは一生懸命生きていました。旅の途中、トラブルもありましたが、苦労なんかフッとんで、最後に『ああ、やってよかったねえ』とみんなで目を見合わせました。本当にみな純粋な人たちでした。「いい社会というのは『買物』するように手に入れるのではなくみんなで創っていくものだ。お互いを信頼し、心からの言葉で語りかけ、行動するならば必ず応答がある」(ナートさんの言葉)みんなで「子どもたちが生きてみたいという社会」を実現していきましょう。まだまだ感動のメッセージを伝えたいと思います。「タイのあつい風」によかったらおいで下さい。
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