重度知的障害児における
 工程のある作業の実践
       −2003年度紙工作業学習実践報告−
 
                                      浅 井 茂 治
                                     植 木 由紀子
 
 今年度高等部3年生の重度の知的障害児であるA児は、S-M社会生活能力検査で社会生活年齢?才?ヶ月、作業能力!才!ヶ月の生徒である。A児は高等部1年生入学時の段階では、作業学習において3年間の中でいくつもの工程がある作業ができるようになっていくのは非常に難しいだろうと思われた。そのA児が3年間の積み上げの中で技術も必要とし、いくつもの工程に分かれた「紙漉き」の作業を少しの指示で行えるようになった。その3年間の取り組みの積み上げを報告する。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
            − A児 紙漉き作業風景 −
 
 自閉的傾向も強く、先の見通しを持つ力の弱いA児のプロフィ−ルは以下のようなものである。
A児の様子
 ・見通しがもてないことへの不安が大きく、環境変化に弱い。
 ・次の場面への切り替えがうまくいかず、前の場面へ固執して戻ろうとする。
 ・靴はかかとを入れることを嫌がり、つま先歩きの傾向がある。
 ・水(の流れ、動き)が好きである。
 ・全般的に意欲・周りに対する関心がうすく、受け身的な行動が多い。
 ・限定された人とはやりとりを楽しめるようになった。
 ・手指機能を含め手首の返し等、身体的能力が高い。作業動作中には身体の動きはなめらか
 である。道具器具の扱いのうまさがある。
 ・表出力や言語力に比して、理解力が潜在的にある。
 
 全般的に周りへの興味・関心がうすく、物事に対する意欲も少なく、受け身的行動が多く、理解力は表面に現れているよりは高いにもかかわらず、授業の場面では教師が手取り足取り一緒に行動するということが多かった。自発的な行動を増やすこと、周りの人・物と興味をもって関われること、などが課題としてあり、紙工授業においてもそれらを大きな目標として取り組んできた。
 
T.取り組み@ =材料作り=
 当初 紙工授業の取り組みとして、週1回(1単位時間)の高1の段階、週3回(3単位時間)に増えた高2の1学期には、この部屋に来たらこの席でこの作業をするという作業への構えを作るため、材料作りの楮叩きを続けることで、作業への自発的な動きを作り、持続して作業する力の養成を目指した。また単純な作業工程の一連の流れを理解し、独力で作業に取り組むことを目標とした。工程は回数を重ねることで理解し、確認のために教師を見て手を停めたりすることはあったが、(体調がよくない時以外は)独力で作業を続けることができるようになった。また、音楽をかけたり、教師と一緒に歌を歌ったり、周りとのやりとりを楽しみながら、作業に対する愛着も深まっていく様子もみられた。木槌やミキサーといった作業に必要な道具の扱いも力のコントロールをしながら、うまく扱うことができるようになった。
 
  材料作りの工程 −こうぞ叩き・ミキサ−かけ−
     準備1工程、作業は工程1がほとんどの中心で8工程とその繰り返し、片付け1工程
準備
 1.木槌・押さえ棒・こうぞ団子を持って、決まった席につく
作業
 1.こうぞ団子を押さえ棒で押さえながら、木槌で叩き繊維をほぐしていく
 2.ある程度叩けたら、できたかどうか先生に確認してもらう
 3.OKが出たら、ミキサ−の場所へ持っていき、ミキサ−に入れる
 4.ミキサ−のふたをして、スイッチを入れ、10数える
 5.スイッチを切り、ふたを開け、金ザルにあける
 6.次の人のために水を線まで入れ、セットする
 7.黒板の名前のところに、1玉した確認にマグネットを1つ置く
 8.次のこうぞ団子を持って、席にもどる
11.こうぞ団子を押さえ棒で押さえながら、木槌で叩き繊維をほぐしていく 
12〜18を繰り返す
片づけ
 1.木槌、押さえ棒をもどす
 
U.取り組みA =編み目の紙作り=
 高等部2年生になり、授業コマ数が週3回になった当初は、材料作り(楮たたき)の作業を続けたが、6月に2週間実施される前期の校内実習では、(1年時より実習期間に取り組んでいた)網目の紙作りにも取り組んだ。前期の校内実習後(7月)より、(いずれはため漉きに切り替えることを前提に)材料作りの一連の工程の最後に、網み目の紙作りの工程を加えた。一つの作業工程から異なる作業工程へという大きな流れの中で自発的な動きを引き出すことが一つのねらいであるが、環境変化に弱いA児が、慣れている材料作りを基本において紙工授業に対して混乱のないようにという配慮もあった。水に触れることが好きなせいもあり、比較的工程もスムーズに理解でき、材料作りから編み目の紙作りへの動きもスム−スに進む事ができた。2週間の校内実習で取り組んだ物を日々の授業の中へ取り組みシステム化することができた。
 
    編み目の紙作りの工程
        準備なし、作業7工程とその繰り返し、片付けなし・・・各工程毎に指示有り
準備・・なし
作業
 1.糸を網状に貼った枠をシンクの中に置く
 2.パルプ団子をシンクの中に溶かす
 3.手桶でパルプ液を枠に何度もかける
 4.OKが先生から出たら、枠をアクリル板にのせる
 5.枠を掃除機作業台へ持っていき、置く
 6.吸い取り網をつけてもらい、掃除機のスイッチを入れ、水分を吸い取る
 7.作業室の外へ持っていき、干すための場所に置く
11.元の作業場所にもどり、渡された糸を網状に貼った枠をシンクの中に置く
12〜17を繰り返す
片付け・・なし
     注:1つ1つの動作は指示してもらったり、介助してもらいながら行った
 
V.取り組みB =溜め漉きによる紙漉き=
 こうした作業の変化にも対応できることがわかり、工程を増やして、自発的行動をさらに引き出したい、また、紙漉に取り組ませたいという思いから、溜め漉きに取り組むこととなった。
網目の紙作りの作業工程自体には理解が深まっていたので、溜め漉き作業への移行もさほどの混乱なく取り組めたように思う。
 「溜め漉き」とは・・・本来の「紙漉き」は漉き具に紙料を漉き込み、揺すりをかけてパルプを絡ませる紙の作り方であるが、「溜め漉き」は設置した漉き具に紙料を流し込み、紙を作る方法である。
                        
     溜め漉きによる紙漉き    準備4工程、作業10工程、片付け2工程
準備
1.バスタオルを1枚持ってきて机の上に敷く
2.棚から、漉き網のセットされた漉き具を取ってきて、シンクに浮かべる
3.パルプ液をすくう手桶と、模様となる染色パルプの入った器を持ってくる
4.パルプを水にとかす
紙すき作業
1.シンクに浮かべた漉き具に、1から10の数を唱えながら手桶でパルプ液をすくってかける2.染色パルプを漉き具に流し込む
3.水のたまった漉き具を両手で持ち上げ、水がきれるまでまっすぐに保つ
4.漉き具をコンテナに置き、留め具をはずしてあける
5.アクリル板の表面をぬらし、裏返してぬらした方を紙料にあてる
6.アクリル板を漉き網ごと取り、そのままバスタオルの上に置く
7.アクリル板の上から、体重をかけて1から10を唱えながら、圧し、水分をとる
8.アクリル板をひっくり返し、漉き網をはずす
9.あて布をしてローラーをかける
10.棚の上に置く
片付け
1.漉き具、手桶、器を棚の上に置く
2.バスタオルを干す
 
 2学期の始まりにあわせて、網目の紙作りを溜め漉きに切り替えた。溜め漉きは、網目の紙作りの延長上にあるが、具体的にA児を想定して考えた漉きであり、使う道具、工程もA児に合う形を、ということで考案された。通常の紙漉きより工程が簡略化されている。例えば、水の吸引に掃除機を使うという工程は省き、バスタオルで水を吸い取るというように。当初は1つ1つの動作に対し、言葉による指示や動作等での指示を行うことで、混乱なく工程がこなせるように援助を行った。最初の段階では1〜4の工程を独力ですることをまずは目標としていたが、後期校内実習での集中的な取り組みなど、教師とともに繰り返し続ける中で、全体の流れを理解し、ポイントで声をかけることは必要なものの、ほぼ独力で作業をすすめることができるようになった。作業工程とは直接関係ないが、パルプを水にとかす感触や、漉き具から水が流れ落ちる様を好み、楽しみとすることで作業に前向きに取り組めた部分もあったように思う。
 
W.取り組みC =紙漉き=
 こうした取り組みの中で工程のある作業でも繰り返す中で作業をこなすとがわかってきた。高等部3年生1学期の5月より、いよいよ作業11工程で繰り返しのある紙漉きに取り組ませることになった。
ただしその中にはTEACCHプログラムの構造化の考えも重視し、準備物の置き場所の確定・明確化、道具名称や指示する言葉かけにおける担当者の言葉の共通化などを行ったのはもちろんのことである。
 
    紙 漉 き
     準備6工程、作業11工程とその繰り返し、片付け6工程・・・指示必要なときのみ
準 備
 1.バスタオルを3枚持ってきて 、作業台に敷く
 2.棚からコンテナを取り、別の棚から漉き具と漉き網を取り、入れて作業台に持ってくる
 3.洗面器とボ−ルを棚から取って、作業台へ持ってくる
 4.一括吸水機を自分の作業台へ移動させる   
 5.別の棚からコンテナにつける枠組みを取ってくる
 6.別の棚からアクリル板とあて布を5枚ずつ持ってくる(5枚数えるのには援助が必要 )  7.洗面器を持って、パルプだんごをもらいに行く
紙漉き作業
 1.1つ目のパルプだんごをボ−ルに入れ、シンクの中で溶かす
 2.漉き具に漉き網を装着させ、漉いて揺する
 3.漉き具を一括吸水機の上に置き、スイッチを入れる
 4.スイッチを止める
 5.漉き具をコンテナの上に置き換え、留め具をはずしてあける
 6.アクリル板の表面を濡らし、裏返して濡らした方を紙料にあてる
 7.アクリル板を漉き網毎取り、ひっくり返してバスタオルの上に置く
 8.ぞうきんをあて、圧縮器を置いて水分をとる
 9.圧縮器・ぞうきんをとり、漉き網をはずして、あて布をする
10.圧縮器でおさえる
11.作業台の下の引き出しに直す
101.2つ目のパルプだんごをボ−ルに入れ、シンクの中で溶かす
102〜111. 2〜11を繰り返す
201.2つ目のパルプだんごをボ−ルに入れ、シンクの中で溶かす  
202〜211. 2〜11を繰り返す
301.3つ目のパルプだんごをボ−ルに入れ、シンクの中で溶かす
302〜311. 2〜11を繰り返す
4つ目のパルプだんごをボ−ルに入れ、シンクの中で溶かす
402〜411. 2〜11を繰り返す
501.2つ目のパルプだんごをボ−ルに入れ、シンクの中で溶かす
502〜511. 2〜11を繰り返す
512.できた5枚を点検してもらいに先生のところへ持っていく
513.次のアクリル板とあて布を取りに行く
514.洗面器を持って、パルプだんごをもらいに行く
片づけ
 1.残ったパルプだんごを返しに行く
 2.コンテナについている枠組みをはずし、もとの棚へもどす
 3.コンテナに 漉き具・漉き網・洗面器・ボ−ルを入れて洗い場に持っていく
 4.水を張った水槽で洗い、もとの場所にもどす
 5.バスタオル3枚を外のタオルかけに干しに行く
 6.吸水機のバケツの水を外の排水溝に流しに行く
 
 時には他の生徒のことで教員の手が奪われたりして、はじまりのところでうまく指示ができなかったりするとその日の流れがスム−スにいかないことがあったが、3年生の2学期には紙工の授業のはじめの挨拶が終わった後、「今日は何をしますか」と尋ねると「紙漉き」と答えてくれるようになり、この授業での自分の作業はこれだと認識できるようになった。掃除機のスイッチを入れ、掃除機の音を楽しむこだわりのところでは「もうOKだから止めなさい」等の部分的な指示はいるものの、全体の工程は理解して作業できるようになった。
 
X.まとめ
 こうして、重度の知的障害であるA児であるが、1年生から2年生のはじめまで、準備片付けが1工程で作業が7工程の「材料作り」の作業に習熟し、そこから授業の中でこの作業の学習は「材料作り」だけではないことを理解させるために、材料作りと同じ7工程の「編み目の紙作り」の作業を随時入れていった。その変化に対応できることを確認した上で、「溜め漉きによる和紙作り」準備4工程、作業10工程、片付け2工程に移行し、徐々に指示がなくても全体の流れを理解して作業できることがわかり、いよいよ準備7工程、作業11工程で何度もそれの繰り返しがあり、片付けが6工程の「紙漉き」作業へと移ってきた。
 水が好きというA児の特性がまず最初のきっかけであったとして、1年初めからの材料作りそして紙漉き作業への流れの中で、常に見通しを持ってこの授業では安心して取り組めるという自信がA児の中に育まれ、手取り足取りではなく、自分の力で、1人で、作業に取り組める力に育ってきたように思われる。今では紙工室に入ってくると、うれしそうに紙漉きの作業台のところへ行くようになり、自分で順番を考えながら、時には人とのやりとりを求めてわざと違うことをするようにまで成長した。3年生3学期に入り、はじめてはがきの裏面をなめらかにする「ロ−ラ−かけ」の作業をさせたところ、はじめてにもかかわらず説明を聞き、何の不安もなく作業を理解して進めることができた。重度の知的障害であるA児が工程のある作業をしっかりこなすことができるという感激の年度を迎えることができ、可能性を見いだすことができたのである。
 
 

 −2003年度紙工作業学習実践報告−
 
T.高等部1年生授業報告
 
 今年度の高等部1年生は、全員で27名である。1年次の作業の授業は「紙工」「窯業」「木工」「縫製」を基本的に履修するが、物への自発的関わりの力が弱い、道具を目的に応じて使用することが難しい重度重複の生徒は「作業3」と「自立活動」を履修している。今年度3名である。また週に1日校外の事業所で職場実習を行う「Bコ−ス」の生徒は、5月から基本的な4つの作業の履修をやめ「クリ−ニング」の授業を校内で履修する。ということで1年生で今年度1年間を通じて「紙工」を履修した生徒は16名である。 
       S-M社会生活能力検査の結果
紙工作業通年履修生徒
    社会生活年齢   作業発達年令
   あ児      
   い児      
   う児     
   え児       
   お児       
   か児        
   き児       
   く児       
   け児       
   こ児        
   さ児        
   し児       
   す児       
   せ児       
   そ児       
   た児       
重度重複生徒
   ち児       
   つ児       
   て児       
Bコ−ス生徒
   と児      
   な児      
   に児      
   ぬ児      
   ね児      
   の児      
   は児      
   ひ児      






























 
 
  ※個人情報の問題があり、HP上では測定値は公開しておりません。
 
 今年の1年生の傾向として、上記のS-M社会生活能力検査の結果からわかるように、重度重複の3名の生徒をのぞけば作業能力年令が7才以上の生徒でしめている。しかし、高等部入学時の状態としては、近年の傾向として見られるように、作業をする構えがなく、指示されたことを持続集中してすることができない生徒が多く見られた。そういう意味でも単純明快な材料作りの、特に「こうぞ叩き」の作業は生徒たちにとって、作業への構え作りには最適な作業となった。簡単な工程である準備から作業(こうぞの繊維がほぐれてOKがもらえるまで叩き、ミキサ−にかけ、1回できたというマグネットを置く)、片付けまで、言語による1回の説明で理解し取り組むことができたが、作業の中心であるこうぞ叩きでは、「もういいかな」とすぐに聞いたり、「しんどいわ」と根気強く叩けなかったり、なかなかきっちり作業することができなかった。だからこそ、体全体を使って木槌で木のたたき台の上で植物繊維を叩くという単純な繰り返しの作業は大変重要な意味を持った。
 授業が進む中で、並行して材料のこうぞを使った紙漉きを体験させ、次の授業にはそれらがきれいな繊維の流れがある1枚ずつの紙になっている感動を経験し、材料作りでしている単純な作業(材料作り)が製品につながることを理解していく中で、意味を持った作業としてそれぞれの生徒の中で位置づけられるようになった。
 さらに授業が進む中で、全体的な生徒の作業能力の高さは今年度の1年生の作業の内容を紙漉き中心の、それもバラエティにとんだ紙漉きの展開となった。例年のカレンダ−用A5版染色和紙中心の紙漉きからレタ−セット用A4版染色和紙、A5版はがき用和紙などである。
 そして、毎時間の最後には共同して溜め漉きによる「大きな紙作り」も行い、作品展には2−3年生がその大きな紙を使い、ランプシェイドやマガジンラックとして製品化した。
 
U.高等部2−3年生授業報告
        S-M社会生活能力検査の結果
紙工2−3年生徒
    社会生活年齢   作業発達年令
   B 児      
   C 児        
   D 児        
   E 児        
   A 児        
   F 児        




 ※ 個人情報の問題があり、
  HP上では測定値は公開し  ておりません。
 
 
 
 今年度紙工作業2−3年生の生徒は、6名である。今年度から選択教科として紙工作業に入った2年生のB児・C児は作業発達年令も高く、1学期は1単位時間内により多くの枚数で均質な物を漉く事を目標とし、卒業式案内状の長3封筒用紙やA4版便箋用紙の紙漉きを作業の中心とした。B児は授業が続いているときには自信が生まれ、枚数も増えるが授業がとんだりすると自信がなくなってしまい、漉く枚数が減ってしまう事が多かった。一方場面緘目で随所に挑戦する事への堅さが見られたC児は、指示を仰いだりする必要があったり、できた枚数を5枚ごとに報告する場面では、それがいやさにわざとゆっくりすることがあった。そのことから1学期後半から2学期にかけて、B児にはいろいろな仕事を任せ、それが終われば紙漉きといったことで任される自信と紙漉きの仕事に戻ったとき、その都度不安にならず自信を持ってするようにアドバイスを続けた。2学期後半には自分から難しい重ね漉きに挑戦してみたいと申し出るまで成長し、まだ難しいかなと思いながら指導してみたところ、こつをすぐ飲み込み楽しんで取り組めるまでになった。またC児も1学期後半から先生に用事があるときは「押して点灯するライト」を用意し、押させたが、教師がライトがついていても気づかなかったりで、次に呼び鈴を用意した。それは鳴らしてくれるのですぐわかったのだがその次から用意するのを忘れてしまった。しかし、そのころからC児の中に、この授業では用事があったら聞いてもらえるとわかったのか、近くの先生のところへす−っと寄ってきてくれるようになった。
 3年生のD児は自閉的傾向が強く、3年になり自分の世界に入り込み、常に片耳をおさえるこだわりが多くなった。強く我に返らせないと漉く動作以外は片手で作業することが目立った。それでもさすが3年生で片手でしていてもムラのない均質な紙が漉けている。ただ、3年生になり、現場実習が何度か入ったりして、両手で作業ができるよう継続指導ができなかったのが残念である。またゴム印押し、大量のミキサ−かけなど、任せられる仕事も増えた1年であった。
 2年生のE児は視知覚の認知障害があり、一連の紙漉き作業の工程をきっちり覚えてするのは難しいかと思われたが、視知覚と両手の協応が必要とされる水分吸引の掃除機かけのノズルを改良し、平行移動するだけで吸引できる物にしたことで、1人ですべての工程がこなせるようになった。他の授業では1人でできるということが少なく、また関わる教師もつい手を貸してしまい、自分の担当の先生がいてその先生と一緒に活動することで満足しているD児であったが、1学期にはなかなか覚えられなかった準備物の用意、片づけの仕方が夏休み前にはほぼ覚えられるようになり、行事などで1〜2週間授業が抜けた後でも忘れずに準備片づけができるようになって、ますます紙工の授業では自分でできるんだと自信を持てるようになった1年であった。今後さらに自発性が育つ楽しみを抱かせてくれている。
 3年生のA児については、最初に事例報告したとおりである。
 次に2年生のF児は口が達者で、人の言ったことをすぐ反復し、大人を話しに引っ張り込む才能に長けた生徒である。そのおしゃべりをすることで、もちろん手元はおろそかになり、かつ能力的にも難しく、これまで1人で何かの作業ができる状態ではなかった。そこで、2年生の紙工の授業をとることになり、とにかくおしゃべりをせず1人で材料作りのこうぞ叩きが持続してできるようになることをこの1年の目標とした。今年材料作りの作業は1学期の途中からこの「F児」1人でかつ担当の先生が1人ついた状態であったが、担当の先生がうまく彼女の話には乗せられないようにし、且つF児の集中持続力がとぎれそうになると適切な言葉かけを行って、気持ちを高めている。徐々に紙工の授業を楽しみにできるようになり、持続力も少しずつついてきている。
 以上が2−3年生紙工授業の生徒の成長の様子である。
 
V.今年度製品化したもの
 A5版和紙はがき用紙・和紙はがきセット(1年生)、A4版染色和紙はがき用紙・染色和紙はがきセット(C児)、A5版染色和紙(E児、A児、1年生)、A4版染色和紙(D児、B児、C児)、長3封筒用紙(C児)、A4版卒業式案内状用便箋(B児)、カレンダ−(1年生)、大中小入れ子小箱(漉き、カット−校内実習、折り、組み立て−C児)、ブックカバ−(編み目の紙−F児、折り−A児F児)、レタ−セット(カット−B児、セット作り−C児)、ランプシェイド(大きな紙−1年生、重ね漉き和紙−B児、幌作り−B児)、マガジンラック(大きな紙型どり、カット−B児)
 
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