紙工作業学習の取り組み(2000年度実践報告)
浅 井 茂 治
黒 河 伯 子
キ−ワ−ド
紙工作業 作業学習 和紙 手漉き和紙 紙漉き
楮(こうぞ) ケナフ(パルプ化・はがき) 漉き具
壁掛け ブックカバ− 和紙はがき 学校用封筒 レタ−セット
和紙カレンダ− 名刺 牛乳パック/ダンボ−ル混合再生はがき
大きな紙(菊判 636×939 ) 「紙漉き作業学習」研修会
1.はじめに
まる9年を経過した紙工作業は、停滞することなく今年度も授業に受け入れ
た生徒個々の発達レベル、障害の状態、個性に合わせて作業方法・道具の工夫
・新しい作業の創出を行い、日々試行錯誤の中で努力する事ができた。また、
これまで培ってきた作業のノウハウや工夫について広く情報発信したり、研修
会を企画する中で情報を私物化するのでなく、公にすることで自らの作業方法
論について、いろいろな意見を聞き切磋琢磨できたように思われる。昨年度よ
り行ってきた次世代の紙の原材料と期待される「ケナフ」の栽培・パルプ化・
紙の制作に関しては、エネルギ−効率の問題から難しいという一定の答えが見
いだせた。
実践報告として
・ 今年度生徒の状況及び実践
・ 今年度の取り組み
「紙漉き作業学習」研修会の開催
インタ−ネットホ−ムペ−ジを使っての情報発信
重度肢体不自由生徒が一人でできる作業の模索
壁掛け・ブックカバ−の制作
大きな紙の制作
ケナフはがきの制作
をまとめることにした。
2.今年度生徒の状況及び実践
今年度紙工作業学習は、2〜3年生の選択授業として(9+1)名、週3単
位時間。1年生(Aコ−ス)は全員が週1単位時間。
注:本校1単位時間は65分である
1 年生 社会生活年齢 作業能力発達年齢
A児
B児 ※ここで使用した社会生
C児 年齢、作業能力発達年齢は
D児 S−M社会生活能力検査に
E児 よる発達年齢である
F児
G児
H児
I児
J児
K児
L児
M児
N児
O児
2〜3年生 社会生活年齢 作業能力発達年齢 主な作業
P児 A5版はがき用紙の紙漉き
Q児 材料作りミキサ−かけ網目模様
R児 染色和紙紙漉き
S児 はがきサイズ用紙の紙漉き
T児 材料作りミキサ−かけ網目模様
U児 各種サイズ紙漉き カット
V児 郵便番号ゴム印押し セット作り
W児 網目模様の紙
X児 各種サイズ紙漉き 加工全般
Y児 A5版染色和紙の紙漉き
※ 封筒用紙の紙漉き・牛乳パック/ダンボ−ルの混合再生はがき
の紙漉き・・・ 随時
※ 1学期に転出した1名については検査資料なし
※ 検査の測定値は個人情報の問題もあり、HP上では掲載できません
1年生は、毎週4単位時間ある作業学習にこの「紙工」と「木工」「縫製」
「窯業」を各1時間ずつ履修する。2・3年生では4つの作業種目の中から1
つを固定して履修する。そのため、1年生では、それぞれの作業内容について
楽しみながら経験させ、基本的な作業への構えを作り、且つ生徒の作業適性を
見ていく。今年度も1年生(Aコ−ス)の生徒は、昨年度と同じようにα組と
β組に分けて授業を行った。
年をおうごとに、障害による多動といった問題ではなく、授業に際して「じ
っとすわっていることができない」「与えられた課題に取り組もうとする構え
が未熟である」といった生徒が増えている。
そうした状況も配慮し、今年度もα組7名とβ組8名を分けて授業を行った。
1学期は、材料作りの「楮たたき」作業を持続して行えるようになることと、
紙漉きの導入を行った。2学期に入り、紙漉きのための準備、片付けを確実に
覚え、紙漉きの作業工程を覚える中で、指示通りの作業がよりできるようにと
いうことをねらいとして取り組んだ。また、2学期途中から漉いた染色和紙に
プリントごっこで印刷を施し、竹ひごやひもで製本する2001年カレンダ−
の製作を行った。
こうした紙工作業の導入を行いながら、今年度の生徒の障害の多様性に対応
しつつ学習を行った。道具の工夫としては、痙直型脳性マヒで唯一随意運動が
可能な左手上肢の返し運動を利用するため、てこの応用をした材料たたき台を
目の高さの机に固定し、天井に滑車をつけてわずかな上肢の動きで材料作りの
楮たたきの作業ができるように工夫を行った。ただその A児の発達年齢からい
って作業への意欲を引き出すのは難しく、他の生徒が室内で行うミキサ−かけ
の音に昼食のミキサ−の音を想起し、作業への意欲は少ししか見られなかった。
逆に何かをさせられることがいやで立ち歩きの多い E児は、毎回同じ場所の丸
太台を指定することで、この場所では楮たたきをするということがわかり、少
しずつ持続してすわり作業ができるようになった。ただ週1時間でよく授業が
とんだ2学期はやはり初期の状態に戻ることが多かった。逆に作業能力があり
ながら常に注意が拡散してしまうJ児N児は繰り返しの中で集中力が増し、少し
ずつ指示が聞けて、正確な作業ができるようになった。場面緘黙の F児は、本
児の作業能力からすれば簡単である材料作りの作業を通して「この作業は自分
はきっちりできる」という自信をつけ、出席の返事ができるようになり、次に
は女性担当者に「できました」等の報告も言えるようになった。
一方2〜3年生の授業では、決まった作業を与えそれぞれの課題に応じて、
その作業に取り組んでいる。作業能力の高い X児については、技術が必要な名
刺用紙の紙漉きはもちろんの事、高度な技術を必要とする網目模様の重ね漉き
や(3−(4)で詳細記述)、製品化ではトムソン刃による封筒の型抜き、糊
付け、レタ−セット作り、壁掛けの軸付け(3−(4)で詳細記述)など多岐
にわたる作業を行わせ、作業手順を確実に聞き、理解する力、確実に作業する
力、いい物を作り出そうとする気持ちの大切さなどを教えることができた。自
閉的傾向のある U児は、そのサイズの紙漉きではじめは丁寧にたくさんの紙漉
きができるが、回数を重ねると生産性がおちてしまいどうしても作業意欲が育
たなかった。そこで毎回ノルマを課し、タイマ−を使うことで、ようやく毎時
間20枚する事が必要であるということが理解できたようである。
しかし、より簡単な薄い紙の紙漉き(同じペ−スですれば20枚以上できる)
をさせたところ授業が終わったときにその紙漉きでもきっちり20枚であると
いう大きな問題点が残ってしまった。一方のんびりした性格の P児も、はじめ
はいい物をたくさん作ろうという意欲がなく、毎回なんとなく作業をこなして
いたが、完成の早い紙(次の日には乾いてできあがるので)は次の日には前日
漉いたものが見せられるため、それらを提示する事で製品の善し悪しを判断し、
いい紙を作ろうという意欲に繋げることができた。次はいかに生産性を上げる
意欲・競争心を持たせるかが課題である。細かいことは気にせず注意されると
興奮する性格であった R児であるが、2年生になりこの紙工の作業に入ること
で、紙漉きの作業が大変好きになり、4・5月こそ雑に漉いた紙を指摘され、
ぷうっとふくれていたが、それ以降は指摘されると自分で「だめね−」といっ
て納得できるように成長した。こうして指示が聞けるようになり、正確な動き
でいい紙が漉けるようになってきている。電動車椅子を使い、意欲は高いもの
のマヒもあり、上肢の可動範囲も狭く、力も弱い S児に対しては、どうにかし
て先生の手を頼らず自分一人で作業し、一連の作業を通して物を作り上げる喜
びをこの紙工作業を通して、味合わせたいと考えた。この取り組みについては、
3−(3)で詳細に述べる。さて重度で自閉的障害を持つ W児は、昨年度材料
作りの作業を通して、少しずつ精神的安定が見られたが、作業の中でこだわり
が生じ、たたきすぎて手に豆を作るようなことがあった。そんな本児にあった
作業として、今年度から始めた網目模様の紙作り(3−(4)で詳細記述)を
とおして、いつもいい表情で続けて作業ができるようになった。また、1枚終
わる毎に休憩を入れ、そういった指示も受け入れられ、気分転換もスム−スに
はかれるようになった。重度のQ児とT児はともにパニックはなく人なつっこい
生徒である。その分、材料作りの作業では手元を見ずに周りの先生や友達に注
意がいってしまい、どうしても集中持続して作業をする課題を楮たたきの作業
だけでねらうのは難しいように思われた。そこで、材料作りへの意欲を持たせ
るために、作った材料を使って楽しく活動する大きな紙作りを授業の最後に取
り入れた。(3−(5)で詳細記述)また、手元への集中力を引き出すために、
授業の時間中、20から30玉の楮だんごを次々にミキサ−にかけていく作業
を取り入れた。ガラス製の入れる部分を丁寧に扱って、水を入れたり、またで
きあがった物をこぼさないようにザルにあける。またガラス部分を機械部分に
きっちりはめこむなどの集中して手元を見ながら、少し緊張感を持ちながら作
業をするという意味で二人にとってはいい作業となった。また、10までの数が
難しい二人であるが、ミキサ−をかける10の時間を身体の感覚で習得する事
ができた。精神障害をもつ V児においては、「作業能力が高いにも関わらず、
作業ができないのはわがままだ」ととらえられがちであるが、昨年度から本児
の障害を理解し、作業を押しつけるのではなく、2から3の作業(ゴム印押し
やセット作り、ペ−パ−カッタ−を使ってのカットなど)を用意し、自分で選
択させ、しんどいときは自分で考えて休憩するようにして作業をさせた。この
時間には「無理にやらされない」「がんばれと言われない」そんな積み重ねの
信頼関係ができたことで、この作業中には荒れることもなく、調子のいい日に
は他の生徒も驚く程の量の作業もできることがあった。担任からは、紙工の作
業がある日には休みがちな彼女が必ず来ていますよ。とうれしい言葉を聞くこ
ともできた。
3.今年度の取り組み
(1)「紙漉き作業学習」研修会の開催
5年前に障害者の紙漉き作業に関わる担当者が集まり発足した研究会「もう
1つの紙」は、毎回多数の参加者を得て拡大し15回を重ねてきた。その中で
本校も実技研修の会場として4回を数えて経過してきた。今年度その研究会
「もう1つの紙」が衣替えし、実技研修はその研究会から分離し、その受け皿
として本校が引き受けていくことになった。
こうして9月2日に、はじめて第1回の実技研修会を本校で開催した。当日
は、牛乳パックによる紙漉きの初級入門技術をテ−マに、処理法・保存法・紙
漉きのこつ・紙質を高める方法について研修を行った。15機関(5施設6作
業所1中学校3養護学校)22名の参加を得ることができた。
第2回は2月3日に楮を使った紙漉きの方法をテ−マに、楮の入手方法・材
料処理の方法・紙漉き入門技術・製品化について研修を行う。
(2)インタ−ネットホ−ムペ−ジを使っての情報発信
ホ−ムペ−ジ「知的障害者の紙漉き」
上記のようなホ−ムペ−ジを1998年5月に開設し、2000年末ですでに
約8,000回のアクセスがあった。このホ−ムペ−ジの目的は、ホ−ムペ−
ジ上でも書いているように下記の5つである。
1. こうした取り組みをいろいろな方々に広く知ってもらいたい。
2. 知的障害を持った人たちと関わっておられる施設や作業所の
方々に知ってもらい、「すばらしい製品を作り出し、社会参加
していく1つの手段になり得るのではないか。」ということを
検討してもらいたい。
3. すでに和紙作りに取り組まれている方々と情報交換を行いたい。
4. 新たに取り組まれる方に、ノウハウを伝えたい。
5. 障害者と関わりがなくとも、和紙や紙の流通に関わっておら
れる方から知識や情報を教えていただきたい。
このような目的に対し、大阪府下はもとより、日本全国 時には外国からも
知的障害児・者に関わる紙漉きについての技術供与・道具製作方法等の依頼や
工夫点の質問が多数寄せられ、初期の目的を達成している。
(3)重度肢体不自由生徒が一人でできる作業の模索
S児は、社会生活年齢3歳11か月・作業能力年齢3歳10か月、頻発生のてん
かん発作があり、左手は麻痺が強く握力も弱い。又右手も素早くは動かせない。
又起立、歩行は難しく移動は車イスで行なっている。ところが、作業に対して
は意欲に満ちやる気を秘めた生徒である。勝ち負けを意識し、物事に挑戦する
面も持っている。工程を理解する力も充分にあるので、このような特性を意識
しつつ作業に取り組ませた。
まず、今まで多くの作業の授業で、マンツ−マンで教師が付くことが多く、
誰かと一緒に作業をすることが当然と思っている心理面からの脱却の必要性、
さらに一連の作業において教師の援助なく自分一人でやり抜く事が不可能と思
わせている物理的状況があり、自分一人でも何かが作れるんだという経験をさ
せる必要性が課題と考えられた。そこで、S児には取り組みやすい材料叩きの
作業から始めた。当然最初は「一緒に叩いてください」と言うことが多かった
が、その回数を減らすよう、最終的には必要なときのみ教師を呼ぶことを目標
に指導していった。その結果1学期の終わりには10回叩けば木づちを置き、こ
うぞを裏返してまた叩き続け、一定の回数を叩くまではこちらを呼ばないとい
うまで成長し、また「自分は一人で作業できるのだ」という自負心を持つまで
になった。このときの道具や材料準備の工夫としては、
@材料叩きの台をS児が作業しやすい高さ・位置にするため、丸太台をスラ
イスして枠にはめそれを作業机に固定する
A材料はあらかじめ少し指導者のほうでたたいておき、本人の頑張った作
業量が他の生徒と遜色ないものになるようしておく
Bミキサ−は、独力で持てる小振りのものを用意する
この材料叩きの作業を1年生から2年1学期まで行ない一人で作業する自信
が付いたところで、紙漉きの作業に移行した。この時点においての課題は、本
人の精神面ではなく、いかにスム−スに独力で紙漉きが行なえるか、そのため
の道具の工夫であった。そのためには、道具のほとんどを本人用に新たに作っ
たといっても過言でない。
@漉き具を置く作業台…車イスに座った膝の高さより数cm上のところにあ
わせて製作(それによって車イスに座って漉いても、 S児の両手の可動範
囲が最大限に生かせ、実際の作業の中で漉き具の中のパルプ液を見ること
ができる)
A漉き具‥パルプ液を流し込み、ゆするという方法を取った。
その際、
・ 漉き具をキャスタ−付きの台の上に乗せ、左右に動かすことで揺する動作
となるようにした。
・ 漉き具の枠の高さを高くしてパルプ液が溜まるようにした。
・ 漉き具の左端に取っ手を付け、マヒが強く動かしにくい左手で持ちやすく
した。
画像1.漉いているところ
B金網…こしのある紙を作るためには、パルプ液を揺する時間を確保しなけ
ればならない。そのためにねりを濃くしたがそうすると、ムラができたり
アクリル板に取る際落下したりした。結局1枚の金網の下に不織布を2枚
貼りパルプ液の落下時間を遅くした。
C掃除機掛けの台…水分をとるために掃除機を掛ける際、左手でしっかり押
さえるのが難しいので、金網を貼った台に挟み込み左手を回りの枠に軽く
添えるだけで掃除機を掛けることができるようにした。
Dアクリル板、当て布…通常かさねて台の下に置いているが、立てて置くこ
とで手を伸ばせば取れる位置に配置した。
Eシンク槽…斜めにカットされ、水が800ccは溜めることができるものを探し
使用。S児が一回の授業時間に流し込む水の量は現在の時点では、多くと
も600cc を超えないことを確認の上。《現在は、園芸用の土混ぜポットを
使用》
これらの道具はS児に実際作業させて、より使いやすいものをと少しずつ改
良を重ねていったもので、現在の形に決まったのは紙漉きの作業に移行して1
カ月以上経っていた。
画像2 掃除機で吸水
道具は改良されていってもS児が作り上げたものが製品として通用するには
いろいろな工夫や本人自身の課題が残されていた。まず、他の生徒と異なった
趣のある製品にするため、パルプ液に変化を付け、今まで製品化していなかっ
た染色和紙のカ−ドや染色和紙が交じっている葉書に取り組ませ本人の作業意
欲を刺激した。またパルプ液をよく揺するよう声かけし、右手を大きく動かす
こと、左手は必ず漉き具に添え小さくても動かそうと努力することを要求した。
その結果、麻痺のため一学期は殆ど動かされていなかった左手は、現在作業
の時自然に使われている。)
作業に独力で取り組むのは、今のS児にとっては当たり前のことになってお
り、必要なものに手が届かなかったり困ったりした時だけ指導者を呼ぶだけで、
あとは黙々とコンスタントに作業をこなしている。その様子は、車イスを使わ
ない他の生徒の作業の様子となんら異なるところはない。「より良い紙を作る
ことが目標であることをを本人に自覚させ、そのためにはどのようなことに気
をつけていくかを意識させ作業に取り組ませていく」それが、次の段階のS児
の課題であろう。
(4)壁掛け・ブックカバ−の制作
昨年度2年生で紙工作業に入った重度で自閉的障害を持つW児は、昨年度材
料作りの作業を通して、徐々に安定が見られたが、それでも担当者からのきっ
かけ(声かけやタッチ)がないと木槌を動かさない時期、逆に一瞬もとまらず
たたき続ける時期があった。特に叩き続ける時期には柔らかい手に豆を作るこ
とがあった。そこで、材料作りのように「工程が単純で緻密さを要求せず繰り
返す作業」で、且つ本児の好きな水をさわる作業、そんな W児が安定して取り
組め、自発的に持続もできるのではないかと考えた。そしてその活動が新しい
製品として有効なものになる作業となることも必要であった。そんな考えの中
から開発した作業が網目模様の紙作りであり、それを使っての壁掛けやブック
カバ−の制作であった。
まず、A5版・A4版の木枠を作り、枠の周りに1.5p〜2.0p間隔に釘を
打つ。その釘を使って、木綿糸或いは麻糸で網目状に糸を張る。こうして糸を
張った木枠に、W児が薄いパルプ液を柄杓でかけ、貼った糸にパルプを絡ませた
ものをつくり、掃除機で吸引した後、そのまま陽に干すのが、新しい作業とな
っている。
1日干して乾いたものを木枠からはずし、次の工程に移る。A5版のものはA4
版に、A4版のものはB4版の紙の中に漉き込んでいく作業である。たとえばA5版
の網目模様の紙は、まずA4版の紙を漉き、その上に乾いたA5版の網目模様の紙を
置く。そして、その置いた網目模様の紙がめくれないように再度重ね漉きをし
て、紙と紙の間に網目模様の紙を封じ込めるのである。この非常に難しい作業
をX児が習得し、確実に枚数をこなせるようになった。
その重ね漉きした紙は他の紙と同じように乾かし、次に製品化の工程に入る。
まず壁掛けであるが、紙の2辺をペ−パ−カッタ−でまっすぐに裁断し、紙の
1辺より長めに切ったケナフの茎をカッタ−ナイフでまっぷたつにしたもので
はさみ、木工ボンドで接着して、染色した凧糸を掛ひもとして結ぶ作業である。
非常に手先の巧緻性を必要とする作業で、今年度はこれも一連の作業を X児が
一人でこなしている。来年度はこの一連の工程を細分化し、多数の生徒が関わ
っていけるようにしたいと考えている。
次に、ブックカバ−の場合は、A4版の紙から単行本用、新書本用を、B4版
の紙からは単行本用、A5版本用のものを型紙をあてて折って作り上げる。網目
模様の紙が漉き込まれていることで、折った部分の強度が増し、且つ網目模様
の紙が漉けて見え、すてきなデザインのブックカバ−ができあがっている。
(5)大きな紙の制作
昨年度から始めた菊判(636×939p)の大きな紙作りの作業。作る方
法については1999年度紀要「紙工作業の取り組み」に掲載したのと同じで
ある。今年度も1年生紙工の授業では、生徒の様子などを見ながら興味を引き
出すその授業の最後の活動として取り入れた。
一方2・3年生の授業では、主に材料作りをしている重度のQ児・T児はパニ
ックなどはなく、作業をとおして精神的安定をはかる課題はなく、いかに集中
して意欲を持って作業に取り組めるかが課題であった。そこで、毎回の授業の
後半にその日作った材料を使って大きな紙を作ることを示し、少しでも多くの
材料を作り出す意欲につなげた。
また、今年度作り上げた大きな紙を使って、作品展のコラボレ−ション展示
を大々的に行う。
(6)ケナフはがきの制作
昨年度本校の隣接地にM市公園緑地課の委託を受け、500uに植えて刈
り取ったケナフは、約7割をM市が製紙会社へ持ち込み、パルプシ−トに加
工して返してもらった。また本校に残した分は府立八尾養護学校のプラスチッ
ク粉砕器で5o前後に粉砕させてもらい、アルカリで炊いてどうにか芯状のパ
ルプにまでした。
こうして今年度、パルプシ−トを溶かしたパルプ液に本校でパルプにした芯
状のものを混ぜ、さらに紙にこしをつけるために楮パルプを1割程度ブレンド
して漉き、ケナフのハガキを作り上げることができた。
※ケナフの利用について
マスコミ等で広くケナフが取り上げられ、本校でもケナフが和紙の材料として
有効なのではないかとこの2年間模索してみた。ケナフは二酸化炭素吸収量が
高く自然に優しいと言うことであるが、パルプ化するためにはその強固な靱皮
を溶かしたり粉砕するのに、大量且つ強力な化学剤が必要であったり、膨大な
物理的エネルギ−が必要であることがわかった。単純に楮のようにパルプ化で
きず、そう簡単に紙の材料として使えないことが判明した。
5.おわりに
今年度の紙工作業の展開は、車椅子使用の S児の作業意欲を引き出し、一連
の紙漉き作業を独力でできるよう、道具や工程を工夫し整備したことにつきる
ように思われる。S児ばかりではなく、重度で自閉的傾向を持つW児への網目模
様の紙作りの作業を取り入れたこと。重度のQ児T児の集中力を持続させるため
に取り入れた大きな紙の制作や繰り返しのミキサ−かけの作業、また軽度の X
児に対しては、より高度な重ね漉きの作業や壁掛けの軸付けの製品化。また従
来の紙漉き作業を繰り返す中で突き詰めさせ、より均質ないいものをより多く
作り出すことを目標にした P児R児U児。毎回2から3つの製品化の作業を用意
し自分で選択し調子を自分で考えながら安定して作業できるようにさせた V児
への取り組みがあった。
こうした個々の生徒の状況に合わせて、楮を使った紙漉き作業といった題材
をいかに変化させ、教材としていくかということが、9年目のこの1年間試行
錯誤しながらより充実して実施することができたと思われる。
また、こうした作業のノウハウを本校だけのものとはせず、インタ−ネット
を通じて情報発信し、情報を提供できたこと。また、2回の「紙漉き作業研修
会」を実施する中で、具体的に研修をし広めることができたと思われる。
実践報告
1. 紙工の取り組み(実践報告)
大阪府立N養護学校M分教室紀要(第2号) 1992
2. 知的障害養護学校における作業種目の研究
−主として紙工芸の有効性の検討−
大阪府教育研究グル−プ報告書 1993
3. 「紙工」作業工程の分析と考察
−紙漉きによる和紙作りの実践をとおして−
大阪府立N養護学校M分教室紀要(第3号) 1993
4. 紙工作業学習の取り組み(94年度実践報告)
〃 (第4号) 1994
5. 紙工作業学習の取り組み(95年度実践報告)
〃 (第5号) 1995
6. 紙工作業学習の取り組み(96年度実践報告)
大阪府立M養護学校実践報告集 (第1号) 1996
7. 紙工作業学習の取り組み(97年度実践報告)
〃 (第2号) 1997
8. 紙工作業学習の取り組み(98年度実践報告)
〃 (第3号) 1998
9. 紙工作業学習の取り組み(99年度実践報告)
〃 (第4号) 1999
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