
東海豪雨から途上国の都市水害とODAを考える
先日、NHKスペシャルで「濁流が都市を襲う」と題して、名古屋市とその近郊に大きな被害をもたらした東海豪雨が検証されていた。水田だった地区が街になり、コンクリートで固められた住宅や道路が整備され、住宅の基礎が高くなった。こうして、洪水が短時間で大量に流れ出し浸水が深くなり、被害が深刻化する様子が、描かれていた。さらに、これまで対策として進められてきた河川改修や下水道が、今回のように想定を超える豪雨に対しては、機能不全におちいった状況を明らかにしていた。
途上国でも、都市での洪水による都市機能の麻痺は深刻な問題である。特に、東南アジアの主要都市−マニラ、ジャカルタなど−は、海岸沿いの低湿地に発展してきており、熱帯地帯に位置するので、台風や豪雨、高潮にしょっちゅう襲われる。途上国では農村の経済活動は活発でなく、都市が経済の担い手、つまり働き場所になっており、地方から人々が職を求めて急激に流入し、都市化が加速している。しかしながら、他のインフラ同様、十分な河川整備は行われていない。このため、交通や経済活動、市民の生活が年に数日間停止するのは、雨季の風物詩といってもよいほど、繰り返されている。
途上国の都市水害問題はまさに日本の後を追っており、今回の東海豪雨も含めた日本の災害と防災の経験から、途上国の都市水害の軽減や、日本の援助を考えてみたい。
▼ 日本は反面教師?
戦後の日本の国土の荒れていた時期には、伊勢湾台風、カスリーン台風など、数千人の人命が大河川の氾濫などで毎年のように洪水で失われていた。幸いなことに、日本は奇跡的な経済成長のおかげで、その後数十年間にわたり河川事業への予算を配分でき、堤防やダムなどの治水施設の整備が進み、現在では多くの人命を失うような大河川での大水害を減らすことに成功したのである。
一方、都市化は水質汚染や里山の宅地化など、環境に負担をかける形で進んできた。洪水対策としては、少しでも早く、下水道へ、小川へ、河川へ、そして海へ、と流すことを考え、川を直線化し、コンクリートで固め、ポンプ機を据えるなどの整備が進められてきた。
こうしたハード中心のアプローチが推し進められているが、現状は都市化と治水施設の建設のいたちごっこになっており、しかも洪水対策は常に後手、後手に回っている。神田川の流域では、未だに数年に1度、水に浸かるが、先進国でこれほど頻繁に災害を受けている首都は東京ぐらいであろう。こうした巨大投資をしても、想定を超えた雨が降れば、都市水害を防ぐことができないことは、今回の東海豪雨によって明らかになった(もっとも、専門家や技術者はこうなることを承知していたが)。かといって、都市化は進むので、治水投資を止めるわけにもいかない。しまいには、東京や大阪で行われているように、地下に巨大な人工河川を建設しなけれがならなくなる。これなど、まさに、行き着くところまで行き着いた、という感じがする。
果たして、これが日本が途上国の大都市に示すべきモデルであろうか。
多くの途上国では経済発展を未だ遂げておらず、日本のように多額の予算を治水事業に割くことは難しい。残念ながら、巨額の予算をつぎ込んで、河川整備してきた日本の経験は、途上国では十分に生かせない。技術は活用できても、同じような大規模施設を建設し続けると、日本のようにある一定のレベルに達するのは、予算の制約から始まったばかりの今世紀中に可能かどうかも怪しいのである。
都市洪水の対策については、日本はいいお手本にはなりそうもない。むしろ、途上国と一緒に対策を考えていく、ということになろう。
▼ ソフトとハードの融合
解決策は当然、環境と調和した都市の発展、である。
日本で行われている総合治水は一つのアプローチである。これは、都市化が進んだ分の負担をなるべく川にかけず、流域内や都市の中ででできる対策はしよう、洪水の流出を抑えよう、という思想である。具体的にはグランドや公園を貯水池として活用したり、地下への浸透を早める、といった施設の建設である。
これは都市水害対策に限らないのだが、開発の規制も重要である。途上国ではどの都市も立派な都市計画を作ってある。しかしながら、実際に計画に従って、都市開発が規制されることはまれである。災害の被害を大きくするような開発を規制、制限することが求められる。法や規制の実施は途上国では自治体の能力不足、順法意識、というか法に従うという習慣の欠如といった理由から、容易ではない。しかしながら、自動車の排気ガス規制、環境アセスメントの実施などは、多くの途上国で曲がりなりにも実施され始めている。都市計画に基づく規制もあながち夢物語でもあるまい、と思う。
もう一つのアプローチは施設に頼らない、もしくは補完する対策の重視である。これは、ポンプ場や河川整備をハード対策と称するのに対して、ソフト対策と呼ばれている。日本では洪水ハザードマップと呼ばれる、危険地域や避難施設、避難路を明示した地図を住民に公表することを進めている。想定以上の水害が襲ってきても、あらかじめ危険な地帯を住民に周知しておき、情報公開と避難体制の整備で被害を抑えようというのが目的である。
この他にも、予報や警報、洪水の情報を流す、あらかじめ避難計画や、救援計画を作っておく、ボランティア団体や住民団体を組織しておく、などなど、施設に頼らない、効果的なソフト対策は数多くある。
通常、途上国では洪水の常襲地帯では、すでに住民自らの合理的な判断から、洪水に対処する何らかの方策を身につけている。こうした、すでにあるメカニズムを補強することは、即効性がある有効な手段である。
▼ 技術重視の防災援助から転換を
日本の政府開発援助(ODA)の施設建設中心主義は、防災分野でも例外では
なく、堤防、ポンプ場などハード中心で進められている。すでに論じたように、
予算の制約から十分なインフラ整備が進められない途上国では、被害の軽減の
ためには金のかからないソフト対策こそ大事である。ソフト対策はその国の持
つ社会経済的な背景、習慣、歴史などを調査した上で、具体的な方策を作り上
げていく必要がある。これまでの技術、工学重視の援助から、社会的な視点を
いれ、金より手間をかける援助を進めていくよう、方針の転換を図るべきであ
ろう。
○ 英語一口メモ software measure, hardware measure
ソフト対策,ハード対策: 日本語を強引に訳すとこうなる。一様、これ
で意味は通じるようである。