
市場原理で水の効率的な管理は可能か
日本ではこの夏は渇水が心配されているが、アメリカでも50年に一度といわれる干ばつに襲われている。The Economist誌7月14日号は、電力危機と水不足に同時に襲われている、アメリカ西部の状況をレポートしている。そして、この2つの問題の解決方法として、川を流れている水を売買できるようにして、水利用者の間での水の一時的な融通を(農民から水力発電に)行えるような、制度を整えるべき、と提案している。以下、抄訳です。
『「水危機とエネルギー危機:
あなたはジャガイモを、と言う、私は電気を、と言う。
−西部の水は、ジャガイモ農民と水力発電所のどちらに流すべきか?-」
アイダホ・ポテトで知られる、アメリカ西部のアイダホ州は、全米の3割のジャガイモを産出している一大産地である。マクドナルドのポテトフライでわかるように、ジャガイモはアメリカの食文化の中心であるが、近年、生産過剰、豊作びんぼうの傾向にある。一方、現在、西部諸州は電気の需要に供給が追いつかない電力危機にある。ジャガイモの耕作向けの余っている、かんがい用水を、水力発電に転用できれば、電力危機は緩和されるのだが、制度の制約により、水利権のこうした転用はなかなか進まない。
農家が5年続けて水を使わないと、川から水を引く権利(水利権)を取り上げられてしまう。そして、水の使用料は低く抑えられている。このため、農民としては水を節約するよりも、とにかく使おうとするのである。
問題の解決のためには、渇水の時に水利権を失わずに、一時的に転用するための売買を簡単に行えるような、市場を整備すべきである。安いポテトフライよりも、安い電気を望むなら。』
この問題を簡単にすると、川の中を流れる水を公共のものと考えるか、売買して融通できる商品と捉えるか、という争点が浮かび上がってくる。
▼ 競争で水のむだづかいを防ぐ
まず、川を流れる水は公共のもの、という考え方の説明をしてみたい。適当な例は日本である。大都市近郊の水田が宅地に変われば、稲を作るためのかんがい用水は不要になり、逆に、増加した住民への生活用水が必要になる。かんがい用水を生活用水に振り替えれば、あっさりと問題は解決されそうだが、かんがい用水の権利を持つ農民が、余った水を市の水道局に直接売ることは、制度上認められていない。この場合は、余った水の権利は、河川を管理する国や県にいったん返上し、その後あらためて、市の水道局に再配分することになっている。ここには金銭のやり取りは介在しない。
水は公共のものであるから、農民と水道局、もしくは水利用者間、での水利権の直接の売買はなじまない、というのが、世界の多くの国での現在の考え方である。これは、国などの公的な機関が、ダムやかんがい施設、堰などの水資源の開発や、川や水の管理を行ってきた、という歴史的な背景によるものと思われる。
これに対する批判として、この制度では水が無駄に使われる、というものがある。コロラド州で生産過剰のジャガイモの耕作に、いつまでも水が使われているのが一例である。当たり前だが、これは農民が悪いのではない。極端にいえば、農民には、水を使うのか、水利権をあきらめるのか、という選択しかない。水を譲ってもなんの得もなければ、その気にならない−インセンティブがはたらかない−のは当然である。
きちんと料金をつけて、適正な対価を支払って融通しあうことで、水を効率的に使用しよう、というのが最近出てきた考え方である。
世界で自由に水利権を売買する制度を持つのは、まだ限られた国でしかないがオーストラリアとチリで行われている。
チリでは、ある市の水道局が農民からかんがい用水の権利を買い取ったケースがある。これにより、この市では水道用の水源を開発するダムの建設を延ばすことができ、一方、農民は効率的に水を使うようになった、と報告されている。チリでは1981年に制定された水法により、水利権は他の財産権(土地など)と同様に扱われ、売却、一時的な賃貸、長期間の賃貸などの自由な取り引きが可能となっている。
オーストラリアは国の中央が広大な砂漠で、約2,000万人の人々は、水が比較的豊富な東部を中心に海岸沿いに住んでいる。土地は広大だが、この国の今世紀の人口−つまり、国力−の増加は水資源の量により、制約を受けるだろう、とすら言われている。この貴重な水資源を効率的に活用するため、オーストラリアは1995年に「国家競争政策」を採用し、その中で水資源の管理に競争原理を導入することとした。水のサービスは料金を利用者から全額回収されることが原則となり、補助は廃止、もしくは情報を公開することとなった。そして、ユーザー間での水利権の売買も認められることとなったのである。
▼ 果たしてうまく機能するの?
何しろ、世界的にも実例が乏しいので、この水利権の売買により、水資源がうまく管理できるかどうかは、まだ未知数といえる。例えば極端な渇水がおきた時、どうくぐりぬけられるのか、など、気になる点である。
しかしながら、何事にも市場原理を重視する、グローバリゼーションの風潮の中、水資源管理の有効な手法として、今後多くの国で採用されていくことが予想される。
理論上の問題点を指摘しておきたい。
・河川の流量や利用者の使用量を、どうやって厳密に常時、計測するのか?
・違反するものがいたら、どう取り締まるのか?
・貧しい農民が金銭目的で、水利権を安易に手放してしまうのではないか?
・競争原理で環境への影響が軽視されるのではないか?
・大資本が買い占めてしまわないか?
・豊かな都市が、貧しい村より有利にならないか?
・かんがい用水は農業目的、都市用水は生活目的、工業や電力は産業目的、違う目的にもかかわらず、共通の市場で競争させることが適当か?
○ 関連サイト
日本の水利権転用の実態
アメリカ内務省地質調査部(英語):全米の河川、地下水の水位、水質がリアルタイムでわかる。
○ 英語一口メモ Water rights 水利権