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途上国の激化する水争い


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 前回は水(水利権)の管理に市場原理を導入することで、水資源を効率的に管理・保全できるのか、論じたが、今回は途上国では何が問題になっているかを説明してみたい。

 極端な例では、中国の黄河の断水が有名である。上流での森林荒廃と大規模な水資源開発が進み、下流部では一滴も水が流れない日が何ヶ月も続くという。本来、中国の河川や水行政は省政府の権限が強かったのだが、この問題については中央政府が強力に介入し、上下流の間での水の利用の調整を図り始めたようである。

 途上国では、規模はもちろん黄河より小さいものの、限られた水を取り合う、類似の問題が頻発している。

▼ 水利権の欠落による混乱

 スリランカは日本と似ている点が多い。島国で、仏教国である。主食は米で、農地の多くは水田である。丘陵部を訪れると、険しい山々の合間に、茶畑が広がっていたりと、まるで日本に戻ってきたような気になる。

 他の途上国と同様に人口増加と都市化が進み、都市の住民や経済活動に必要な上水道の供給のため、水道施設が拡張され、川から取る水量が増えている。これが、農民との間であつれきを生じている。上水道施設をせっかく拡張しても、以前から上流にあった、かんがい施設が川の水を取水するため、下流には水が届かず、水道用水が不足する、といったことが起きている。逆に、上流で上水道施設を拡張し、川からの取水量が増加し、以前から下流にあった、かんがい施設では水が不足する、という事態も起きている。

 ベトナムは古くから水資源の開発が進み、そして頻繁に洪水の被害を受けるなど、河川、水資源の開発と管理は重要な課題となっている。こうした面で日本や中国と似ている。役所の体制は中国からの影響を受けているので、これも日本と似ている。農業生産を向上させるために、かんがい施設の建設が、増加する都市人口に飲み水を供給するため水道施設が、そして、電力供給のための水力発電所の建設を外国や国際機関の支援を受けながら進めている。こうした中、かんがいと上水道、加えて水力発電の間で、水配分のあつれきが生じている。

 水をめぐる混乱やあつれきが生じる理由は、はっきりとした水利権という制度、というか概念がない、という点にある。水資源開発を統括する役所がないため、かんがいや水道局、電力会社は勝手にダムや堰を建設する。先に施設を作って、もしくは上流で作って、水を取ったもん勝ち、の状態にある。川の水量を測る施設や体制が整っていないので、情報も不十分である。今、日本の各地で行われているように、渇水にみまわれた時に関係者の間で取水量の調整をしようとしても、データが無いのでは話が始まらない。

▼ 解決への遠い道のり

 これを解決するには多大な労力と時間が必要である。

 まず、河川と水の管理に責任を持つ役所が必要となる。この役所には、かんがい、水道、電力会社の水資源開発や水の利用を許可したり、制限したりする強力な権限が与えられなければならない。

 次に、河川の水量や水位といった情報を収集、管理する必要がある。そして、それぞれのユーザがどれだけ水を使っているのか、水利権の登録と監視。

 河川の流域ごとに、かんがい、上水、水力発電など、すべての計画を網羅して、建設の優先度をつけ、調整を行うような、水資源の開発計画を策定する。

 渇水の時に調整する組織、制度を作る。

 書くと数行だが、やるとなると大変なことである。組織、施設、人員、法制度などなど、全てをそろえなければならない。

▼ アジアの友人として日本ができる国際貢献

 日本では、河川管理は国土交通省が行っている。水利権の許可、河川情報の管理、河川ごとの開発計画の策定、渇水時の調整などである。

 こうした仕組みが出来上がってきた経緯は、日本の文化や歴史抜きには語れない。アジアモンスーン地域に位置する日本は、千年以上にわたり稲作が水利用の中心であった。近代水道や、水力発電の歴史は百数十年のものでしかない。そして、洪水に悩まされ続け、水を治めるものが国を治める、とされてきた。

 このため、河川の利用では歴史のある、かんがい用水が重視され、河川の管理で治水は重要な位置を占めてきたのである。

 今、各地で行われていると思うが、渇水時には水の利用者が川からの取水量を減らすよう調整を行う。河川法に、調整の際は、他の利用を尊重しなければならない、と書いてある。水利権を持つもの同士、互いの権利を尊重しながら、話し合って取る水の量を減らしなさい、ということである。これはコンセンサスを重視する、日本的な制度だと思われる。

 世界では、権利とは互いに主張しあうもので、尊重しあうものではない、という考え方もあろう。困った(渇水)時ほど自分の持つ権利を主張する、というのも考え方としてありそうである。

 水の管理というのは、その国の水の利用や文化、歴史的な背景と密接に関連している、ことが分かるろう。

 日本とアジアの途上国は、台風やモンスーンに襲われる気候風土、稲作文化、水田を中心とする国土利用、相互扶助といったアジア的な価値観や宗教観を共有する。このため、日本の河川や水の管理の制度が適用しやすのではないか、と考えられる。

 日本のODAは、途上国の水不足の解消、というとダムや堰などの施設を建設する援助で対応してきた。こうしたハードのみではなく、これからはその土台となる、水や河川の管理の制度といったソフト面にも貢献していくべきであろう。これは、法制度、組織、技術、施設の整備などなど多面的なものとなる。ハード施設の援助は金で解決できるが、ソフト面の支援は金の他に日本の専門家には知恵や経験が求められる、ということではるかに難しく、複雑なものとなる。

 前号で紹介したような、水さえ市場で売買させよう、という市場万能主義のグローバル化の流れの中で、アジアのローカル文化に根差す日本的な制度が、他の途上国にどう適用できるのか、もしくはどこが適用できないのか、を研究し、途上国の水と防災分野を支援することは、日本のアジアにおける立場を考えれば、当然の責務と言えるのではないか。

○ 英語一口メモ

river basin management

    河川流域管理:上流から下流まで川を流域として捉え、水利用や治水を流域全体で管理しようとする、考え方。さらに森林保全など関連する分野を統合して管理する考え方は、
    integrated river basin management 統合河川流域管理と言う。

○ 関連サイト

国連大学の水資源についての活動内容

nexthome

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