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ダムは住民に何を強いるのか


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ダムなどの大規模インフラプロジェクトは、自然環境や社会面への悪影響を及ぼすおそれがある。特に深刻な問題は住民移転である。移転により家や、生活の手段である農地を失い、さらには、十分な補償や代わりの農地を得られない、生活が壊される、ことなどあってはならない、のは当り前のことであろう。

▼ 住民の生活を壊すリスク

BBC報道によると、先週、 世界ダム委員会 (WCD:World Commission on Dams 活動内容については、第3〜6号までを参照)は、ダム建設に伴う社会的な影響について、こういう言い方をした:「『80万人が便益受けるのだから、8万人が苦しんでもいいだろう。』という、考え方はもはや許されない。」

では、ダム事業でいう社会的な影響とは、どのようなリスクが具体的にあるのであろうか?例えば可能性のあるシナリオとして:

シナリオ1:Aダム建設の移転対象となる住民は、ゴムの原料となる樹液をゴムの木から採取して、主に生計を立てていた。用意された移転地に引っ越したところ、ゴムの木は植えられていたのだが、成長して樹液が採取できるまでにはあと数年かかる。このため、住民は仕方なく、もといたダムサイトに戻り、これまでどおり、ゴムの樹液の採取で生計を立て、生活を続けていた。しかし、ダム事業主の電力会社は、移転地を用意し住民移転も完了した、ということで、ダムの堪水(貯水)を開始した。まもなく、ゴムの木や元いた居住地は水没するため追い出されてしまう。移転地ではゴムの木が成長するまでのあと数年間は生計のすべはなく、住民は途方に暮れるばかりである。

シナリオ2:B国では国策として本島から、他の島への移住政策を行っていた。Cダム建設では、移転住民はこの移住政策プログラムにのっかって、移転を行うこととなった。しかしながら、この移住プログラムは、日本でいえば明治時代の北海道開拓のようなもの。十分な農地や生活のインフラが整えられてはいなかった。このため、住民の移転地での生活再建には苦労が予想される。

これら2つはあくまで架空だが、起こりうるシナリオである。

本来、政府開発援助(ODA)とは途上国の支援、住民の生活の質の向上のために行う、というのが目的である。どんな理屈をもってしても、特定のグループの住民の生活に悪影響が出ることは許されない。

と、当り前のことを改めて大上段に書かなければならないほど、途上国のダムなどの大規模プロジェクトは、社会的な悪影響に注意しなければならない。そして、悪影響がでないよう、細心の配慮や対策が必要となる。

この配慮や対策について、WCDは革新的な提言を行っているが、 現在、援助機関で常識的な考え方となっている、と思われる考え方や対応を述べておきたい。

−移転前後で移転住民の生活レベルが下がることは許されない。
−計画の早期の段階から移転計画の検討や、住民、関係機関との協議を始める。
−移転地建設のための設計だけでなく、社会的な調査(住民の生計手段、所得レベル、権利(入会権、漁業権)、弱者の特定)などを行い、社会的な状況を把握する。
−移転後の生計手段を確保する。
−移転地のインフラだけでなく、生活向上も含めた計画を策定する。
−移転計画の策定への住民の参加
−NGOや住民組織の参加を求める。
−情報公開
−弱者(女性が家長の家庭や、先住民)への配慮は特別に行う。
−移転地の建設や補償の予算を確保する。
−移転を担当する組織の強化を行う。
−進捗状況の追跡(モニタリング)と評価を行う。
日本の援助機関でも環境ガイドラインの改定が検討されている。

○ 英語一口メモ involuntery resettlement

直訳すると非自発的移住。プロジェクトにより発生する移転のことをいう。

◆ 水問題について世界の専門家が議論 ◆
◆ ストックホルム水シンポジウムとフェスティバル ◆

先週、ストックホルムでは水のさまざまな会議や行事が行われました。一年に一度、この時期、世界中の官、学、民の水の専門家や研究者が、ストックホルムに一堂に会し、水分野の問題を議論をするのが恒例となっています。上の記事のWCDの発言もこの場で出たものです。

日本での報道はないようですが、他国のメディアをフォローすると、中心のテーマとなっていたのは、やはり、限られた水資源と深刻化する水不足についてでした。水は石油に代わる国際紛争の原因となる、とくに、中東やナイル川流域では緊張が高まっている、との懸念が出されています。

また、食料生産と水、についても話題となったようです。人口増加に対応するためには食料増産、つまり水が必要となる。しかしながら、現在の限られた水資源では、さまざまな環境悪化を引き起こすことになろう、という指摘です。

この時期、私はストックホルムならぬ、マニラにおりました。こうした国際的な場に参加できないようでは、まだまだ、国際レベルの専門家への道は遠そうです。

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