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ダムODAの住民への社会的な影響とその対策


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    ◆ 環境・社会配慮ガイドラインの改訂 ◆

  国際協力銀行(JBIC)は、海外経済協力基金(OECF)と、輸出入銀行(輸銀)が統合してできた政府系金融機関、特殊法人です。旧OECFは政府開発援助(ODA)である円借款を、旧輸銀は「その他の公的資金による経済協力」(OOF)と呼ばれる、主に民間向けの融資を担当してきました。これまで、それぞれの機関は、別々の環境・社会配慮ガイドラインを持ってましたが、組織統合を契機に、ガイドラインも統合しようとしています。

 ガイドラインの見直し作業のために、国際協力銀行、関係省、NGO、有識者等からなる、研究会が発足し、7月まで約1年間にわたり議論が進められてきました。

 この研究会で活動された、環境省の大村卓さんに、研究会での議論や、経済協力における社会面での問題について、お話を伺いました。メールでやり取りしたものを、インタビュー形式で再編成しました。3回に分けてお届けいたします。

 ダムなどインフラプロジェクトの経済協力で、前号で起こりうるシナリオを説明しましたが、今回は、「住民への社会的な影響とその対策」について、うかがいました。
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 (発行人)まず、ダム建設などの経済協力を日本の公的資金で行う際に、配慮しなければならない社会的な問題点、その対策について、お聞かせください。

 (大村さん)ダムなどの社会基盤の整備は、その場所で暮らしていた人々の生活を脅かす可能性があります。こうした社会的な影響については、人々の生活向上も事業に含め、住民が参加する形で計画を作っていく取り組みが行われつつあります。また、融資の意思決定段階で、そのようなことが途上国側でなされているか確認し、必要に応じて支援する、あるいは融資を見合わせる、という手続がすでに導入され、現在のその強化のための見直しが行われています。

 ダムのようにやむなく住民移転を伴う事業は、本当に困難な問題があります。全てが予測できる対策は有りませんし、人々のニーズもプロジェクトに実施中に時間とともに変わります。したがって、住民移転などの社会的な影響については、事前に十分な協議を行い、補償や生活改善について対策を策定し、事業の開始後も、事業者、住民、行政等で、モニタリングを行い、様々生じるであろう問題に対処できるような枠組みを、現地社会で予め作っておくこと、そして、これを融資機関側で確認することが重要です。

   ▼ プロジェクト実施中のフォローアップとモニタリングが課題

 (発行人)いくら完璧な住民移転の枠組みを事前に作っても、実施されなければ意味がありません。やってみたら相手国の役所の能力不足のため実施できない、というのは起こりえます。また、この他にも、失敗するであろう理由は、いくらでも挙げることができます。

 (大村さん)融資契約後のフォローアップ、モニタリングが課題と思っています。審査して、事業が開始された後に生じる問題を、日本側がどのように融資機関としてとらえ、問題解決していくのかが、まさに問題となっています。

 簡単で、万能の答えがあるとは思っていません。「住民移転の枠組み・計画を事前に住民も交えて策定する」、「これを融資に先だって、相手国政府の実施可能性も踏まえて十分審査する」、だけでは不足しています。

 なお、当然、「相手国の役所の能力不足のため実施できない」ことも想定されるので、役所の能力・実績、役所に資金や人材などのリソースを配分する上位の仕組み、さらには、政府機関や地域社会における汚職の問題や、社会において弱者が声をあげられる環境かどうかなど、計画が実施に移される様々な環境や不安定要因も、当然審査に考慮に入れねばならないのでしょう。

 こうした点において、我が国の援助機関の審査能力はまだまだ十分ではありませんので、強化する必要があります。(とりあえずどのように強化するかはおいておきます)

 さて、これらの審査を行い、役所に十分な遂行能力があったとしても、問題は生じることを覚悟する必要があるでしょう。

 実際に住民移転をあつかったコンサルタントの人は、「事前の調査は当てにならなかった。住民移転の時期が近づき、生活や生産の変化が具体的なものになって初めて、人々、あるいは、村落の共同体は、どのように移転をするか、どのように社会を再構成するかを考える」という教訓を語ってくれました。

 住民移転に関する枠組みというのは、役所(事業者)の策定する移転・補償・生活再建計画のみをいうのではありません。住民やNGO、実施機関、地方政府などからなる委員会をつくって、事後いくらでもでてくるであろう問題を把握し、協議し、解決していくための枠組みを予め作っておく、ということが重要なのでしょう。

 このような委員会で、公平性や透明性が十分確保できているかということも、融資機関の審査の対象になるでしょう。

 (発行人)プロジェクトの実施中、建設中に、問題点や状況を把握したくても、まさか日本の援助機関の職員がダムサイトに住むわけにもいかず、特に地方の案件では実際何が起こっているのかを知るのは難しいはずです。どのように計画の実施を担保するのか、日本の援助機関としては進捗状況をどうすれば追跡し、問題があればどう介入できるのか、どうお考えでしょうか?

 (大村さん)いろいろなオプションがありうるでしょう。

 ・関係者からなる委員会から、定期的な報告が融資機関になされるようにする
 ・定期的に融資機関が委員会にも出席し、現状を把握する
 ・実施に際して、社会開発・住民移転に関するコンサルタントやNGOを事業のコンポーネントとして位置づけ、社会調査等により公平で客観的なモニタリングを行う。
 ・融資機関のリソースを使い、NGO等の参加も得つつ、社会調査等を行ってモニタリングする。
 ・融資機関では難しいかもしれませんが、日本の援助という一環としてとらえ、借款以外の援助スキーム(例えば技術協力)で、援助機関の専門家を常駐させる、ということだって本来考えてもいいのかもしれません。

 また、このような融資機関のモニタリングを、さきの委員会の枠組みにおいてきちんとした位置づけをもたせないと、融資機関としての介入が難しくなるでしょう。

   ▼ 情報公開が重要

 (発行人)現在は個々の案件について、どのようなフォローアップ体制ができているのでしょうか?きちんと行われていると思われますか?

 (大村さん)現在、このような例はそう多くはないと思います。もっと、一件、一件に対し、本来、丁寧にフォローすべきだと思います。

 いま、情報がほとんど融資機関・援助機関の外に出てきていないので、議論もしにくいことが障害である、とも思います。こうした点からも、援助機関の情報公開は重要と思っています。
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 次回はこの続き、「日本の関係機関の社会的な配慮を行う能力」を予定しています。

○ 英語一口メモ
Income Restoration 移転住民などにより生計の手段を失った人に対して新たな生計手段を準備すること。

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