聖なる川、ガンジス河の水問題
ガンジス(・ブラマプトラ)河はヒマラヤ山脈に源を発し、ネパール、中国(チベット)、ブータン、インド、バングラデシュなどの国々を流れ、ベンガル湾に注ぐ国際大河川である。流域には約3億5千万人が住み、経済、文化、地域(ヒマラヤ山脈からインド平原)、気候(極地寒冷から熱帯)、宗教(ヒンドゥ、仏教、イスラム)、動物(ヤクと雪男?からベンガルとら)は、バラエティーに富んでいる。
そして、ガンジス河は、よくまあこんなに、というほど、水でもさまざまな問題を抱えている。
ネパール・バングラデシュなど貧困層が多い国々を含むこの地域では、人口は、年に2%以上という高い率で増加し続けており、人口増加、そして、都市化が急速に進行している。インドが90年代に入り経済を自由化して以来、この地域はこの間まで順調に経済成長を続けていた。今の世界情勢では、今後もこの好調さが維持できるかは不明だが、経済成長は都市用水の需要を増加させている。こうした要因により、森林減少や、川の水質悪化を引き起こしている。また、気候変動もヒマラヤ山脈などの極地で、その影響は極端な形で現れている。こうして、社会経済、環境の変化が、直接、間接的に、水資源への圧力となっている。
▼ 多様性を持つ流域
インド、ネパールでは多くがヒンドゥ教徒であり、ガンジスは聖なる川とされている。例えば、ネパールでは死期が迫ると、ガンジス河沿いにあるヒンドゥ寺院に移り、静かに死を待つ。死後、遺体は川岸でだ毘にふされ、ガンジス河に流される。ガンジス河で身を清めるインドでの沐浴の風景はおなじみである。人々の宗教、生活に密着している川と言える。
この地域の政治バランスも水問題の原因となっている。南アジアでの飛びぬけての大国インドに、周りの小国は常に振り回されている。例えばネパールは三方をインドに囲まれており、物資の輸送はインド領のカルカッタ港からインド国内を抜けて陸路で届く事になる。このため、ひとたびインドの機嫌を損ねて、国境が封鎖されようものなら、物資がたちまち入らなくなる。首根っこを抑えられた状態にある。水をめぐるインドとの交渉もこうした背景があり、対等なものになり難い。
バングラデシュは第二次世界大戦後、パキスタンの一部として東パキスタンとしてイギリスより独立した。インドとパキスタンの分離独立の理由は、ヒンドゥとイスラムという宗教の違いである。バングラデシュはその後、東西の格差に不満を持ち、西から独立することとなった。
ブータンは小さな山国である。経済は隣国のインドに依存している。山から流れ落ちる水を利用した水力発電により、電気をインドに売り、外貨を稼いでいる。ネパールも同じように電気を輸出したい、という夢を持っているのだが、未だ自分の国の電化を進めるので精一杯である。
▼ 大砲水に、ひ素汚染
最上流域のヒマラヤ山脈では、氷河湖決壊洪水、という聞きなれない洪水に、数年に一度襲われる。天然氷河が後退するに連れ、氷河によってせき止められていた湖が決壊し、貯められていた水がいっきに流れ出す、という水害である。この水害の破壊力は、ダムが決壊するのと同様のスケールである。日本には鉄砲水という言葉があるが、この水害は規模からいうと、数段上で鉄砲ならぬ、大砲水である。原因は気候変動による温暖化により、氷河が後退しているのでは、と疑われている。(日本による支援の概要)
ネパールの山岳・丘陵地帯では、森林が急速に減少している。飛行機から見ると、険しい山々が一面はげ山になっているのが分かる。東南アジアとは異なり、外貨獲得を目的とした商業伐採はなく、住民が主に燃料に薪を使う、という住民の生活が原因となっている。
ちょっと下って、ネパールやインド北部州は貧困地域である。ネパールは最貧困国(LLDC)に位置づけられ、インド北部州は途上国のインドの中でも、最も貧しい地域である。住民にとって飲み水の確保が生活する上での大きな心配事である。
ネパールでは、井戸や浄水場といった施設は不足しているものの、水資源の総量として不足しているわけではない。だが、首都カトマンズでは、盆地の中に発展してきており、これまでは地下水を主に水源としていた。首都圏への人口集中が進んでいるものの、盆地のため、河川からの水源は限られており、地下水の管理や新規の水源の開発が課題となっている。
中流域のインドでは、人口増加が進み、川沿いの都市に人口が集中している。下水道など衛生施設の整備や、工場排水の処理が遅れていて、河川の水質汚染や環境汚染が大きな問題となっている。
下流域のバングラデッシュでは数十万、数万の人が命を落とすような大洪水が頻発している。国土の3分の1が水没することもある。洪水が起きるたび、ネパールでの森林の減少が被害を大きくしている、と言われるが、その因果関係は明らかになってはいない。
バングラデッシュでは飲み水のひ素汚染に悩まされている。地方に住む住民にとっては、地下水が重要な水源で井戸からくみ上げて飲み水や生活に使用しているが、その地下水がひ素に汚染されており、住民に健康被害が出ている。
▼ JICAの宣伝をするつもりはありませんが
こうしてみると、ずいぶんと日本が問題の解決に向けて支援しているのが分かる。この他にも円借款によるインドでの下水処理場の建設支援などもある。今回は、問題の概略を説明するつもりだったが、なんだか、JICAの宣伝になってしまったようだ。逆に、どの途上国も水問題では、日本の協力に大きな期待をしている、と言える。
惜しむらくは、国内官庁の縦割りをそのままODAにも持ち込んだ結果、セクター割り、単発のプログラムの積み重ねとなっており、基本的な全体像が描けておらず、明確なビジョン、セクターの方針がないことであろう。
次週は、具体的な水紛争を考えてみます。「国境を挟んでの水争い」を予定しております。
○ 英語一口メモ
deforestration 森林減少
reforestration 植林、造林
social forestry 社会林業:森林を保全するには、ただ木を植えたり、伐採を禁止するだけでは不十分で、住民の参加により、村落自体を振興させる必要がある、とするアプローチ。途上国の林業プロジェクトの主流である。