聖なる河ガンジスの水争い
−ゾウとハムスターの争い−
ガンジス河の水争いで、有名なケースはファラッカ堰をめぐる、インド(上流)とバングラデシュ(下流)の争いである。ガンジス河がバングラデシュに入る直前の国境付近に、川を自国内に転流させるため、インドはファラッカ堰を建設した。これは、ガンジス河の水を流すことで、カルカッタ港の土砂の堆積を防ぎ、航路を維持しようとする目的である。乾季には水を転流するため、バングラデシュでは水不足となり、雨季の洪水はそのままバングラデシュに流す、というこの堰は、いくらなんでもあんまりじゃないか、という気が確かにする。親インド政権がバングラデシュにでき、両政府間で1996年に一様の決着をみている
ネパールの西側のインドとの国境を流れるマハカリ川についても、同じ時期に両国で協定が結ばれた。左岸側がネパール、右岸側がインドのマハカリ川では、水資源と領土問題が絡む複雑な様相を見せていた。これに更に、北部ではインドと中国の紛争地帯であり、インドとしてはこの地域の影響力を維持したい、という思惑も影響していた。
インドはネパール領内にタナカプール堰を建設していた。この見返りに、ネパールはこの堰で開発される電力と水の供給を受けることが同意された。さらに、パンチェスワール多目的ダムを共同開発していくことで合意された。他方の合意無しに、一方が他方に悪影響を与える開発を行うことができない、という原則も確認された。これを見る限り、ネパールとインドが対等な立場の協定である。
▼ 国境付近の小競り合い
政府間で協定を結ぶほど、規模は大きくないにしろ、ガンジズ河流域ではさまざまな問題が生じている。ネパール(上流)とインド(下流)の間では、今年もカンジス河支流の堰建設をめぐって、毎度の事ながら、ひと悶着あった。
ネパールの南部は、テライ平原と呼ばれる、インド平原に続く平野地帯で、重要な穀倉地帯である。ルンビニという、仏陀の生誕の地があり、ユネスコから世界遺産に指定されている。インドはネパールとの国境のすぐ下流−ルンビニの南−に、かんがい用水を開発する堰の建設を始めた。この堰建設により、川が塞き止められ、上流のネパール領が水没し、10万人に影響がでる上、ルンビニも水没する、と、ネパールは堰建設を取りやめるよう抗議を行った。
これとは別に、昨年の雨季に、ネパール西部を流れるラプティ川で、約4,000ha、約2,500戸が浸水した。この原因は、印・ネ国境のすぐ下流にインドが建設した堰により、洪水が堰あげられネパール領が浸水したことによる、というのがネパール側の主張である。
この他の河川でも、インドとネパールの国境沿いに−川沿いではない−、インドが連続した堤防を建設している個所もある。川が増水すると、下流のインド領内は洪水から守られるが、上流のネパール側に洪水があふれ、たまることとなる。昨年もネパール東部を流れるメチ川で、インド領内の堤防建設について、ネパールは自国内の洪水被害が増えると抗議している。
▼ 国力の差が紛争の原因
インドとしてはカンジス河流域の平野部で作物の生産を上げるために、かんがい堰や洪水を防ぐための堤防を建設したい、と考えている。これまでも、マハカリ川の他にも、2国間で協定を結び、コシ川やガンダキ川のネパール領内に堰を建設し、水資源開発を行ってきた。
一方、インド国内での規模の小さい川での水資源開発では、堰から取水する効率を考えると、なるべく上流で建設する方が望ましい。自然と、ネパールとの国境ぎりぎりの地点に堰を作ることになる。堰を建設すると、堤防や関連の施設が必要となる。こうした堰や施設が、上流のネパールを水没させることになってしまう。これでは、インドがネパールのことを考えずに整備を進めようとしているようにも見える。インド側としても何か言い分はあるのだろうが、残念ながら、私はインド側の情報ソースが無いのでわからない。
通常は水争いは上流が優位にある。上流で好き勝手に水を取ったり、ダムや堰を建設できたりするからである。しかし、インドとネパールでは国力の差、そして経済力の差が、象とハムスターほどの違いがある。このため、下流にありながら、常にインドが開発を進め、その悪影響をネパールが抗議する、という図式になる。一つの国の中でも上流と下流、左岸と右岸の調整は難しい。国が異なる上に、力の差がある2国間では水問題を深刻化させ、新たな問題を引き起こしている。
◎ 英語一口メモ
Treaty: 国際協定:こうした国際河川をめぐる政府間の協定