
「水の世紀」の新戦略 −国際協力の構造改革−
今回は「水分野における国際協力の戦略」をどのように作っていけばいいのか、考えてみたいと思います。
▼ ハード至上主義からの脱却を
水分野における政府開発援助(ODA)は、洪水対策、上水道、かんがい、水資源開発を中心に多大な協力が行われてきている。上下水道と洪水対策だけに限っても、無償資金協力や円借款のうち、資金の約2割を占めている*1。堤防やダムといった施設建設を通じて、フィリピンやインドネシアの洪水対策や水資源開発、タイでの上水道整備など、アジアを中心に各途上国の発展に大きく貢献してきた。
例えば、インドネシアのブランタス川流域においては、40年以上にわたり700億円以上に及ぶ日本の援助が続けられてきた。この期間に、稲作の生産は8割以上増加し、200MW以上の水力発電が建設され、洪水の防止効果は年間135億円に相当する。また、スラバヤ市の上水道供給や、クルド火山の防災事業も行われてきている*2。さらに、さまざまな技術協力を通じて育成されたインドネシアの河川技術者は、「ブランタス・スピリッツ」を持つとされ、インドネシア全国での河川プロジェクトの中核を担っている。
他方、国際協力への変革を求める声は高まってきている*3。途上国の開発をめぐる以下のようなさまざまな動きの中で、水分野の援助も決して例外ではありえない。「水の世紀」にふさわしい新たな取り組み、構造改革が求められている。
1) 貧困対策:
ネパールの山あいの村では、今も、家族の一日分の水を汲んだ水がめを背負い、少女が裸足で険しい山道を毎日登っている。ダッカやマニラでは、川べりの掘っ建て小屋に住む家族が、大雨のたびに、いつ川があふれるかと洪水の恐怖におびえている。
洪水や干ばつの被害をもっとも深刻に被るのは、職を求めて街に出てきて低湿地に住む都市貧困層や、土地なし農民といった貧困層である。災害は、貴重な人命や資産を失うだけでなく、それまでこつこつと積み上げられてきた発展の努力を帳消しにしてしまう。また、貧困層は安心して飲める衛生的な水道のサービスを受けることが難しい。中でも女性や女児は、水くみ労働の役目をおわされるなど、水のサービスが不十分なために被る負担には大きいものがある。
貧困への取り組みについては、2015年までに貧困層を半減する、という国際的な目標が「アジェンダ21」にて設定された。アジア開発銀行では貧困削減を最重点の政策目標にするなど*4、各援助機関においても貧困削減に向けた援助が重視されつつある。貧困と水問題、低開発の悪循環を抜け出すために*5、貧困撲滅に向けた水サービスの改善や防災対策が求められる。
2) 参加型開発とソフト対策:
従来からのハード対策にあわせ、コミュニティ・ベースのソフト対策を同時に行うことで、より一層の援助効果が発揮される。洪水対策では堤防などの施設建設にあわせ、避難や救援体制といったソフト面の整備を行うことで、効率的な防災体制が整備できることは日本の経験からも明らかである。小規模の水道やかんがい施設は、住民やコミュニティが、計画段階から参画することが、ニーズに基づくプロジェクトを形成し、持続性の確保などプロジェクトの効果を高めるために不可欠である*6。
こうしたコミュニティを主体とするプロジェクトの形成、運営には、ボトムアップ形式による参加型アプローチの適用が必要となる。既に防災分野でも、ネパールでのJICA調査*7や、円借款プロジェクトにおいてこうした取り組みが始まりつつある。
3) グッドガバナンス(良い統治)、NGOとのパートナーシップ:
住民移転等による特定グループへの社会的な悪影響は、開発援助の基本理念に反し、許されるものではない。これは、プロジェクトの意義そのものを問われかねないのみならず、実施の遅れにつながるなどの問題も生じる。
このため、大規模施設の実施にあたっては、トップダウンによらない、計画策定への関係者、NGOが参画したコンセンサスつくりが求められている。日本国内の事業においても、ダムをめぐる論議や、河川法の改正に見られるように、調査研究、検討、試行錯誤が続いている課題である。国内での経験、知見を生かしつつ、ODA事業における意志決定のあり方について、検討を行う必要がある。
4)流域総合マネジメント:
各援助機関においては、水資源を、河川流域を単位として管理していこう、というコンセンサスができつつある*8。しかしながら、流域単位でのアプローチは、各ドナーが打ち出すはるか以前より、インドネシアのブランタス川を始め、日本のODAでは当り前のように取られてきており本家本元である。国内でも、河川ごとにマスタープランが作成され、水資源開発、治水事業がすめられてきた。惜しむらくは、ODAにおいては、こうした手法がダムなどの施設造りを主目標としていたため、総合的な水資源マネジメントとして利用されていなかったことであろう。これまでのアプローチを発展させ、総合的な水資源マネジメントへの支援を行っていく必要がある。
5) 政策支援:
これまでの技術協力は、資金協力がハード中心であった裏返しで、技術基準の作成といった施設建設のための技術移転が重視されてきた。
しかしながら、法制度の整備や組織強化といった政策支援なしに、根本的な水問題の解決はありえない。例えば、途上国で急速に進む都市化により、都市住民と農民の間での水争いが深刻化している。これはハード施設の建設のみでは達成できず、効率的な水資源の管理が必要であり、水利権管理についての法制度や、組織作りが不可欠である。
アジアモンスーン地域に位置し、稲作を中心とする水利用を行ってきた日本においては、歴史的な経緯や社会文化制度に根ざした法や組織制度を作り上げてきた。同じような水と土地の利用を行っているアジアの各途上国に対し、日本が自らの文化に根ざす技術を、それぞれの国の風土、文化に応じた形で適応できるよう、技術支援を行う意義は大きいものがある。
6)ダム建設:
国内外でダム建設をめぐる論争は加熱している。世界ダム委員会は、現在の最高水準の知見を集め、ダム建設のガイドライン案を作成した*9。各援助機関が貧困削減などへ移行し、ダム建設への関与が減少する中、日本はダム建設を支援しているいわばトップドナーであり、今後の支援のあり方につき検討を行う責務があると言える。
7)パッケージ援助:以上のようなソフト面での支援を強化するには、従来からの協力にとらわれない柔軟なプログラムの形成が必要となる。これまで多額の資金を使って協力してきたハード施設の建設にあわせて、ソフト面の支援を組み込みパッケージ化することで、援助の相乗効果が期待できる。このためには、途上国政府との政策対話の強化や、途上国での「官」と「民」の役割の検討を行う必要である。
*1 ODA白書、外務省、2000
*2 Development of the Brantas River Basin, JICA, 1998
*3 第2次ODA改革懇談会:中間報告 H13
*4 アジア太平洋地域の貧困と闘う:アジア開発銀行の貧困削減戦略、ADB,1999
*5 防災と開発に関する基礎研究 JICA、 1998
*6 参加型開発と良い統治 JICA 1995
*7 ネパール国中南部地域激甚被災地区防災計画調査 JICA, 1997
*8 Water For All, The Water Policy of the Asian Development Bank,2000
*9 Dams and Development: A New Framework for Decision-Making,World Commission on Dams 2000
このペーパーの作成にあたりましては、多くの方から貴重なコメントをいただいております。この場をかりまして、厚く御礼申し上げます。
○ 英語一口メモ
Vision ビジョン:最も基本的な考え方。日本人が苦手とするところ?
Strategy 戦略:日本語の「戦略」は軍事用語だとおもっていたが、最近は日本の文章でも見かけるようになってきた。ビジジョンを具体的なものにすると戦略。
Action Plan アクションプラン:何月何日までに、何をする、といった実際の行動計画。
