女性と水
苦手なテーマである。開発援助で女性の問題を扱う専門家はジェンダースペシャリストと呼ばれるが、これまで私が会った専門家は全て女性である。男性の私にはなかなか議論しにくいテーマである。こう考えること自体がおそらく、この問題の本質が分かっていない、ということになるのだろうが。
その昔は、”WID(Women in Development):開発における女性問題”と呼ばれ、母子保健など、女性の地位向上に貢献するプロジェクトをWID案件と呼んでいた。だが、この問題は女性を対象としたプロジェクトだけを行えば解決するのではなく、開発援助のさまざまなセクターや場面でも考えていかなければならない、ということで、今ではジェンダー問題と呼ばれている。
▼ 女性と水問題の深い関わり
ネパールのマナスルという地域の山村を訪れた時のことである。ここはいちばん近くの道路まで歩いて1週間かかり、電気は通じていないという貧しい村である。プロジェクトの話を聞こうと、村人に広場に集まってもらうと、自分の意見や感想を述べるのは女性、すなわちお母さん、ばかりである。水道ができて便利になったが、トイレがないのが困る、とか、隣村から来た女性は、うちの村に水道がなく困っている、など、いろいろな話をしてくれる。週に一度の清掃活動など、積極的に活動をしているのは婦人会である。お父さんは、というと、お母さんたちの周りに座って所在無さそうにしていた。写真
家庭の中で食べ物や水のマネジメントの責任者はお母さんである。これは万国共通のようだ。途上国では水汲みの責任者であり、どこの井戸や小川の水が清潔で、量は十分にあるのか、といった情報を入手して、自ら水を汲みに行ったり、子どもを行かせたりしなければならない。井戸を掘るときは、きれいな水が出るのか、汲みにいくのに便利なところか、と最も関心を寄せるのはお母さんである。水道ができて生活が改善されるのも、それまで遠いところまで水くみに行っていたお母さんや女児である。水くみに使っていた時間が節約されれば、内職をしたり、学校に行くこともできるようになる。使っていたポンプが壊れて困るのもお母さんであり、その状態にはいつも注意を払っている。
また、災害に対しては女性の被害の方が大きい。バングラディシュで発生した1991年4月のサイクロン災害では、20-49歳の女性の死亡率は男性の4〜5倍に達している。これは避難する為の情報は男性が入手する、避難の決定は男性が行う、女性は避難時に体力的に弱いため流されやすく、サリーが避難の邪魔になるなど、男女間の差が理由となっている。
▼ 社会の意識改善も必要
利用者のニーズにあう井戸などの水道の施設を作るには、中心となる利用者である女性の意見を取り入れなければならない。防災プロジェクトで被害を減らすなら、弱者である女性の被害をどうすれば減らせるのかを考えねばならない。
ところが、女性の意見を聞くというのは、結構、難しい。村に入って代表者の話を聞きたい、とお願いすると、出てくる村長さんや部落の長は、通常、男性である。数名で出てきたとしても、こうしたリーダーを補佐するのも男性だったりする。調査やプロジェクトを担当する政府の職員の方も、男性の技術者であることが多い。こうして、普通にしていると女性とコミュニケーションをとり、意見を取り入れる機会というのは、なかなか作れないのである。
このため、村の寄り合いに女性が参加できるようにする、婦人会を作って意見を述べれるような仕組をつくる、などきめ細やかな支援を行わねばならない。また、女性の地位が低いことが、根本的な問題として考えられる。成人女性の識字教育を行う、収入を得るチャンスを作る、など、手間はかかるが、地道な努力も必要になる。プロジェクトを実施する政府機関にしても、担当に女性職員を配置するなど、女性の意見が反映しやすいような配慮がいる。
つまり、こうした取り組みは社会全体、そしておそらく、援助機関職員、の意識の改革も求められているのである。
○ 英語一口メモ
Gender and Development (GAD) 女性の地位向上を開発援助の中で考える。
○ 関連サイト
世界銀行のジェンダー問題を扱うHP
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