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レイテ島の悲劇

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 「オルモックの悲劇」とこの災害は呼ばれている。

 1991年11月、小さな台風がフィリピン・レイテ島のオルモック市を襲い、約8,000人が洪水で命を落とした。被害者数はアメリカの同時多発テロの2倍以上であり、数字自体も大きいのだが、市の全人口、約13万人のうち6%以上もの人々が一瞬のうちに死亡した事になる。死者総数は8,000というおおまかな数でしか公表されていないが、今後も正確な数字が明らかになる事はない。この被害者の多くはスクォッターと呼ばれる川の中洲に住む都市貧困住民であり、そもそも何人住んでいたのか、データがないからである。

  ▼ 直接の原因は大雨と橋

 オルモック市は日本との関わりが深い。太平洋戦争末期のレイテ島の激戦では日本軍の根拠地であった。オルモック市が占領されると、数万の日本軍兵士は遊兵と化し、レイテ島の脊梁山脈のジャングルを敵兵とゲリラを避け、口にするものを求め、さ迷い歩くこととなる。この地には多くの慰霊碑が建っている。

 50年以上前に日本兵が屍をさらした脊梁山脈のジャングルから流れる、たかだか十数キロの小さな川が悲劇の原因であり、舞台となった。

 河川工学からこの災害を説明する事は難しい事ではない。川はほぼ直角に曲がって街中に流れ込んでいる(屈曲部)。ここに川の流れ(洪水流)を邪魔(阻害)するかのように、橋が架けられていた。台風がこの街を襲い記録的な大雨を降らせた際、上流から木や土砂が次々と流れ込み、この橋に引っかかってしまった。これがあたかもダムのように洪水を堰き上げ、圧力が高まり、一気に橋を破壊、流出させ、街を洪水が飲み込んだのである。

 対策もこの逆を行えばよい。上流には木材や土砂が流れ出さないよう、砂防ダムを造り、橋を川の流れを邪魔しないよう架け替え、洪水が流れるよう堤防を造ればよい。その通り、日本の無償資金協力で工事が進められている。

 しかしこれでは、この災害の根底にある原因、ひいては途上国で災害が深刻になる原因を理解する事はできない。

 以下、この災害についての本の書評です。
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 タイトル:大洪水で消えた町−レイテ島、死者八千人の大災害−
 著者: 加藤薫
 出版社: 草思社
          発行年: 1998年
 ナンバー: ISBN 4-7942-0820-0
 入手方法: 市販
 定価: 本体1,900円
 判定:防災に係わるスタッフにおすすめ。

 書評:この悲劇を扱った本書は開発の本ではなく、著者は開発の専門家でもない。だが、開発援助で災害を考える上で、きわめて示唆に富んでおり、途上国の災害の原因を理解する貴重な手がかりを与えてくれる。

  ▼ 森林伐採、砂糖きび農園、都市貧困、複雑に絡み合う真の要因

 この流域がどのように変化していったか、開発されていったかが、被災家族や農園主、市長へのインタビューから明らかにされている。フィリピンの他の地域と同じく、日本への輸出を目的とする商業伐採により森林が失われた。また、ネグロス島などの他のフィリピンの島々と同じように、地元の有力農園主が農地を買取り、砂糖きび農園(アシエンダ)として開発していった。これに伴い、農地が荒廃し表土が熱帯の強い雨が降るたびに流出していった。森林伐採にしろ、砂糖きび農園にしろ、その時々の国際経済が、オルモックの流域の様子を変えていったのである。森林や表土が失われることで、保水力も弱くなり、洪水の流出が早く、また、大きくなっていった。

 なぜ、見るからに危険な川の中洲に、人々が住み着くようになったのかも説明される。砂糖きび農園に追い立てられるように農地を失った小作人や農民が、職を求めてこの地域の中心都市であるオルモックに出てきた。また、近くの島々では、森林の減少で農地が荒廃して農作物の生産が落ち、食いはぐれた農民が流入してくる。荷揚げ作業や運転手、日雇い労働など、単純作業に職を得て、職場に近接する、そして家賃も安い、この中洲に住みついたのである。この中洲はイスラベルデ(緑の島)という、災害とは無縁の平和な名前で呼ばれていたという。

 洪水で家族が流されていく様子が、インタビューを通じて克明に書かれている。被災後の苦しい生活も描かれている。用意された移転地から町の中心にある職場までの往復7ペソ(約20円)の交通費が負担となり、危険とわかっていながらも、元いた中洲に戻る家族が出てくる。

 幾度も現地を訪れ、多くの被災者や関係者にインタビューを行い、さらには国際経済やこの国の政治、経済から分析することで、著者はこの災害の全体像を明確に示してくれている。

 キーワード:洪水、スクオッター、オルモック

 ○ 英語一口メモ

 Squatter:直訳すると「不法居住者」、河川敷や民有地などに許可なく住む。ただし、「不法」という捉え方は適切ではない。マニラ首都圏では人口の4割はスクオッターと言われており、途上国の都市では社会経済構造に組み込またシステムである。

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