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水の民営化の功罪(その1)
民間参入の目的


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日本では水道は東京都や市役所の水道局など地方自治体の仕事である、というのが常識であるが、これは世界の常識ではない。世界各地で民間会社による水道サービスの供給が進められている。有名なのはフランスとイギリスだが、フランスでは約4分の3が、イギリス(正確にはイングランドとウェールズ)は全域で、民間会社によって水は供給されている。

 ▼ 民間の参入は水道整備の切り札という期待

 さて、途上国援助で「水道の民営化や民間会社による運営」が話題になりだしたのは、ここ10年ほどのことである。これには主に2つの理由がある。世界では飲み水が十分に供給されていないことは、第1号で簡単に説明したが、上水道を整備するためにはまだまだ巨額の資金が必要である。途上国の自己資金、日本など各先進国の政府開発援助(ODA)や国際機関の援助だけでは、その全てをまかなうにはとても足りず、民間の資金を導入したい、というのが理由の一つである。

 一方、途上国に援助を行う先進国や国際機関は、途上国のお役所仕事ならではの非効率なサービスを、市場の競争原理を導入することで何とか改善したい、と考えている。アジアを旅行すれば気づくことだが、途上国の水道は不衛生で直接蛇口からは飲めず、24時間供給されることの方が珍しい。また、多くの貧困家庭には水道がひかれていない。このため、ホテルや工場では独自に井戸を掘ったり、市民はペットボトルのミネラルウォーターを買ったり、煮沸したりと、きちんと水道が整備していればかかるはずのない、いらぬ手間やコストがかかってしまう。

 供給している水のうち、水道管からの漏水などにより、どのくらい料金が回収できないかを無収水率と呼び、水道の運営の一つの指標としている。東京では10%程度、シンガポールでは数%である。これが途上国では数十%と、とてつもなく高いことも珍しくない。例えばマニラでは民間企業が参入する数年前まで50%を超えていた。漏水や、こっそり水道管に蛇口をつなぐ盗水により、水を作ってもの半分以上の料金が回収できていなかったのである。

 経営を改善するため、水道局が料金値上げをしようとしても、政治家による介入があり、それもままならない。また、お役所仕事なので水道局自体にもコスト感覚がない。これが悪循環を招いている。図で書くと:

 低い水道料金→不十分な料金回収→弱い経営体質→
 新規投資や補修作業の停滞→施設の劣化→サービスの低下→
 消費者の不満→料金値上げや支払いへの抵抗→
 低い水道料金→

 民間企業が参入すれば競争が働き、この悪循環が断ち切られ、サービスが改善されるのではないか、というのが基本にある考え方である。このように、民間の参入により、資金の確保と効率的な運営が可能になり、水道整備の切り札になるのではないか、という期待は大きいのである。

 ▼ 市場の失敗と政府の失敗

 こうした考え方に対して、水道というのは公(おおやけ)の仕事ではないのか?という疑問は当然、あろう。特に、今でも公に対する信頼感がある程度はある日本においては。

 公共経済学という学問が昔あった、今でもあるかもしれないが。公共性の高いもの、例えば公衆衛生や市民の健康、安全に関わる仕事、巨大な設備投資が必要な事業、地域独占となる事業は、市場に任せると失敗するので、政府が行うべきである、と教科書には書いてあった。これを「市場の失敗」、という。水道はまさしくこの例にあたる。しかしながら今、途上国の水道事業でおきている、非効率な水道サービスは、「政府の失敗」である。官(政府も)も民(市場)も失敗するのだ、ということを、まず、抑えておく必要がある。

 水道のような基本的な公共サービスを提供する責任は、政府や自治体にある。しかし、施設の運営や経営まで官がやる必要はない、と考える。経営や運営は市場の競争原理が働く民間に任せた方が、効率的であろう。

 具体的な民間の参入方法であるが、電力や鉄道、航空会社と違って、水道では、施設を民間に売り払って、水道局が民間会社になる、というケースはあまりない。完全に民営化されているのは、イギリス(正確にはイングランドとウェールズ)ぐらいであろう。施設の資産はあくまで自治体や政府に属し、その施設を民間にリース契約で貸して運営を任せたり、新しい浄水場を民間が投資、建設する(BOT)、というやり方が基本である。

 どの程度までを民間に任せるのか、これはいろいろな条件から判断する事になる。例えば、浄水場などの新規施設を造る必要がないのであれば、今ある施設の運転業務を民間企業に委託することになろう。浄水場などの新規の施設が必要なら、民間企業に建設と一定期間(数十年)の運転を任せ、その後に施設を官に引き渡す方法(BOT)が一般的である。施設建設の新規の投資と、既存の施設の維持管理や運営、経営を任せる、コンセッションと呼ばれる方式もある。無収水率の改善や、供給戸数の増加などの実績に応じて、支払いを増やす方式もある。官と民でどちらがどれだけの責任とリスクを取るのか、で方式は変わってくる。

 これだけバリエーションがあれば、誰にとっても望ましい、最適な方式が見つかるような気もする。それでも、疑問は尽きない。民間会社がある日、突然破産したら、水が来なくなるのでは?安全性に問題はないのか?独占したら、民間会社は好き勝手やりだすのではないか?勝手に水道料金を値上げしてしまうのでは?貧困家庭に水道管はつながるのか?大口の企業が優先されるのでは?

 次回は具体的な例を論じてみたい。

○ 英語一口メモ: public-private-partnership

直訳すると官民パートナーシップであるが、要は公共事業に民間企業が何らかの形で参入することである。一部の維持管理を民間に委託することや、リース、BOT、完全民営化などいろいろな形態が含まれる。

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