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水の民営化の功罪(その2)
その実態


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 アジア各国での水道事業への民間企業の参入は、フィリピンのマニラ、インドネシアのジャカルタといった、人口が多く儲けやすい大都市を中心に進められている。

  ▼ マニラでは今のところ順調?

 1997年に民間企業が参入したマニラのケースを分析してみたい。民間企業がマニラ水道局から水道サービスを引き継ぐと、水道料金は半額になった。利用者にしてみれば、はっきりとわかる民間企業参入のメリットである。

 浄水場などの施設は売り払ってはおらず、マニラ水道局が今でも公共の財産として所有している。水供給の責任もマニラ水道局にある。民間企業は既存の水道施設の運転と維持管理、そして施設の拡張と補修を担当することとなった。これはコンセッションといわれる契約方式である。条件としては約7割の上水道の普及率を、10年で全域に普及させること、56%の無収水率を10年で32%まで引き下げること、などなど、施設の拡張や補修のターゲットが設定された。契約期間は25年という長期である。

 ダム建設など水資源開発により水源を確保し、約束された原水を民間会社に供給することは、官であるマニラ水道局の仕事、というか義務である。いわば卸は官が、小売りは民間が分担した形となっている。民間会社を選ぶにあたっては、いくらで水を供給できるか、つまり、水道料金をいくらにできるのか、をめぐって競争入札を行った。この結果、一番低い水道料金を提示した会社が、運営の権利を落札したのである。

  ▼ 経営面の不安

 しかしながら、一方で料金を引き下げることは水の無駄づかいを招く、との批判もある。環境への影響を考えれば、確かに料金を下げるのではなく、料金はそのままにして、そこから生じた利益を環境保全−例えば下水道の整備−に使う、という方が望ましい政策かもしれない。

 契約の直後から、経営上の予期していなかったさまざまな問題に悩まされている。すぐにエルニーニョ現象による水不足が発生した。何しろ売る水がないのだから儲からない。さらに、アジアの通貨危機やその後の経済危機で、フィリピン通貨ペソの価値は今では契約時のちょうど半分に下落しており、これも経営に悪影響を与えている。こうして、マニラ首都圏を2分割して2社で供給しているが、そのうちの1社の経営状態は悪化している、といわれている。

 全体で25年間の契約の4年を過ぎた今の段階で、事の成否を判断するのはあまりにも早すぎるのだが、利用者の立場からすると、貧困層も含めて水道の普及率は上がり、漏水が減るなど無収水率も改善され、今のところは順調のように見える。ただし、経営の悪化がサービスの低下、極端な場合、民間会社の撤退、ということにつながれば、混乱するおそれもあり、まだ不安材料は残っている。

▼ きちんとした土俵づくりが基本

 さて、では、こうした民間企業が参入した際に起こりうる問題点はどういったところにあるのだろうか。

  貧困層へのサービスが行われない、もしくは後回しにされるようなことは防がなければならない。例えば、工場などの大口ユーザを優遇する−使用量が増えれば割引される−ような料金の体系はあってはならない、と考える。

 あたりまえの点では、環境の基準を守る、安全で良質な水を供給するための水質基準を守る、などである。

 民間企業は営利が目的であるから、こうした問題点を防ぐには、契約の前に十分に検討した上で枠組みや、整備の目標を政府(官)が明確に決め、その土俵の上でのみ民間会社を競争させる必要がある。さらに、競争している際に、行司や審判員の物言いも必要である。つまり、民間企業の活動をきちんと監視できる体制を作ることも必須である。

 ここまでは理屈の話であった。現実の問題点は他にもある。

 途上国で民間企業を参入させる理由は前回説明したように、外資の導入と、事業の効率化である。金も人も途上国では限られているので、参入してくる企業は外国企業となる。もしくは外国と地元企業の合弁という形をとる。この間、日本の厚生労働省の官僚と議論した時に、ある職員いわく、「国際機関はけしからん。民営化を援助するといいながら、実際に仕事を取っている企業は○国の2社と×国の1社ぐらいではないか。これでは○国と×国の企業への援助と同じではないか。」

 現在、水道の国際市場は数社の寡占状態にある。しかも、かなり地理的に偏っている。これらの国が官民挙げて水の市場の開拓を行っているのも事実である。ただ、これをもって、民間企業の参入を規制せよ、というわけにもいかない。少なくとも理屈は間違っていないようなのだから。

▼ 石原知事と田中知事、どうでしょうか?

 日本も巨大な国内市場で力をつけ、外国に打って出る、というのはどうだろうか。東京都水道局なら、技術力も高く、優秀な技術者もいるし、水道局を民営化して、国内各地の水道事業を請け負って、それからアジアやヨーロッパの市場に出る、と石原知事は言い出さないだろうか。財政負担も減るし、ひょとしたら儲かるし。銀行税の次のアイデアとして。言い出さないだろうな、やっぱり。

   ダムを造らない長野県では、新たな水源は生まれないので、水道事業を効率化した方がいいだろうから、どうでしょうか、田中知事?

 日本での水道事業はどう考えればいいだろうか。今のサービス、料金や水質に満足しているのならば、あえて民間企業を参入させる必要はないであろう。また、一般会計からの繰り入れも、納得できるレベルであれば、これまた、必要ないであろう。

   しかし、新たな設備投資で水道料金の値上げが必要になる、また、一般会計からの負担が大きすぎる、この予算を他の事業に使いたい、ということであれば、民間企業の参入を検討すべきである。実際、浄水場の運転を民間に業務委託している例も国内に出てきている。民間企業にしても、原理は似ている下水処理場の運転を、今でも当たり前に請け負っているので、技術的には問題なくすぐにでも仕事を始められるであろう。

 人の口に直接入るものである、安全性は保てるのか、という質問が必ず出る。JRも航空会社も、電力会社も、ある意味、人の命に関わる事業をしているが、民間会社である。「JRと国鉄、どちらのサービスを選びますか?」と尋ねられれば、多くの人は国有鉄道よりも民営化されたJRを選ぶのではないだろうか。

○ 英語一口メモ: Regulatory Body

規制組織:民間企業が公共サービスに参入すれば、その規制、例えば料金値上げの認可、などを行う役所が必要になる。途上国では政府の中に人材が乏しいので、どう整備するかが問題となる。

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