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- No. 013
温暖化対策、ヨーロッパからの新しい風、カーボン・マネージメント
イントロダクション
スイスの保養地として知られる小さな町、ダボス。 雪に覆われる毎年この時期に、世界各国の政界、財界、文化人など が集まって、世界が抱えるさまざまな問題について語り合います。 今年も去年に引き続いて気候変動が大きなテーマの一つになりました。
5日間にわたるダボス会議では、世界のリーダーたちが温暖化にどう立ち向かうのか、議論を交わしました。
増え続ける CO2 の排出。
削減に向け、高い数値目標を掲げてきたのが、EUヨーロッパ連合です。
EUでは今、企業が政府を上回る目標を掲げ、温暖化対策をリードしています。
オランダの総合輸送会社 [ TNT ] では、
『 CO2 の排出ゼロを目指す 』と宣言。
社員一人ひとりの排出量までチェックしています。
イギリスに本社を置く銀行 [ HSBC ] では、出張に使う飛行機から出るCO2を減らそうと、テレビ会議システムを大幅に増やしました。
こうした企業の温暖化対策は、格付けされ、投資の判断材料にもなり始めています。
CO2の削減。カーボン・マネージメントを軸に回り始めた世界経済。
世界経済フォーラムの年次総会のオープニングで、
去年(2007年)ノーベル平和賞を受賞した、IPCC、気候変動に関する政府間パネルの
パチャウリ議長は、気候変動の影響がより深刻になっているのもかかわらず、
温暖化への対応は未だ不十分だ、と警告を発しました。
日本など、特に先に豊かになった国々が直面しているのは、世界経済が急速に拡大しているなかで、大幅な二酸化炭素の削減を
実現しなくてはならないという、極めて難しい課題です。
福田総理大臣は、ここダボスで、日本が国別総量目標を掲げて取り組むことを初めて表明しました。
この他、EUヨーロッパ連合や、EUに加盟する各国が競い合うようにして
このところ、二酸化炭素の削減目標、高い目標を次々と打ち出しています。
しかし、どんな技術を使い、どんなしくみを作れば、迅速にそして公平に、
二酸化炭素の削減ができるのか、誰もわかっておらず、世界は手探りの模索を行っています。
こうした状況のなかで、削減実現に向けた鍵を握っているのが、排出量が多く、そして資金力のある大企業です。
ヨーロッパの企業経営者は、二酸化炭素排出規制を受け入れ、
限られた二酸化炭素の枠組みのなかで、今どんな経営を行おうとしているのでしょうか。
低炭素社会に向けて、リーダーシップを取ろうとしているヨーロッパの企業経営者達に聞きました。
CO2規制はビジネスチャンス
ヨーロッパ第四の電力会社、スウェーデン、バッテンフォール [ VATTENFALL ] の ラース・ジョセフソンCEO。 世界の排出量のおよそ40パーセントを占める発電部門で、大胆な改革を進めています。 ドイツ、メルケル首相の環境問題の顧問を務めるなど、 EUトップとの太いパイプを持つジョセフソンさん。 排出規制は、ビジネスチャンスに繋がるとして、CO2の削減、カーボンマネージメントに前向きに取り組んできました。
ラース・ジョセフソンCEO
CO2を大量に排出するのがあたりまえの社会から、
低炭素、或いは排出量ゼロが普通の社会に変わらなければなりません。
そのために私たちは、産業構造を転換し直さなければなりません。
運輸、電力、農業、建設といった産業の構造をデザインし直さなければならないのです。
今の価値観を改め、一から完全に創り直す必要があるのです。
しかしそのことが、今の生活の質や便利さを損なうことにはなりません。
これはむしろビジネスや技術開発にとって、投資のチャンスになるでしょう。
100年に一度のチャンスになると思います。
環境先進国のスウェーデン。
首都ストックホルムに本社を置くバッテンフォールは、EU六カ国に電力を供給しています。
3万人の従業員を率いるジョセフソンさん。
目標は、2030年までにCO2の排出を半分に減らすことです。
去年稼動した世界最大規模の海上風力発電施設。
今後10年で、6000億円以上を再生可能エネルギーに投資する計画です。
ドイツでは、CO2の排出ゼロを目指す石炭火力発電所の建設を始めました。 石炭は、価格が安く埋蔵量も豊富ですが、CO2を多く排出します。 そこで、CO2を分離して地下に貯留するしくみを開発しています。
中国など、石炭による発電が増えている国々の削減に繋がる、と期待されている技術です。 今後、削減を進める上で、ジョセフソンさんが最大の鍵とみているのが、CO2の排出量取引です。 国から割り当てられた枠より減らすことができた場合は、排出権として売り出し、できなかった場合は、排出権を買って削減義務を果たします。 CO2に値段が付き、売り買いするようになれば、企業の削減努力への動機付けになるというのです。 今後、CO2の排出が、より厳しく規制されるとみられるなか、 ジョセフソンさんは、排出量取引を世界に拡大していくべきだと訴えています。
ラース・ジョセフソンCEO
まず最初に、世界全体の排出目標の上限を決めます。それを世界全体に公平に割り当てます。
CO2の削減を進めたところには、排出権が生まれます。それが狙いであり、そのために数値目標を設定するのです。
この排出権に価値が生まれて、値段が付きます。値段が付くと、取引が発生します。
この取引の素晴らしい点は、対策に掛かるコストを節約できるということです。
税金など、他の方法でも可能ですが、排出量取引が最も有効だと思います。
ラース・ジョセフソンCEO
技術開発を進めることが、企業にとって大変重要です。もし、今、想定しているよりも、5年速く新しい技術を開発できたら、
目標達成までに掛かるコストは、かなり下がることになるでしょう。
また、中国やインド、東ヨーロッパ、アメリカ、その他の国で開発した
技術を応用すれば、CO2の排出をもっともっと速いペースで削減できるようになると思います。
今期待できる技術が、次々と登場しています。
EU企業のCO2管理
EUの企業が進めるCO2の削減、カーボン・マネージメントは、社員の働き方にも大きな変化をもたらしています。
世界に1万以上の支店を持つ銀行、HSBCでは、業務で出るCO2を徹底的に管理しています。
行員一人当たりの排出量の20パーセントが、出張の際の移動によるものだとわかりました。
出張を減らそうとテレビ会議システムを導入。
この日は、ロンドンの本社と香港のオフィスを結び会議を行いました。
個人の机にもテレビ会議システム。
CO2の排出だけでなく、移動に掛かる経費の節約にも繋がります。
また、会議で出される飲み水は、ミネラルウォーターから水道水に変えました。
社内の浄水器を通した水道の水を自前の瓶に詰めています。
ミネラルウォーターは産地が遠く、輸送の際にCO2が多く排出される為です。
従業員の日常生活にまで踏み込んで、削減に取り組む企業もあります。
世界200カ国にネットワークを持ち、16万人の従業員を抱える総合輸送会社TNTです。
オランダに本社を置くこの会社は、去年(2007年)、CO2の排出ゼロを目指す、と宣言。
各部門ごとのCO2の排出量を、業績と一緒に公表しています。
削減に貢献した社員は、『環境チャンピオン』として表彰、
ボーナスにも反映されます。
社員には、自宅でも努力を求めます。
提携する環境団体の専門家を自宅に派遣、ガス器具や電気製品などの
効率的な使い方を指導します。
訪問は、ひとりの社員につき5回行われ、削減の進み具合をチェックします。
経営者がカーボン・マネージメントを重視する背景には、
消費者や投資家などの目が厳しくなっていることがあります。
イギリスのNPO、カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト [ CDP ] 。
世界の300を超える機関投資家や金融機関と連携し、
企業に対して温暖化対策の情報開示を求める活動を進めています。
世界の500以上の企業に送る質問状。
排出量がどのくらいか。
CO2を管理する担当者や組織があるかなど、項目は多岐にわたります。
回答は、投資の判断材料になります。
プロジェクトでは、企業ごとに点数を付けたり、格付けをしたりして公開しています。
一方、回答を拒否したり、不十分だと判断した企業名も報告されます。
CDPディキソン代表
温暖化対策への投資に、消費者の関心が急速に高まっている。
企業にとって驚きです。
彼らは問題ある企業に金を出さなくなり、対策を進める企業の商品を買うだろう。
積極的なカーボン・マネージメントに取り組む、TNTのピーター・バッカーCEOに話を聞きました。
ピーター・バッカーCEO
自分の会社が真っ先に対策に取り組めば、従業員は自分の会社を誇りに思うものです。
私たちのビジネスはサービス業です。
従業員のやる気が企業の成功を直接左右します。
従業員も環境に配慮した生活に変えたいと願っています。
会社がその方法を示せば、社員との間で意識を共用できるようになります。
これは大変興味深いことです。
我が社の従業員は世界中に16万人います。
ひとりにつき3~4人の家族がいるとすると、世界中で50万人が関係していることになります。
企業と社員、お互いが刺激し合って、50万人がCO2の排出削減に取り組めるようになるのです。
これは大きなことですよ。
ピーター・バッカーCEO
どんな場合でも、100人のうち10人ぐらいは自分の生活に関して会社に
指図されたくないので絶対にやりたくないと言い、別の20パーセントは目標を達成するために
誠心誠意取り組みますと言います。
残りは自分のメリットになることでなければやらないと言います。
でも、この取り組みはこれからもっと広がっていくと思います。
本当に地球温暖化をくい止めようとするならば、企業に寄り添って何かをしようと考えるのではなく、
私たち一人ひとりが、行動を変えていく必要があるのです。
ピーター・バッカーCEO
第一に、こうした問題を話し合える雰囲気を社内に作るということです。
企業は様々で、なかにはお金になることしか話さないという会社もあります。
そんな会社は、CO2の話を始めるのにふさわしい環境とはいえません。
金儲け以外の話題を話し合える雰囲気があるなら始められます。
それが会社の仕事とどう関係しているのか、どうすれば解決できるのか、時間を掛けて伝え、周知徹底を図るのです。
第二に、社内に変化を起こしたいと考えている人をみつけ、ヒーローにするのです。
例えば、以前、或るトラックの燃料の消費が他に比べてずっと少なかったので、その運転手を社内報で紹介して
ヒーローにように扱ったことがあります。
三つ目は、CO2削減のノウハウをホームページやイントラネットを使って、社員で共有することです。これは本当に役に立ちます。
ピーター・バッカーCEO
私は、企業が政府と一緒になって考えるべきだと思います。
どのような規制が適切か話し合って決めたらどうでしょう。
率直に言って、政府も何が一番の解決策かきちんと判っていないのです。
強力して進める方がいいと思います。
CO2の排出が毎年10パーセントづつ増加すると、2020年にはここに来ます。
今の時点に比べて20パーセント削減するということは、
実際には100パーセント以上減らさなければならないのです。
それだけ削減する技術があるのかというと、まだ判らないというのが現状です。
簡単に20パーセント削減と口にすると大した量でないよに聞こえますが、
経済成長は続いていくわけですから、実際は膨大な量の削減が必要なのです。
企業と政府、発明家が協力して技術を開発していくことが求められています。
今後はその分野に投資を振り向けるべきでしょう。
温暖化対策、問われる日本、何が求められるのか
温暖化対策は今年(2008年)のサミット、主要国首脳会議でも主な議題となります。
ダボス会議では議長国・日本の発言に注目が集まりました。
福田総理大臣は、産業界などの反対を押さえ、国別の総量目標の設定を初めて表明しました。
提唱したのは、EUのように目標を先に決めるのではなく、国内の産業ごとの目標を積み上げて決める方法です。
その結果、目標となる削減幅が小さくなれば、EUなどの反発は避けられません。
日本と世界の企業に今後何が求められるのか、二人に聞きました。
電力会社、バッテンフォール、ラース・ジョセフソンCEO
いろいろな産業ごとにCO2の削減目標が設定されています。
それは、ライバル企業との公正な競争を望むからです。
公平な条件で競争を望む企業があるからこそ産業別の削減目標を希望するのです。
競合他社と同じだけの負担を望むのはよく理解できます。
しかし、国家間の公平性を保つ国際的な合意もまた必要なのです。
CO2削減の目標を設定するのは大変いいことです。
ただひとつ課題があるとすれば、どう達成するかも述べなければなりません。
どう実施するのか、そして、どんな手段があるのか。ということです。
総合輸送会社、TNT、ピーター・バッカーCEO
必要なのは企業がすぐに対策の準備に取り掛かることです。
完全な技術が開発されるまで待つ必要はないと思います。
時にはリスクをおかすことも必要なのです。
誰かがどうにかしてくれると待っていてはいけないのです。
例えば、我が社は世界で初めて電気トラックを使っています。
ロンドン、ロッテルダムで2台づつ。半年間、試験的に使用しています。
この試みは失敗するリスクもあります。
したし、全車両のわずか一部であることを考えると、大したリスクではありません。
こういうことをやって欲しいと思います。
いいアイデアがあれば、それを試してみて実現の方法を探し、その方向に進んでいくのです。
資金力のある大企業が、積極的に様々な試みを行い、そのなかから有効なものを社会に広げていく。
また、有効なしくみづくりに向けてのアイデアを企業が国に提言し、国を動かしていくことも重要だ。
二人の経営者が、企業が果たすべき大きな責任について認識していたのがとても印象的でした。
28th Jan. 2008
温暖化対策、ヨーロッパからの新しい風、低炭素都市への挑戦、ロンドンの事例
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