- home ->
- Editor's Eyes ->
- No. 014
温暖化対策、ヨーロッパからの新しい風、低炭素都市への挑戦、ロンドンの事例
イントロダクション
地球を脅かす気候変動。
グローバル化がもたらす社会の激しい変化。持続可能で競争力のある社会をどう築くのか。
27カ国、5億人が暮らすEUヨーロッパ連合が、新たな時代の潮流を生み出そうとしています。
人口およそ740万。
EU最大の都市ロンドンは、今、大胆な温暖化対策を次々に打ち出し、世界の注目を集めています。
市内に乗り入れる自動車をカメラ数百台で厳しく監視。
一日1,800円を課税( 渋滞税 )して車の利用を減らしました。
市民
温暖化を止めるためには仕方ない
大型発電所に依存しないエネルギーシステムを導入。二酸化炭素を60パーセント削減するとしています。
ロンドン気候変動局、アラン・ジョーンズ代表
気候変動リスクの高い大都市こそ達成すべき目標だ。
世界をリードする大都市ロンドンの温暖化対策。その戦略に迫ります。
ロンドン、低炭素都市への挑戦
ロンドン市は、温暖化がもたらす海面上昇の影響を強く受ける可能性があるとして、
将来にわたって都市機能を守っていくためには、今から積極的な対応が必要だとしています。
そこで去年(2007年)の2月に、気候変動に対応するアクションプラン、行動計画を打ち出しました。
その内容はとても大胆なもので、ロンドン市が目指そうとしているのが持続可能な低炭素都市です。
具体的には、2025年までに1990年比で二酸化炭素の排出を60パーセント削減することを目指しています。
イギリス政府が、2050年までに60パーセントの削減を目指しているなかで、
その目標を25年も速く達成しようというものです。
これだけの規模の大都市が、具体的な数値目標を掲げたのは前例がありません。
ロンドン市は、世界中の大都市が排出する二酸化炭素は排出量全体の
75パーセントを占め、気候変動の影響を和らげていく上で
大都市が果たす責任は大きいとしまして、低炭素都市に向けたリーダーシップをとろうとしています。
人々に行動の変化を求め、そして再生可能なエネルギーへの大転換まで目指そうとしているロンドン。
大都市の温暖化対策が難しいとされているなかで、ロンドン市の対策は少しづつ人々の生活にも浸透し始めています。
低炭素都市、変わる市民生活
ロンドン、リビングストン市長
私たちは、家庭や職場、それに移動する時など、あらゆる場面でエネルギーを浪費してきました。
こうしたやり方を見直さなければなりません。
ロンドン市がまず始めたのは、車の利用を減らすことです。
平日の日中、Cのマークが付いたエリアに入る車に、8ポンド、およそ1,800円の渋滞税を課します。 300台以上の監視カメラを設置して漏れなくチェック。 車のナンバーから所有者を割り出します。支払わない場合は罰金22,000円が課されます。 去年(2007年)2月には、渋滞税の対象となるエリアを2倍に拡大。中心部のほとんどがカバーされるようになりました。
交通量はこの5年間で20パーセント減り、二酸化炭素は16パーセント削減されました。
市民1
賛成です。温暖化を防ぐためによいことだと思います。
市民2
本当に削減できるの?金目当てじゃないの?
市民3
私たちは次の世代のために何かをすべきです。
今後、大型の四輪駆動車などに対しては、税額を3倍以上に引き上げることも検討しています。
ロンドン市に入る渋滞税は年間270億円あまり。公共交通機関の利用促進に当てられています。
地下鉄では渋滞税の導入と同時に料金の割引サービスを始めました。
このプリペイドカード。
ロンドンの地下鉄は、初乗りがおよそ900円と高いことで知られていますが、これを使うと3分の1程ですみます。
路線バスは、料金を下げると共に朝晩を中心に本数を増やしました。 渋滞税導入後、地下鉄の利用者は7パーセント、バスは32パーセントも増えたといいます。
市民
渋滞税があるので、公共交通機関を使うようになりますね。
更に力を入れているのが、電気自動車の普及です。
渋滞税の免除や駐車場の一部無料化など、様々な優遇措置をとったこともあり、利用者は増えています。
こまめな充電が欠かせないためロンドン市は無料のスタンドを増やしています。
市民
二酸化炭素を減らすために生活大きく変えなければと思ってましたが、実際はそうでもないんです。
意外と簡単なことがわかりました。
温暖化対策のもう一つの柱は、住宅のエネルギー効率の改善です。 ロンドンでは60年以上前に建てられた古い住宅が6割を超えるため対策は急務です。
先月(2007年12月)始まった緑のコンシェルジュ・サービス。
市が各家庭に省エネの専門家を派遣し対策をアドバイスします。
住宅の断熱性を高めるため赤外線で壁や窓の温度を細かく測定。
外気が入る隙間を探すため、玄関に扇風機を取り付けて室内の気圧を下げます。
この家の場合、暖炉や窓などから逃げる熱が多く、対策とればエネルギーの消費量を
最大で63パーセント削減できることが判りました。年間40,000円の料金が掛かりますが、利用者は増えています。
サービス利用者
今のうちに改善しておけば、節約にもなるし環境にも優しいので、利用することにしました。
まずは自分でもできることからやってみたいと思います。
今月(2008年1月8日)はじめには、エネルギーの消費が少ない蛍光灯の普及を進めるキャンペーンも実施。 小型の蛍光灯22万個を用意し、各家庭の白熱電球と無料で交換しました。
ロンドン、リビングストン市長
生活の質を下げることなく暮らし方を変えることで、温暖化は回避できるのです。
一人ひとりがちょっとした削減に取り組むだけで、大都市の二酸化炭素は大幅に削減できるのです。
ロンドン、低炭素都市への挑戦
ロンドンの温暖化対策を進めている気候変動局です。
省エネや都市計画の専門家が集められた市長直属の組織です。そのトップを務めるのがアランジョーンズさん。
或る地方自治体で二酸化炭素の75パーセント削減に成功。その手腕をかわれ、3年前に抜擢されました。
ロンドン市が温暖化にどう立ち向かおうとしているのか、聞きました。
質問
ロンドンは二酸化炭素の排出削減に、政府よりかなり厳しい目標を立てています。
ロンドンが国より25年も速く60パーセント削減を目指す必要があるのはなぜですか。
ロンドン気候変動局、アラン・ジョーンズ代表
我々が発表した削減計画は、科学的な調査や分析に基づいており、希望的観測から作ったものではありません。
気候変動のペースは今後一層早まると予測されていて、2025年までに60パーセント削減しないと取り返しのつかないことになります。
世界の人口の半分以上が大都市に住み、75パーセントの二酸化炭素を排出しています。
大半は海や川の近くにあり、海面上昇や洪水、大雨の影響を受けやすいのです。
大都市は、もっとも気候変動の脅威にさらされています。
だからこそ大都市が、真っ先に対策に取り組まなければいけないのです。
質問
渋滞税について不満の声も聞きました。人々は気候変動について何かしないといけないとは思っているようですが、
この渋滞税の必要性を感じていない人もいるのではないですか。
ロンドン気候変動局、アラン・ジョーンズ代表
もし渋滞税がなかったらどうなっているかを考えてみてください。
人口は毎年増えていますし、交通量も増えています。
渋滞税の導入で20パーセント近い二酸化炭素を削減でき、渋滞そのものも減っているんです。
不満を漏らしている人は、公共交通機関や自転車を利用する習慣がない人。
それに、車をやめて歩く習慣のない人でしょう。
いまだに近くの店に行くのに車を使っている人もいるんですよ。そういう人には、考え方を変えてもらう必要があります。
質問
人々の考え方を革命的に変えて、二酸化炭素排出は社会にとって高くつくと理解してもらうことが、なにより重要だといわれています。
そうした考え方が十分に理解されているとお考えですか。
ロンドン気候変動局、アラン・ジョーンズ代表
今月中旬(2008年1月中旬)の気象は異常で、観測史上最も温かい冬となっています。
タンポポが咲いているのが確認されました。
政治家やメディアが気候変動を否定しようとも、人々はこの問題について真剣に考え始めています。
気候変動を止めるために必要な投資は、いまなら世界のGDPの1パーセントで済むといわれていますが、
何もしなければ将来は10パーセント、20パーセントと増えていきます。
今は大幅な経済成長を望める時代ではありません。このままでは手遅れになるのです。
質問
ロンドンは具体的な削減の数値目標を設定した最初の大都市になりました。
大都市がすすんで取り組むことがなぜ重要なのですか。
ロンドン気候変動局、アラン・ジョーンズ代表
ロンドンが率先して二酸化炭素を削減しても、他の大都市が足並みを揃えてくれなければ、何の意味もありません。
東京やニューヨークなどがロンドンの真似をして欲しい。
そうすれば気候変動をくい止めることが出来るかもしれません。
質問
大都市が動けば国も変わっていくと思いますか。
ロンドン気候変動局、アラン・ジョーンズ代表
自治体レベルだけではなく、すでに国レベルでも変化が起きていて、この流れは加速していくと思います。
これからは、国も自治体も気候変動の影響を十分認識しないわけにはいきません。
ロンドン、新たな温暖化対策
イギリス政府は、ロンドン市とは別に温暖化対策を進めています。 政府が導入しているのは炭素税。企業のエイネルギー使用量に応じて課税しています。
ロンドン市内に本社のある国内最大の通信会社です。炭素税の対象となっています。 二酸化炭素の排出を減らすため、オフィスには大胆に自然光を取り入れました。 飛行による出張を減らすための電話会議システムも導入。これまでに60パーセントにのぼる削減を達成しています。
ブリティッシュテレコム、ベン・ヴォウェイアンCEO
気候変動は深刻な問題です。
我々のような企業も、行政と共に対策に取り組まなければならないのです。
国の対策を補うためロンドン市は、先月、幅広い産業を対象とした独自の制度を始めました。
ビルを所有している企業に対し、二酸化炭素の削減目標を設定、
新築や改築の際には、省エネ対策を指導し、達成状況を公表します。
また、その他の企業に対しても、削減目標を設定するグリーン500 GREEN500 という制度をスタート。
目標をクリアした企業を市が表彰することで削減を促すねらいです。
ロンドン、リビングストン市長
温暖化対策に後ろ向きな企業もありますが、
多くの企業は問題の深刻さを十分認識し、市の取り組みを理解してくれています。
CO2削減のカギ、分散型エネルギー
ロンドン市の温暖化対策の指揮をとるジョーンズさん。今、新しいエネルギー政策を進めようとしています。
ロンドン市は現在遠く離れた発電所から電気の供給を受けてます。
しかし、発電や送電の際にエネルギーが失われ市内に届くまでの間におよそ6割が無駄になるとおわれています。
そこで、ロンドン市内に風力や太陽光、大量に出るゴミを使ったバイオマス発電所などを建設。 互いに電気を融通しあい、全体の4分の1をまかなうことで、二酸化炭素を20パーセント減らします。
この計画のモデルとなっているのが、人口およそ10万人の町、ウォーキングです。
3年前までジョーンズさんが環境対策の責任者を務めてきました。
ジョーンズさんは、この町に80にのぼる小型発電施設を整備。
燃料は、二酸化炭素の排出が少ない天然ガス。
発電の際に出る熱を利用して、地域にお湯も供給します。
また、自然エネルギーも取り入れ、公共施設や大型住宅には太陽光パネルを設置。
風力と太陽光が利用できる街灯も整備し。
75パーセントを超える二酸化炭素の削減に成功しました。
ウォーキング環境政策担当
小さな町なのでやり易いのは確かですが、住民に理解してもらい協力して取り組むことが大切です。
ジョーンズさんはこのしくみを人口740万の大都市ロンドンに導入。
二酸化炭素の少ない分散型のエネルギーシステムを造りたい考えです。
第一号として、来年4月(2009年4月)にもこの住宅予定地に発電所を造り、商業施設やおよそ1,000世帯の住宅に電力とお湯を供給する予定です。
前例のない規模で進むロンドン市の温暖化対策。
それを支えているのが、カーボン・デモクラシー Carbon democracy。
炭素民主主義という考えです。
50地球上の人間、一人ひとりが排出する二酸化炭素の量は、等しくあるべきだ。
そのためには、先進国、とりわけ大都市の人々が率先して減らさなければならない。
ロンドンの取り組みが大きなカギを握っています。
質問
ウォーキングで二酸化炭素の大幅な削減に成功されています。
それと同じエネルギーシステムをロンドンにも導入するということですけれども。
ウォーキングの人口はおよそ10万人。
人口が74倍も多いロンドンに本当にこのシステムの導入が実現可能だと思いますか。
ロンドン気候変動局、アラン・ジョーンズ代表
ウォーキングではエネルギーを町自体でまかなうシステムを造り、75パーセントの二酸化炭素を削減できました。
新しいシステムを技術を開発する必要はなく、既にある技術を使えばいいので、
ロンドンの掲げる、2025年までに60パーセント削減、という目標は達成可能だと思います。
ロンドンでは、二酸化炭素の大半が自動車や大規模発電所などから排出されています。
ですから、これらを改善すれば目標は達成できます。しかし、それで終わりません。更に再生可能な燃料を開発します。
質問
生ゴミの利用ですか。
ロンドン気候変動局、アラン・ジョーンズ代表
そうです。レストランや家庭から大量に出るゴミです。
ロンドンにある全世帯のおよそ3分の2の電力がゴミでまかなえるとみています。
地元で確保できる最大のエネルギー源になるでしょう。
質問
ロンドン市はこの政策を進めるに当たって、国の支援がなくてもできるのでしょうか。
ロンドン気候変動局、アラン・ジョーンズ代表
今の国のしくみでは、小型発電所が電気を供給する場合、供給できる世帯の数を限定しているなど、様々な規制があります。
この規制が緩和されなければ、我々の目標は半分しか達成できません。ですから、政府には規制緩和を望みます。
例えば、IT産業のように、規制緩和を行ったことで画期的な技術が導入され需要が拡大した例もあります。
カーボン・デモクラシーが目指す世界
質問
カーボン・デモクラシーという考え方は、新しく、まだそれほど広く知られていないと思います。
このカーボン・デモクラシーを実現するために、ロンドンはそのような役割を担うことができるのでしょうか。
ロンドン気候変動局、アラン・ジョーンズ代表
特定の国だけが地球上の資源を沢山使い、多量の二酸化炭素を排出するというのは不公平です。
例えば、イギリスもアメリカも資源を大量に使っています。
これは、他の国々にとってみれば、不公平で容認できません。
また、地球温暖化が進めば、海面の上昇で途上国の沿岸部も大きな影響を受けるでしょう。
なかには、水没してしまう国もあるかもしれません。
アフリカやアジアでは、干ばつに悩む地域が多くあります。
住み土地を失った人々を移住させなければなりません。
そうなれば、途上国の問題は、遅かれ早かれ先進国にとっても大きな問題となります。
無視することはできません。
質問
ロンドンをみてきましたが、本当に目標を達成することができるのか懐疑的にならざるを得ないのですが。
ロンドン気候変動局、アラン・ジョーンズ代表
気候変動の影響は急速に世界に拡大しているのに、人々はその深刻さを理解しているのか、心配になることがあります。
近い将来、とんでもないことが起きないかと心配です。
今、対策をとらなければ、すぐにでも危機的状況がやってくるでしょう。
二酸化炭素の60パーセント削減は大きな目標ですが、
達成しなければなりません。なんとしてでもです。
29th Jan. 2008
温暖化対策、ヨーロッパからの新しい風、カーボン・マネージメント
Go Report Index


