『がん「五人の名医」に生かされて』』
長友明美著 コスモトゥーワン刊 2012年9月5日発行.
プロローグ
がんの治療に、「魔法の弾丸はない」‐私はこの当然の事実に気がつくのに長く時間がかかりました。
そんな薬や治療法があるなら、がんと診断されてもだれもショックは受けないはずです。治療する側の医師からすれば、
これは当たり前のことなのでしょうが、治療を受ける側の患者は、完治するという大きな期待しか頭の中にないのですから、
初めからそんなことを考えるはずがありません。
上野直人MDアンダーソンがんセンター准教授は「がんは一つの特効薬や手術で治るような病気ではないので、
標準治療のガイドラインにそった外科療法、放射線療法、化学療法を組み合わせた集学的治療を行うのが最も望ましい」
「(『最高の医療を受けるための患者学』)と述べられています。「三大療法による標準治療」が「最も素晴らしい治療」
とも書かれていますが、たとえそうであっても現実は、日本で一年間に34万人のひとが「もうこれ以上治療法がありません」
と告げられて亡くなっているのですから、標準治療だけで十分ということを意味しているわけではないでしょう。
「がんは一つの特効薬や手術で治るような病気ではないので」というのはほとんどの医師の共通した認識だろうと思いますが、
「そうであるならばその先をどうするのがいいのか」ということになると様々な考え方があります。ひとつは標準治療をおこなう
大多数派であり、いわゆる正統派です。三大療法に限界があるとしても、これ以外に科学的根拠(エビデンス)のある治療法はない
のだから、次は臨床試験に参加したり、次の薬が出てくるのを待ったり、あくまでも標準治療だけで延命できるところまで行く
しかないということなのでしょうか。
もうひとつは少数派の「がんの統合医療」です。愛する最も大切な人である夫、妻、親、子供などががんになったとき、
三大療法を受けていて限界がきたとき、「魔法の治療法」がないのであれば、どのような治療を受けさせてあげたいと願うでしょうか。
私は、さまざまな医学、医療の欠点を補い合い長所を生かすことで患者に最も適切な全人的治療を選択する統合医療が可能であるならば、
それを受けたいと思います。
「なぜがんの治療は統合医療であるべきか」という問いに対して、「それはほとんどの患者が統合的なケアを望んでいるからです」
とアンドルー・ワイル博士(『がんの統合医療』)は述べています。調査によると患者の90%は病院の通常の治療を受けながら、
「ほかの療法」を併用しているといいます。患者は、あるひとつの方法で治すのは難しいことを知っているので、利用できるものは
なんでも取り入れようと考えるのだと思います。
三大療法だけでは十分ではないという現実を前にして、相補・代替医療(CAM)も治療に取り入れ、総合的にがんと闘ったほうが
より患者のためになるのではないかという考えから「統合医療」という治療法が出てきたのは自然な成り行きではないでしょうか。
米国政府が国家的レベルでCAMに取り組むようになったのをきっかけに、日本でもCAMをめぐる動きは活発化し、二〇〇八年に
「統合医療こそ、真の国民のための医療である」という信念のもと、日本統合医療学会(IMJ)が設立されました。
統合医療の中心はあくまでも三大療法であり、より治療効果を上げるように、他の療法を統合しようとするものです。
現代医学を拒否しCAMだけでやるのは統合医療とはいいません。手術を拒否して、手遅れになった患者さんに会ったこともあります。
いまのところ手術にとって代わる確実にがんを治す方法はないのですから、できるものはまず手術するのが第1選択です。
がんの特効療法はないにもかかわらず、ある先進医療だけとか、またはあるひとつのCAMだけに命を懸けている人もいますが、
これは統合医療と正反対の考え方です。がんは「一本槍」で勝てるほど弱い相手ではありませんので、使えるものは何でも使う
総合戦でやるべきだと思います。
今世紀に入って、米国の統合医療の大きな発展をみて、日本でも統合医療の潮流がもっと大きくなっていくだろうと思っていましたが
期待し過ぎでした。日本でも統合医療の理念に共鳴する医師はたくさんいても、本格的に統合医療に取り組んでいる病院やクリニック
は少ない。がんの統合医療の理念を実際に実現した病院が現れるのを待っていても、「混合診療」ができないといった医療制度などの
壁もあり、それは当分期待できないないだろうと思う。統合医療の理念や理想は素晴らしいが現実には存在しない名前だけの治療法
のような印象をうけます。
いずれにしても、統合治療をやってくれる病院があろうがなかろうが健康を取り戻すために患者自身が「自分の責任でやらなければ
ならないこと」は同じです。誰かが私の代わりにウォーキングに行ってくれたり食事をしてくれたりするわけではないのですから。
統合医療をやってくれる病院がないのであれば、自分流に統合医療的取り組みをすればいいのではないか、というのがこの本を書く動機です。
ただ医師任せの「まな板の鯉でいいのですか」といいたいのです。
統合医療的なことを自分でやるといっても、独りよがりにならないためにも、実際に統合医療をやっている医師の見本となるやり方
を学ぶ必要があります。私がまずモデルにしたのは、私が入院したときに実際に受けた小林常雄先生の方法です。私は、1982年に
W期の「絨毛がん」と診断され、余命六ヶ月とみられていました。そのとき、私はまだ統合医療という言葉も治療概念もない時代に、
がん治療に役立つと思われるものは何でも偏見なく受け入れる度量を持った先生たちによる統合医療の治療を受け、幸いにもそのような
状況を乗り越えることができました。
そのほかにモデルにしたのは、アンドルー・ワイル博士のナチュラル・メディスン、そして、ワイル博士が「真の意味でがんの
統合医療に取り組んでいる唯一のクリニック」というがん統合医療のパイオニアであるキース・ブロック(Keith Block)博士の方法
『Life Over Cancer』、ダヴィッド・シュレベール博士の『がんに効く生活』、「がんのセルフコントロール」(カール・サイモントン)、
さらに、帯津良一先生や福田一典先生(『自分でできる「がん再発予防法」』)、伊丹仁朗先生(『絶対あきらめないガン治療・30の
可能性』)らの提示される統合医療です。
私がこの本で紹介するのは、個々の方法でがんをやっつけようというような特別の治療法ではありません。昔からおこなわれてきた
食養生法、温泉療法、温灸、丹田呼吸法、瞑想、運動、西式健康法等によって人間が生まれながらに持っている治癒力を強めようという
健康増進法です。それらを使って自助努力で取り組むセルフケアプログラムであり、がんのセルフコントロール・プログラムです。
ただし、これらはすべて、まったく自分自身の責任で取り組まねばならないものです。どんなに子どもが苦しんでいても、親が子どもの
代わりに病気なることはできません。だれも助けてくれる人はいないのですから、本当に自分で治す気がなかったり、治るために最善を
尽くす決意がなければ、どの療法ひとつとっても真剣に取り組むことはできないでしょう。
そして、それぞれひとつひとつの療法の力は小さいけれども、全部の力を合わせれば、それが総合されてついにはひとつの大きながん
と闘う力になってくれるだろうーということを信じて取り組むのです。統合医療的アプローチで「がんと闘かう総合的な力」をいかに
強めるか、それがこの本で私が一貫して追求するテーマであります。
垂直にそそり立つ断崖絶壁を遠くから眺めると、登れるはずがないと、最初から諦めてしまいそうになります。しかし、崖の近くに
来てみると、崖にはあちこちに手や足をかけることができるとっかかりや窪みがあることが分かり、絶望的に見えた壁も、やってみれば
登れるかも知れないという希望が出てくる。
がん患者も同じようにがんが自分の前に立ちふさがる高い壁のように感じられ、絶望的になったり希望を失いかけたりするときがある。
そのとき、壁を前にして、何もしないであきらめるか、それとも希望を持って最初のとっかかりを見つける努力をするか。落ち着いて
じっくりと探せば、必ず手がかりがあちこちに見つかるはずです。そうしたら、それをきっかけに次の足がかりが見えてくる。そこで、
勇気をだして挑戦してみると、アイデアがいろいろ出てきて、いくらでも工夫をしてより上手に登る方法があることも分かってくる
ようになります。
私の本の中にそのような手掛かりやとっかかりを見つけていただければ、これ以上の喜びはありません。
患者さんは、ひとりで険しい崖を一歩一歩登っていかねばなりません。登り切った頂には、雲ひとつない青空が広がり、虹が輝き、
眼下には素晴らしい景色が広がっているでしょう。その晴れ晴れとした1日を迎えられる日が早く訪れることを祈ります。
2012(平成24)年5月1日
