アシナガサシガメ

影の薄いアサシン


 ヨコヅナサシガメのことを調べようと、Web検索をしていると、ミョウチクリンなモノに出くわした。ここのところ、重いコラムが多かったので、気分を変えてたまには軽く蹴っ飛ばしてみようと、それを見て思った。
 アシナガサシガメには子供の頃、お目に掛かったことがある。草原を歩いていると、ナナフシにしては小型(体長20mm程度)で、ガガンボンしては腹部がしっかりしている昆虫に出会うことがある。いずれにしても、さしたる存在ではなさそうなので黙殺していた憶えがある。よく見ると顔つきだけがサシガメだった。これがアシナガサシガメであった。奇妙な形状をしているワリには影が薄い。確かに、それとは気づかずに触れても自分の翅を落として、相手を驚かして逃げるナナフシよりは能動的な印象だ。前肢には節が一箇所しかなく。カマキリのようにそれを持上げたまま、残りの四本足で移動する。のろまなカマキリに見えなくもない。誤って陸に上がってしまったミズカマキリのようでもある。
 だが、杜氏は、この三種の昆虫のほかに、二種の節足動物を思い出してしまう。一種は昆虫だが、もう一種は違う。
 一種目はカマドウマである。直翅目、つまりバッタ、キリギリス、コオロギの類だが、翅はなく鳴きもしない。ただ、跳ね回るだけの昆虫だ。それが便所とか土間とか風呂場などという意表を衝いた場所から急に飛び出すので、気味悪がる人も多い。ベンジョコオロギなどと、名誉とは思えない別名を持っている。もう一種はザトウグモ。陽の当たらない場所でじっとしているクモだ。身体は円盤状でそこから四対の翅が伸びている。一見して、クモとは断じにくい。暗い場所を好み、ザトウなどという名前からして、視覚を持っているのかよくわからない。多分、同じように暗い場所を好む小昆虫を餌食にして暮らしているのだろう。映画「ヒルコ」に出てくる怪獣(妖怪?)ヒルコが、このザトウグモを思わせる形態をしていたと記憶しているが、あまり以前のことなので忘れてしまった。
 なぜ、アシナガサシガメを見るとこれらを想起させられるかと言えば、意表を衝いた形状で、意表を衝いたタイミング、登場方法で発見者を一瞬だけたじろがせるためである。無論、生物としての共通点などないだろう。
 アシナガサシガメはクモの巣に着いているらしい。獲物はクモの巣にかかる昆虫であるのか、クモ自体なのかわからなっている。いずれにしても、クモの巣の粘着力のある横糸に絡みつくとクモの餌食であることを知っていると思われる。さもなければ、アシナガサシガメ自体がクモに食われてしまう。クモは巣に与えられる振動で獲物が掛かったことを知り、おもむろに巣の中央から獲物がかかった箇所へクモは移動する。アシナガサシガメの動きは鈍く、体型はスリムなので振動を巣に与えずに済むのかもしれない。サシガメの類は吸血にじっくり時間を掛ける。Kissing bugの名の通り、吸血された獲物が、自分を見舞う不幸に気づかぬ陽に死んでいるといったこともあるのだ。一見のろまに見えるのも、欠点ではなく、生きるために必要な要因なのかもしれない。
 だが、どうも肉食昆虫にしては影が薄い。こういうところも、肉食で得体の知れないザトウグモを連想させる。暗殺者のことを英語でアサシンとも呼ぶ。アサシンはハッシュ、ハシュシを意味する。中東のプロの暗殺者は、麻薬を用いてラリパッパになり、トランス状態で殺人を良心の仮借から逃れて行ったらしい。どうも、この影の薄い、動きの鈍い殺戮者には、このエピソードが似合っている気がする。

 まァ、人は見かけによらぬもの同様、虫も見かけによらぬものなのであろう。

 これで終わり? 影の薄いネタということでご容赦を。



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