

個人個人に各々様々な側面があるように、一括りにされるグループの属性も決して画一的に論じられるものではない。ただ、グループ全体にある属性を当てはめてしまえば、より簡略化したものの見方が出来る。化学にMolという分子の集まりがあるが、分子を一つずつ数えるのは不可能で、あるまとまった分子数単位でその物質が及ぼす現象を考える方法だ。人は米の量を米粒で数えはしない。だが茶碗一杯とか俵一表と言えば、具体的なイメージを喚起することが出来る。化学でも気体中の分子数を正確に数えることなど出来ない。そこでMolという概念を使えば、圧力、温度などの他の物理量と関連付けて物質の量を扱うことが可能となる。十把一絡の考え方が必ずしも悪いとも限らない。
ゾウでもアフリカゾウは凶暴で、インドゾウは温和という色分けをされる。ゾウという巨大な哺乳動物が及ぼす人間にとっての危険性を考えれば、リスクを認識する意味でこの色分けは有効かもしれない。ただ、動物園でこれらを個体として飼育するとき、アフリカゾウだから危険で可愛がるのが困難だとか、インドゾウだから安心と認識するのは妥当ではないだろう。きっと個々には温和なアフリカゾウや気の荒いインドゾウもいるハズである。概ねこうだという見方をマクロスコピック、微に入り細に要り詳しく見る視点をミクロスコピックと言い、ケース・バイ・ケースで使い分けなければならない。
カミキリムシはとても多様な分散を示す類であるが、目に付き易いのはシロスジカミキリ、ミヤマカミキリ、ウスバカミキリのような大型種か、ルリボシカミキリのような美麗種、キボシカミキリ、ノコギリカミキリ、タケトラカミキリ、ゴマダラカミキリのような普通種である。一般の人達のカミキリムシへのイメージは、ほぼこれらで九割方充たされるだろう。長い触角と、バランスが取れた体型、木の幹を穿ってカブトムシなどが好む樹液バーを作る原因となる幼虫、様々な作物に災厄をもたらす害虫。だがカミキリムシにはカミキリムシ屋と呼ばれるグルーピーがついており、それだけで留まる昆虫ではないことは、その少数の人達によって深く知られている。
ハナカミキリ科という分類が存在する。ハナに集まり、花蜜や花粉、花弁まで食糧にするカミキリムシの類である。花に集まるのは鱗翅目昆虫、膜翅目昆虫であるのが相場だが、鞘翅目昆虫とは思えないハナノミ類に加え、カミキリムシの類も数多い。必ずしもハナカミキリに分類されていなくとも、体長30mm以下の小型のカミキリムシは花に寄ってくることが多い。いかに花が昆虫の貴重な栄養源となっているかが窺える。またハナカミキリに属していながら訪花しない種もあったりするのでややこしい。
アカハナカミキリはハナカミキリの中でも普通種で、首都圏でも容易に見つけることができる。アカハナと言っても、トナカイではない。最大でも22mmにしかならない華奢で小さなカミキリムシだ。体色はくすんでオレンジがかった赤である。小さいなりに触覚は節のはっきりとした立派なものである。北海道から九州にかけて広く分布している。いわば代表的なハナカミキリである。
ハナカミキリの類は、よく白い花に飛来する。しかも小さな花が無数に集まって房を成すような花に寄ってくるのが殆どである。ウツギとかコデマリとかガマズミといった花が好まれる。カミキリムシ好きの人間もこれらの花を見つけて、カミキリムシの姿を探る。なぜ白い花なのかはわかっていない。そもそも、朽木や作物に巣食うカミキリムシと違い、ハナカミキリの生活史は詳しくわかっていない。六〜八月にしか見られないところから察するに年一化発生であるに違いない。だが幼虫は土に住むのか朽木を食べているのか作物に被害を与えるのか、不明なようだ。身体が小さいことや、同属のカミキリムシに脚光が当たっているせいで目立たないのかもしれない。
花の色や形状や香りが多様化したのも、昆虫の色覚、生態に合致するように各々の植物の遺伝子が舵を切ったと思われる。そうしてみると、白い花ばかりに集まるカミキリムシは最早、大きな役割を果たしてはいないのかもしれない。だが、かつては主導的な立場にあったと想像できるし、今も白い花限定で花粉を媒介し続けている。
それでもハナカミキリはカミキリムシの中でも比較的大きな勢力である。美麗種が多いワケでもなく、変わった生態も見出せないかもしれない。それゆえに人間から害虫として目の敵にもされないし、採集の対象として珍重されることもあまりない。生活史が詳らかではないのも、こういった注目度の低さが影響しているのかもしれない。だが、多様な種類に分散したということは、その在り方が生存競争上は今のところ正解だったことを示している。花に集まるということは、食物確保以外に出会いの場であることも意味する。花の上でそのまま交尾しているカップルもしばしば見られる。ハナカミキリは完全に草食であり、花に集まる他の昆虫にとっては無害で平和な昆虫である。ただ、小型のカミキリムシに大きさといい形状といいよく似ているのがジョウカイボンの類であり、これら逆に完全に肉食昆虫である。花に寄ってくる他の小昆虫を捕食する。捕食されてしまうものは、ジョウカイボンをハナカミキリと見間違え、安心しきってしまうのかもしれない。だとしたら、これも一種の擬態であろう。
会社などにいると、実力云々よりも声がデカかったり、口数、手数が多い人間が主導権を握ることが多い。ただ、組織を構成している大半が、それ以外の人間であり、それをサイレント・マジョリティと呼ぶには主体性を持っていたりもする。表面に立つ人間を活用して火の粉を避けながら、おいしいところを狙っていることも多い。脳ある鷹は爪を隠し、能あるバカは爪を出すのかもしれない。かつての大洋ホエールズに関西出身のヒゲのピッチャーが居て、エース面をしている自己主張の強い選手だった。大洋ファンの多くは選手達が押し出しが強くはなく、それでいて身体能力が高いところが好きだったから、その目立ちたがりのピッチャーのことを「過てる大洋イメージを世間に広めているヤツ」としか思えなかったが、他球団のファンにはそうは思えなかっただろう。しかし、本当のエースは大洋イメージを踏襲していた遠藤一彦だった。
派手な行動よりも、地道な活動が社会を支えていることは自明だ。
ハナカミキリは確かに影が薄いが、作物の大害虫などと呼ばれる他のカミキリムシが、人間からの駆除によって確実に個体数を減らしているのに対して、変わらぬ繁栄を続けている。カミキリムシの本質は、シロスジカミキリのような目に付く種よりも、ハナカミキリにあるのかもしれない。
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