シラホシハナムグリ

紛らわしいもの達


 1965年だったか、66年の正月だったか、杜氏は今やタクシー乗り場と化してしまった浦賀駅前の映画館で「怪獣大戦争」を観た。休憩の音楽には山本リンダの「こまっちゃうな」が流れていた。ゴジラが当時赤塚不二夫の「おそ松くん」の人気キャラクタであったイヤミの「シェー」をするというので話題にもなった作品だった。ゴジラが破壊のカリスマから子供のおもちゃに変質したことを象徴する演出だった。第一、手が頭の上にまで達しない。その中でX星人が地球の女性に化けて潜伏しているという設定があった。同じく円谷プロの名作、「フランケンシュタインの怪物」シリーズで好演していた水野久美がその女性宇宙人を演じた。で、X星人のアジトに乗り込んでみると、その宇宙人の女性達の顔は全て水野久美だったというのがオチだった。ああいった妖艶なお姉さんばかりしかいない星になら行ってみたいものだなどと、子供心に思った。
 などと紛らわしいものを導く枕を探そうとしていたら、インターネット検索で「キングギドラ」に引っかかるものの半分が、度異性愛者差別の歌詞で物議を醸したらしいヒップホップ系音楽グループを扱ったページだった。これこそ紛らわしい。同性愛差別以前に、著作権問題はクリアされているのだろうか。オリジナルのキングギドラですら、ヤマタノオロチとの著作権問題は曖昧にされているだろうに。

 ハナムグリと呼ばれる種族はよくわからない存在だ。鞘翅目のコガネムシ科で、植物の花に寄って来て花粉や蜜を貪るものを総称する。だからコガネムシ科には人間の作物を好むもの、花を好むもの、カナブンのように樹液を好むもののように様々な食性を示している。ハナムグリというのは花にもぐる虫の意か。アオハナムグリ、キンイロハナムグリのようなチョウほどではないにせよ、色とりどりの翅が楽しい種が多い。外国産種の中にはゴライアスハナムグリのような10センチにもなり世界最重量を誇るへヴィー級の種も存在する。花だけでそれほど大きな身体を支えるに足る栄養が補給できるのだろうか。ただ、ハナムグリといっても、コガネムシ科で大まかに括られているせいなのか、必ずしも花蜜だけを採取しているものとは限らない。シラホシハナムグリやシロテンハナムグリは、ハナムグリと称されてはいるものの、クヌギなどの樹液に集まる。つまりはカナブンと同じ食性を持つ。しかも、姿も大きさもカナブンと同じである。前翅を閉ざしたまま後翅を拡げて、敵から身を守りながら飛ぶというカナブン得意の技まで同じである。頭の形が四角張っているのは、カナブンもハナムグリも同じなのだが、食性や繁殖場所まで似ているとなると、いよいよ区別がつきにくい。ハナムグリと呼ぶよりはカナブンに近いと、子供の頃から感じていたのは当時だけではないだろう。そう感じない多くの子供達は、これらをカナブンのヴァリエーションであると完全に認識していたようだ。つまりは図鑑にハナムグリと出ているだけで、実質的にはカナブンに思える。だが、一様にコガネムシ科であるので、「細かいことはどうでもいいじゃン」という感じで見過ごされている。
 更にこのシラホシハナムグリとシロテンハナムグリが似ているときている。前者が黒銅色であまりヴァリエーションが見られないのに対して、後者は緑、紫、褐色のメタリック調と個体差が大きい。紋の形、頭楯、前翅の突起など、比較すれば色々細かい部分に差異があり、明らかに違う遺伝子の持ち主であることがわかるのだが、飛んでいるところからは殆ど見分けがつかない。双子のような存在に思えてしまう。だが前述の体色の美しさ、ヴァリエーションなどから、シロテンハナムグリの方が僅かに認知度が高いように感じる。いや殆ど混同され易い種なので、シロテンハナムグリだけを認識していればシラホシハナムグリなど覚えなくてもいいような風潮がある。
 当時が住んでいる地方ではシロテンよりシラホシの方が個体数の面で僅かに優位であったようだ。カブトムシ、クワガタを狙った樹液スポットでも、カナブンと一緒に見かけるのはほとんどシラホシであったように記憶している。これらは体格や武装上では、カブトムシ、クワガタに到底拮抗は出来ず、夜行性であるカブトムシに対して昼行性である習性を活かして競合を避けて棲み分けしている。だから同じく昼行性である子供達とも遭遇する率が高い。シラホシの方が目にする機会が多かったせいか、どうしてもシロテンよりもシラホシの方に肩入れしたくなるのは人情だろうが、端からこの二種が拮抗しているというワケではない。
 シラホシの方が群れを成して集合性の行動を採ることが多いようである。レッドロビンというカナメモチとオオカナムモチの交配品種である若い葉が赤く生える生垣によく植えられる植物があるが、その木にたくさんのシラホシハナムグリが休んでいるのを見たことがある。幼虫は多くのコガネムシのように朽ちた葉、木などを食糧とし、成虫は樹液を好むから、レッドロビンには縁がないはずであるが、レッドロビンにはどこかシラホシハナムグリに好かれる要因があるのかもしれない。
 成虫は六月に羽化し、盛夏を葉陰などで休みながら暑さを凌ぎ、成虫のまま越冬して一年間を成虫のままで生き延びる。そしてまた六月に生殖、産卵して次世代に活動を譲る。幼虫が何年で成虫へと羽化するかは杜氏には不明だ。越冬可能であることからも、成虫としては長く生きる部類である。
 このように似ている昆虫(植物、動物)があると、その認知度が拮抗していても多少優勢なものだけに認識が傾いてしまう。よくいる競技者の双生児などでもそうだ。とはいえ、人間の場合、実力がほぼ拮抗していれば、どちらかが極度の不振でももう片方が活躍していればどことなく双方が元気でコンスタントに活躍しているように思えてしまう利点がある。昆虫の場合、明らかに別種なのであるから、それでは本当はいけないのであろう。世の双生児競技者達はその利点を大いに活用して、不調でも倦むことなく一方と拮抗しつつ切磋琢磨するべきであろうが。
 ただでさえ、「変わったカナブン」で済まされてしまう傾向があるシラホシハナムグリ。だがよく見れば、体色は渋みを帯び、ハナムグリの名を持ちながらカナブンの利点もちゃっかりと持ち、シロテンハナムグリとも差別化ポイントがあると言う味のある昆虫である。コガネムシよりも俊敏で機動性があり、厳しい日本の四季を生き抜く生命力も持ち合わせている。カナブンの名を冠しなかったために、カナブンに付き纏うマイナー感もない。
 東宝もそこまで細かい設定を施したとは思えないが、X星人は全員が水野久美の容姿をしていても、地球人の目にはそう映るだけで、実はX星人には個々に違いが認識されていたのかもしれない。よくわからないものは十派一絡げに括ってしまう傾向を、人間は持っている。決して昆虫に関心のない人でもカナブンとこれら二種のハナムグリの区別はつく。更によく見ればハナムグリ同士の見分けだって可能だ。こうした紛らわしいもの同士は、精査すれば似てはいてもユニークな種であることを人間に知らしめてくれる。



Winery 〜Field noteへ戻る