本 “トム・リプリー”シリーズ

『太陽がいっぱい』(The Talented Mr. Ripley)
『贋作』(Ripley Under Ground)
『アメリカの友人』(Ripley's Game)
『リプリーをまねた少年』(The Boy Who Followed Ripley)
『死者と踊るリプリー』(Ripley Under Water)




本 『太陽がいっぱい』(The Talented Mr. Ripley)

著者 パトリシア・ハイスミス   訳者 佐宗 鈴夫
河出書房新社


●ストーリー
 ある日、若者トム・リプリーは富豪グリーンリーフから、家を出ている息子ディッキーを連れ戻して欲しいと依頼される。自堕落なその日暮らしの生活を送っていたリプリーは、人生を変えるチャンスとして依頼を引き受け、イタリアへと向かう。ディッキーと出会ったリプリーは彼の奔放な生活に羨望を抱きながらも、次第に友情を深めていくが…。
●感 想
  パトリシア・ハイスミスの“トム・リプリー”シリーズ第1作。…といっても第2作が書かれるまで15年のブランクがあり、最初からシリーズ化を前提として書かれたわけではないようだ。自由に生きる若者ディッキー・グリーンリーフと交流する青年トム・リプリー。憧れ、嫉妬、友情、憎しみ、複雑な感情が入り交じる中、トム・リプリーは最初の殺人を犯す。ディッキーの死を隠蔽し、二役を演じて世間を騙すリプリーだったが…。サスペンス・ミステリーの名作だ。後のシリーズを通して何人も人を殺しているリプリーだが、ディッキーを殺したことだけは後悔している記述がある。映画『太陽がいっぱい』のラストシーンが超有名であるが、原作はシリーズ化されていることから分かるように、映画とは違うラストになっている。


映画 『太陽がいっぱい』(Plein Soleil)

製作年度 1960年  製作国 フランス/イタリア  上映時間 122分
監督 ルネ・クレマン
製作 ロベール・アキム
製作総指揮 モーガン・フリーマン 、マーティ・ホーンスタイン
脚本 ポール・ジェゴフ 、ルネ・クレマン
音楽 ニーノ・ロータ
出演 アラン・ドロン 、マリー・ラフォレ 、モーリス・ロネ 、エルヴィーレ・ポペスコ


●感 想
  ルネ・クレマン監督の映画『太陽がいっぱい』は、映画史に名を残す名作。哀愁を感じさせるニーノ・ロータのテーマ曲は素晴らしい。トム役アラン・ドロンの美男子ぶりが強烈。美形だが危なさを感じさせる表情がイイ。マルジュ役のマリー・ラフォレも美しい。トムがフィリップを殺害した後、突如荒波にもまれるボートがサスペンスを盛り上げる。サインの真似を練習する場面なども印象的。全て手にしたトム、何もかもが上手くいくかと思われたその時…。「太陽がいっぱいだ」という台詞と蒼い海は忘れられない。あの有名すぎるラストは原作にはない映画オリジナルのもの。原作を昇華させた無駄のない脚本はお見事。


映画 『リプリー』(The Talented Mr. Ripley)

製作年度 1999年  製作国 アメリカ  上映時間 140分
監督 アンソニー・ミンゲラ
製作 ウィリアム・ホーバーグ 、トム・スターンバーグ
脚本 アンソニー・ミンゲラ
音楽 ガブリエル・ヤーレ
出演 マット・デイモン 、ジュード・ロウ 、グウィネス・パルトロー 、ケイト・ブランシェット 、 フィリップ・シーモア・ホフマン


●感 想
  アンソニー・ミンゲラ監督の映画『リプリー』、あの名作『太陽がいっぱい』のリメイクだと思って観ると、「イメージが違う」などと不満を持つ人がいるかもしれない。しかしこの作品は“パトリシア・ハイスミスの原作の二度目の映画化”と考えた方がいいだろう。プロットとしてはこちらの方が原作に忠実な仕上がりになっている(映画としての完成度は敵わないが…)。ジュード・ロウ演じるディッキーをジャズ好きに設定したり(原作では絵画好き)と、原作からの変更点もあるが、なかなか効果的だったと思う。マット・デイモンも複雑な感情を持つリプリー役に結構ハマっている。同性愛的要素が若干強調されている印象。この映画もラストが原作とは少し異なっている。『太陽がいっぱい』の名ラストシーンには到底及ばないが、含みを持たせた『リプリー』版ラストも、なかなか味がある。



本 『贋作』(Ripley Under Ground)

著者 パトリシア・ハイスミス   訳者 上田 公子
河出書房新社


●ストーリー
 富豪の娘エロイーズと結婚し、何不自由なく暮らしているトム・リプリー。しかし彼が裏で関わっている画廊「ダーワット商会」に疑いを持つ人物が現れる。以前ダーワットの絵を購入した男マーチソンが、それを贋作ではないかと言い出したのだ。実はリプリーたちは5年前に死んだ画家ダーワットを生きていると見せかけ、贋作事業を続けていたのだ…。
●感 想
  パトリシア・ハイスミスの“トム・リプリー”シリーズ第2作。前作が書かれてから15年が経過しての続編。映画『太陽がいっぱい』とは違って、原作では警察の追及から逃げ切ったリプリー。金持ちの女と結婚し、家政婦までいる邸宅で優雅に暮らしております。しかし贋作事業が発覚しそうになってかなりピンチ。また殺人をやらかしてしまい、後始末で苦労するハメに。贋作事業の秘密と殺人を隠蔽することはできるのか?リプリーにダーワットの贋作をさせられ苦悩する画家バーナード・タフツの顛末が切ない。


映画 『Ripley Under Ground』

製作年度 2005年  製作国  アメリカ/ドイツ/イギリス  上映時間 100分
監督 ロジャー・スポティスウッド
脚本 ウィリアム・ブレイク・ヘロン
音楽 トレヴァー・ラビン
出演 バリー・ペッパー 、ジャシンダ・バレット 、トム・ウィルキンソン 、ウィレム・デフォー 、アラン・カミング


●感 想
  バリー・ペッパーがリプリー役。日本未公開。私は未見。



本 『アメリカの友人』(Ripley's Game)

著者 パトリシア・ハイスミス   訳者 佐宗 鈴夫
河出書房新社


●ストーリー
 “ダーワット事件”から6ケ月後。リプリーは知り合いの盗品故買人から、殺しを引き受けられる人間を探して欲しいと頼まれる。白血病を患っている額縁職人ジョナサンに目を付けるリプリーだったが…。
●感 想
  パトリシア・ハイスミスの“トム・リプリー”シリーズ第3作。前2作での殺人は衝動的、もしくは成り行き上仕方なく、という感じだったが、今回は最初から計画的な殺人に荷担。リプリーは客観的に見るとかなりひどいことやっているのだが…なぜか憎めない。不幸なジョナサンを殺人に巻き込み、そして次には助けようとする。プロの犯罪者ではないのに悪事に手を染める、リプリーの複雑なキャラクターが魅力。“友情”が原因で厄介事に巻き込まれるタイプか?リプリーに関わってしまった額縁職人ジョナサンの運命は…?


映画 『アメリカの友人』(Amerikanische Freund, Der)

製作年度 1977年  製作国 西ドイツ/フランス  上映時間 126分
監督 ヴィム・ヴェンダース
脚本 ヴィム・ヴェンダース
音楽 ユルゲン・クニーパー
出演 デニス・ホッパー 、ブルーノ・ガンツ 、ジェラール・ブラン 、ダニエル・シュミット 、ニコラス・レイ


●感 想
  ヴィム・ヴェンダース監督の映画版は原作の内容に結構忠実(原作第2作『贋作』のエピソードもほんの少しだけ入っているが)。家族思いの額縁職人ヨナタンの人生を狂わせる“アメリカの友人”トム・リプリー。悲哀漂う犯罪ものに仕上がっている。原作の後半部分を少しはしょっていてラストも若干違うが、映画版もなかなか面白かった。カウボーイハットを被ったデニス・ホッパー演じるリプリー、アラン・ドロンやマット・デイモンのリプリーよりも渋くてワルそうだ(笑)


映画 『Ripley's Game』

製作年度 2002年  製作国  アメリカ/イタリア/イギリス  上映時間 110分
監督 リリアーナ・カヴァーニ
脚本 リリアーナ・カヴァーニ
出演 ジョン・マルコヴィッチ 、レイ・ウィンストン 、ハンス・ジシュラー 、パオロ・パオローニ


●感 想
  ジョン・マルコヴィッチがリプリー役。日本未公開。私は未見。


本 『リプリーをまねた少年』(The Boy Who Followed Ripley)

著者 パトリシア・ハイスミス   訳者 佐宗 鈴夫
河出書房新社


●ストーリー
 ある日トム・リプリーは、アメリカからやって来た少年と知り合う。少年は働きながら旅をしているという。しかしトムは数週間前に読んだ新聞記事を思い出す。アメリカの富豪ピアーソンが私有地の崖から落ちて死亡、その直後、息子のフランク・ピアーソンが失踪しているのだ。トムは少年がフランク本人ではないかと疑うが…。
●感 想
  “トム・リプリー”シリーズ第4作。プロの犯罪者」という感じではないし、根っからの悪人というわけでもない、でも犯罪行為に関わっているトム・リプリー。ちょっと他に似たようなキャラクターが思い浮かばない特異な主人公。何人も殺してるのに警察には捕まらず、金持ちの美人と結婚して優雅な暮らし…でも何故か憎めない。毎回「友情」が元になってトラブルに巻き込まれるリプリー。今回は家出少年(?)の面倒を見ることに。罪悪感から少年が自滅するのを防ごうと、親身になって相談に乗るが…。自分の保身の為には人を殺すことも躊躇わないのに、こういうところでは親切だな。トム・リプリーと少年の交流が哀愁たっぷりに描かれ、ミステリー的な面白さは少ないが、不思議な魅力を持つ作品。リプリーにあこがれた少年の決断は…?


本 『死者と踊るリプリー』(Ripley Under Water)

著者 パトリシア・ハイスミス   訳者 佐宗 鈴夫
河出書房新社


●ストーリー
 最近は平穏な暮らしを送っていたトム・リプリー。しかしその静けさは、近所に越してきたデイヴィッドとジャニスのプリッチャード夫妻によって破られる。デイヴィッドは執拗にリプリーの周囲を詮索し、嫌がらせのような行為を仕掛けてくる。彼等は数年前の“ダーワット事件”について、何か嗅ぎ付けたのか…?
●感 想
  パトリシア・ハイスミスの“トム・リプリー”シリーズ第5作。最終作。ストーリー的には第2作『贋作』(Ripley Under Ground)の続編的な内容で、原題も対になっている。『贋作』で困った事態に陥ったリプリー、上手く乗り切ったはずなのに…今頃それをほじくり返す奴が現れてちょっとピンチ。正体の分からない相手にイラつく展開。人を殺して警察から疑いをかけられても、何故か上手く切り抜けてしまうリプリー。頭がいいとか策略家というより、「運の良さ」に助けられることが多い印象。今回も最後は運の良さ「だけ」で切り抜けてしまったみたいで、少々物足りない。お前もっと苦労しろよ(笑)。正体不明で不気味なプリッチャードも、結局最後まで何がしたいのか分からなくて肩すかし。嫌がらせがしたかったのかリプリーに正義の裁きを受けさせたかったのか…。まあ、この辺、普通のミステリーとは異なるハイスミスらしい味わいではある。

2007/03/12



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