本 『影なき狙撃者』(The Manchurian Candidate)

著者 リチャード・コンドン    訳者 佐和 誠
出版社: 早川書房


●ストーリー
  レイモンド・ショウ陸軍軍曹は朝鮮戦争での勇敢な行動により名誉勲章を受章、英雄となった。彼の母親エレノアは、再婚相手のジョニー・アイズリン上院議員の政治活動に、息子を利用しようと画策する。一方、レイモンドの軍隊時代の上官ベン・マーコ大尉は悪夢に苦しんでいた。朝鮮戦争時代の、ありえないはずの記憶が蘇ってくるのだ。マーコはレイモンドが謎を解く鍵だと信じるが…。
●感 想
  リチャード・コンドンの原作『影なき狙撃者』、朝鮮戦争を背景に洗脳と暗殺をネタにした骨太なサスペンス。原題「満州人の候補者(The Manchurian Candidate)」の通り、共産党の陰謀による大統領候補者操作が描かれる。ケネディ暗殺前に書かれたという点も評価を高めているようだ。レイモンド・ショウやその家族の生い立ちなどが細かく語られる前半部分が少々ダルいかも。後半は、陰謀に気付いたベン・マーコが政府機関と共に捜査を開始。果たして黒幕の目的は…?私は後発の似たようなジャンルの作品を色々読んでしまっている為か、サスペンスの盛り上げ方等少々物足りなく感じてしまったが…。1959年の発表当時はかなりインパクトのある内容だったと思われる。



映画 『影なき狙撃者』(The Manchurian Candidate)

別邦題:『失われた時を求めて』

製作年度 1962年  製作国 アメリカ  上映時間 126分
監督 ジョン・フランケンハイマー
製作 ジョン・フランケンハイマー 、ジョージ・アクセルロッド
脚本 ジョージ・アクセルロッド
音楽 デヴィッド・アムラム
出演 フランク・シナトラ 、ローレンス・ハーヴェイ 、ジャネット・リー 、ヘンリー・シルヴァ 、アンジェラ・ランズベリー


●感 想
  【ネタバレあり】 ジョン・フランケンハイマー監督の映画版、かなり原作に忠実な映像化。洗脳の恐怖を描く骨太なサスペンスに仕上がっている。朝鮮戦争の英雄レイモンドに仕掛けられた陰謀。悪夢場面で回想される「園芸クラブ」の場面が印象的。園芸クラブに集まったおばさん達の前に座らされている米兵たち。実は中国人やソ連軍部の見守る洗脳公開実験。のどかなおばさんの集まりが軍関係者に切り替わる演出がシュール。主人公マーコ大尉役にフランク・シナトラ。暗殺者にされるマーコの部下・レイモンド役のローレンス・ハーベイは存在感ある演技を見せている。レイモンドの母役はアンジェラ・ランズベリー。貫禄ある憎まれ役を演じている。

  全編かなり原作に忠実な映像化だが、ラスト近くは少々変更あり。暗殺者レイモンドが、大統領候補ではなく事件の黒幕を撃ち、陰謀が阻止されるのは原作通り。原作ではマーコ大尉が洗脳システムを逆利用、レイモンドに黒幕を殺害して自害するよう指示していたというオチ。逮捕されるより英雄のまま死なせてやりたいという大尉なりの部下への友情・思いやりではあるのだが…。映画のマーコ大尉はレイモンドの洗脳を解いている。しかしレイモンドは行方をくらまし、党大会会場で黒幕を狙撃、駆け付けたマーコ大尉の目の前で自害してしまう。レイモンドが自分の意志で落とし前をつけた形の映画版も、なかなか良いラストだと思う。




映画 『クライシス・オブ・アメリカ』(The Manchurian Candidate)

製作年度 2004年 製作国 アメリカ/メキシコ 上映時間 130分
監督 ジョナサン・デミ
製作 ジョナサン・デミ 、イロナ・ハーツバーグ 、スコット・ルーディン 、ティナ・シナトラ
製作総指揮 スコット・アヴァーサノ
脚本 ダニエル・パイン 、ディーン・ジョーガリス
音楽 レイチェル・ポートマン 、ワイクリフ・ジョン
出演 デンゼル・ワシントン 、メリル・ストリープ 、リーヴ・シュレイバー 、ジェフリー・ライト 、キンバリー・エリス


●感 想
  【ネタバレあり】 ジョナサン・デミ監督の『クライシス・オブ・アメリカ』、設定を今風にリファインし、現代に通じるサスペンス・スリラーに仕上げている。マーコ大尉役はデンゼル・ワシントン。ある疑念に取り付かれて憔悴しながらも真実を追う男を熱演。レイモンド役はリーヴ・シュレイバー。レイモンドの母役はメリル・ストリープ。さすがに貫禄充分、ハマリすぎでコワイです。原作ではマーコの推理は早い段階から政府関係者に信用され、政府バックアップの元に捜査が開始されるが、映画ではなかなか信用されない焦燥感がサスペンスを盛り上げる。「埋め込まれた小型マイクロチップ」などという存在も胡散臭さを強調し、観客にもマーコが正しいのか彼の妄想なのか判断がつきにくい演出。

  その他原作との違いについて。原作は朝鮮戦争終結直後だが、映画版は湾岸戦争に変更。悪夢に悩む主人公の症状が「湾岸戦争症候群」扱いされたりする。極東及びソ連共産党の陰謀…というネタも古臭い為か、「巨大企業の陰謀」へ。黒幕である企業名が「マンチュリアン・グローバル」で、「The Manchurian Candidate」という原題はそのまま使用。マーコをバックアップする政府機関は軍からFBIへ。洗脳キーワードはトランプのソリティアから、暗号ミドルネームでの呼びかけに変更。そしてクライマックス。原作ではレイモンドが狙撃者であるが、映画ではマーコ大尉が操られて狙撃手に。レイモンドが自分の意志で決着を付ける形になるのは旧作映画と同じ。中盤若干ダレる感じだが、上手く現代へ置き換えることに成功している。




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