本 『暗闇のスキャナー』(A Scanner Darkly)

著者 フィリップ・K・ディック

『暗闇のスキャナー』
訳者 山形浩生  出版社 東京創元社

『スキャナー・ダークリー』
訳者 浅倉久志  出版社 早川書房


●ストーリー
  オレンジ郡保安官事務所に所属する麻薬囮捜査官“フレッド”。彼はジャンキーの“ボブ・アークター”として、ヤク中の仲間たち同居し、合成麻薬「物質D」の出所を探っていた。囮査官はその正体を隠す為スクランブル・スーツと呼ばれる特殊迷彩服を着用、フレッドの上司ハンクでさえ彼の本当の姿は知らない。ある日、フレッドは売人容疑者であるボブ・アークターの監視を命令される…。
●感 想
  フィリップ・K・ディックの代表作のひとつとされている作品。ディック自身ドラッグにハマってしまった経験を持つだけに、ドラッグによる妄想描写には妙にリアル。ジャンキー仲間の日常生活がゆるゆると描写され、グダグダな思考や支離滅裂な行動など、読んでいるこっちがトリップさせられそうになる。SF的な小道具はほとんど登場しないが、麻薬捜査官は“スクランブル・スーツ”(姿を分からなくする一種の迷彩服)を着用しているという設定で、捜査官仲間でさえお互いの正体を知らないというのがミソ。他に重要なアイテムは“ホロ・スキャナー”。まあ、監視カメラですな。
  中盤から始まるホロ・スキャナーを使用しての監視任務。捜査官であるフレッドが、自分自身である容疑者ボブ・アークターを監視するハメになる不条理が愉快。次第にボブ・アークターの行動に疑念を持つようになるフレッド。奴は怪しい。一体何を考えてる?そして監視者フレッドの存在に不安にかられるボブ・アークター。奴らは何を見張っている?スキャナーはおぼろげな闇の中から何を覗いているのか?人格が分離し、徐々に狂気めいた思考の迷路に陥るアークター=フレッド。確かだった世界が不安定に崩れていく感覚が素晴らしい。



映画 『スキャナー・ダークリー』(A Scanner Darkly)

製作年度 2006年  製作国 アメリカ  上映時間 100分
監督 リチャード・リンクレイター
製作 アン・ウォーカー=マクベイ 、トミー・パロッタ 、パーマー・ウェスト 、ジョナ・スミス 、アーウィン・ストフ
製作総指揮 ジョージ・クルーニー 、ジョン・スロス 、スティーヴン・ソダーバーグ 、ベン・コスグローヴ 、ジェニファー・フォックス
脚本 リチャード・リンクレイター
音楽 グレアム・レイノルズ
出演 キアヌ・リーヴス 、ロバート・ダウニー・Jr 、ウディ・ハレルソン 、ウィノナ・ライダー 、ロリー・コクレイン


●感 想
  リチャード・リンクレイター監督の映画版、ディックの原作にかなり忠実に映像化。ジャンキーの妄想気味な日常生活をゆるゆると描き、その中で活動する囮捜査官が徐々に現実を見失ってゆく…。『ウェイキング・ライフ』でも使ったロトスコープ手法は、現実と妄想の区別が曖昧なこの作品には実にマッチしている。アニメーションのフィルターをかけることにより、非現実感が強調される感じ。原作同様、全編を包むジャンキーのグダグダ感というか、妄想入った自堕落な会話は、聞いているこっちが頭痛くなりそうだ(笑)。冒頭の「虫」が湧く妄想場面は、映像で見るとキモイなあ。
  キアヌ・リーヴスのヤク中演技は、もう少しボロボロな感じでもよかったかな。この映画、資金難で企画が頓挫しそうなところを、自分が出演することを条件にキアヌが資金調達交渉したとか。キアヌ良い奴だ。ロバート・ダウニーJr.、ウッディ・ハレルソン、ウィノナ・ライダーなど、くせ者揃いのキャストもナイス。映像処理では「スクランブル・スーツ」の表現が面白い。原作の最後、悲惨な末路を辿ったディックのジャンキー友達の名前が列挙されているのだが、映画でもそのままクレジットされている。とにかく製作者の原作に対する愛・こだわりが感じられ、逆に娯楽SF系を期待する観客には向かない内容。もちろんディック・ファンは必見。

2007/03/21




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