ある午後の悪ふざけ

 


 

「ねぇ玄、ちょっと玄の匂い嗅がせてもらってもいい?」

と、放課後の部室で憧が言った。

たった今部室に来たばかりの玄は、鞄を持ったまま固まる。

そして少しの間を置いて聞き返す。

「…え?ど、どういう事かな…?」

玄は、明らかに引いていた。

その反応を見て、憧は慌てて取り繕う。

「え……あ…ち、違くてっ、変な意味じゃなくて!」

「そ、そうなの…?」

玄はその場から一歩後ずさる。

それは憧から距離を取ろうとしているようにも見えた。

憧は与えてしまった誤解を解く為、玄に説明を試みる。

「えっと…しずってさ、すごく良い匂いがするんだよね…」

「うん…」

「それでね、他の子もしずみたいに良い匂いなのかなぁって気になって…」

「え……」

「それで、玄の匂いとか、嗅いでみたいなぁ…って…。ダメかな…」

「………っ」

玄は驚愕した。

なんと、初めから何一つ誤解はなかったのだ。

憧の発言の真意は、玄の最初の印象通りだった。

玄はもう一歩後ずさる。

そのやり取りを傍らで見ていた灼が呟く。

「玄が引くってよっぽどだよね…」

 

まさかこんなに引かれるとは思っていなかった憧は、少なからずショックを受ける。

普段から女性の胸に執着する玄にならば、ある程度理解してもらえると思っていた。

だが、ここまで言ってしまったからには今さら発言をなかった事には出来なかった。

意を決して、もう一度玄にお願いをする。

「こんな事、玄にしか頼めないし…ダ、ダメかな…?嫌ならいいんだけど…」

「う、……ま、まぁ…い、いいけど…」

「ほんと!?」

しおらしくお願いする憧に、思わず頷いてしまう玄。

それを見て、灼が呆れたように呟く。

「いいんだ…」

 

憧は玄を自分の隣に座らせる。

「じゃあ、さっそく…」

「ひぅ…」

怯えるように体を竦ませる玄。

涙目で憧を見つめている。

承諾したものの、やはり匂いを嗅がれるというのは凄まじく抵抗があるものだった。

そんな玄の肩に手をやり、憧はゆっくりと顔を近づける。

と、そこでふと何かを思い出したように、顔を灼に向けた。

そしてとても軽い調子で、なんでもない事のように、灼に言った。

「灼さんも後で願いね〜」

「えっ?……あ、え、ちょ…」

ただの傍観者として、玄に同情すらしていた灼だったが、その考えは甘かった。

この場に居合わせてしまった時点で、被害者の一人になる事はあらかじめ決められていたのだ。

憧は灼の返答も待たず、再び意識を玄に向ける。

「じゃあ…玄、いくよ」

「う、うん……」

憧は玄の首筋に鼻先を近づける。

「クンクン…スーハー…」

「ふぇぇぇ…」

最初は控えめに、首筋の匂いを嗅ぐ。

鼻腔をくすぐる匂いはとても甘く、それだけで頭がクラクラした。

たったそれだけでリミッターが外れた憧は、徐々に大胆になっていく。

玄のシャツのボタンを一つ外し、シャツの中を覗き込むようにして匂いを嗅ぐ。

シャツの中からふわっと漂ってくる玄の匂い。

それは体温によって暖められていた分、首筋の匂いより数倍濃厚だった。

直接脳を揺さぶられるような感覚。

気付くと憧は服の中にまで鼻先を潜り込ませ、

必死に玄の匂いを吸い込んでいた。

 

「なるほど…うん…、じゃあ、ちょっと手上げて」

「え……う、うん…?」

数分間匂いを堪能した後で、憧は玄の腕を掴み、頭の上にあげさせた。

そしてその腕の付け根、つまり腋の下に鼻を近づけようとする。

その行動の意味にようやく気付いた玄は慌てて腕を下ろした。

「え!腋の下も!?」

「え?うん、ダメ?」

友人の腋の下の匂いを嗅ぐ、などという変態じみた行為をしようとする憧に、驚きを隠せない玄。

だが、あまりにも普通にお願いしてくる憧に、玄はなぜか自分が悪いかのような錯覚に陥ってしまう。

「う〜…す、少しだけだよ…?」

「うん」

玄のまさかの承諾に、灼は呆れて言う。

「いいんだ…」

しかし今度の呟きは、すぐに灼自身に暗い影を落とした。

この後の自分の末路を思い、灼は絶望的な気分になった。

 

 

部室という密室で行われる凌辱行為。

それは一向に終わる気配を見せなかった。

「スーハー、スーハー…」

「うぅ…」

制服越しとは言え、腋の匂いを嗅がれるという、

人生初の経験に戸惑いと羞恥を隠せない玄。

絞り出すように、抗議の呻き声を上げるのが精一杯だった。

「う……うぅぅ…」

「スーハー、クンクン…はぁ…」

「恥ずかしいよぉ…」

あまりの恥ずかしさに、玄の瞳に涙が浮かぶ。

そんな玄に、憧は慰めるように優しく囁く。

「大丈夫だよ、すごくいい匂いだから」

「本当……?」

「ずっと嗅いでたいくらい」

「……うぅ…」

その言葉で、玄の心は幾らか楽になった。

それでも、羞恥心は消える事なく、逆に後悔が強く湧き上がる。

なぜ承諾してしまったのか。なぜ拒否しなかったのか。

拒めない理由など何一つとしてなかったのに。

これほどまでに恥ずかしい思いをするのは、生まれて初めてだった。

そもそも今はピークは過ぎ去ったとは言え、夏である。

何もなくても汗の匂いには気を付けなくてはいけない季節だ。

それなのに、まさかこのように直接匂いを嗅がれる事になろうとは。

理不尽さを呪いながら、玄はただ時間が過ぎるのを待つしかなかった。

 

「でも、やっぱりしずの方が良い匂いなんだよなぁ…なんでだろう…」

時折、誰に言うでもなく感想を呟く憧。

髪の毛や首筋、胸の谷間、おへそと、上半身を中心に匂いを嗅いでいく。

その行為が開始から20分を過ぎようとした頃には、

玄のシャツは、ほとんどのボタンが外されていた。

だが、玄の中では素肌が見えてしまっている事よりも遥かに、匂いを嗅がれる羞恥が勝っていた。

つまり、このまま服を脱がされたとしても、玄に抵抗する意思はなかった。

もっと言えば、匂いを嗅ぐのをやめてもらえるなら、服を全て脱いでもいいとさえ思っていた。

そんな玄の気持ちなどお構いなしに、憧は凌辱を続ける。

そして憧は、玄の太ももに手をかけ、足をほんの少し開かせた。

玄はその行動を敏感に察知し、足を固く閉じた。

そして恐る恐る、尋ねる。

「え……ま、まさか…憧ちゃん…こんな所、嗅がないよね…?」

「……………」

その問いに、なぜか無言を貫く憧。

玄は自分の血の気が引いていく音を聞いた。

まさか自分の友人がそこまでの変態行為を行おうとしているというのか。

そう考えた瞬間、目の前が真っ暗になる。

まさに"絶望"と呼ぶに相応しい感情だった。

玄はその沈黙に耐え切れなくなり、再度呼びかける。

それは、どうか何かの間違いであって欲しいという、切実な願いそのものであった。

「あ……憧…ちゃん…?」

「……当たり前でしょー。私をなんだと思ってるのよ、そこまでしないわよー」

笑顔で答える憧。

その言葉と表情に、心から安堵する玄。

だが憧は、玄が拒まなければ、両足の付け根まで侵入するつもりでいた。

間一髪の所で難を逃れた玄。

目的を達成出来なかった憧は、心の中で舌打ちをした。

 

 

一通り匂いを嗅ぎ終わり、憧はようやく玄から離れた。

「ん、ありがとう、玄」

「う、うん……ありがとう…」

なぜかお礼を言う玄。

強張らせ続けた玄の体から、力が抜けていく。

悪夢のような時間はようやく終わりを告げた。

そしてそれは、次なる被害者にとっての、悪夢の始まりだった。

憧は振り返り、灼に話しかける。

「じゃあ次、灼さん……」

だが、そこには灼の姿はなかった。

憧は玄に尋ねる。

「あれ?灼さんは?」

「…え?」

だが玄も灼の行方に心当たりはなかった。

憧は部室のドアを見る。

施錠していたはずのドアは、鍵が開けられていた。

そして灼の荷物はどこにもなかった。

「…しまった!逃げられた!玄、追うわよ!」

「え……う、うん…」

 

 

30分ほど続いた追いかけっこの末、憧と玄は灼を捕獲した。

「やっと捕まえた…!観念しなさい!」

灼を部室まで連行する。

息を切らしながら、なんとか逃れようと言い訳を探す灼。

「い、今走って汗かいたから無理…」

だがその説明は憧には逆効果だった。

「うん。汗とか、丁度いいよね」

「な…っ」

悪魔のような笑顔で告げる憧。

それは、灼にとって死刑宣告にも等しかった。

 

部室に戻り、憧は部室に鍵をかける。

灼をソファに座らせ、にじり寄る。

「じゃあいくよ…」

「ひぃぃぃ…」

玄の時と同様、まずは首筋の匂いを嗅ぐ。

「スーハー」

「う…ぅ…」

目をギュッと閉じ、羞恥に耐えながら匂いを嗅がれる灼。

走った後で、しっとりと汗をかいた灼だったが、不快な匂いなどは全くなかった。

その事に密かに感動し、我を忘れ、匂いを嗅ぎ続ける憧。

ひとしきり匂いを嗅いだ後、率直な感想を漏らす。

「すごい…甘い匂いがする」

「……い、言わなくていいから…」

そして憧は玄に促す。

「ほら、すごいよ。玄も嗅いでみたら?」

「えっ」

憧の提案に、灼が驚きの声を上げる。

まさかの二人がかりだ。

玄は憧の言葉に逆らう事もなく、灼に近づく。

そして憧と同じように、灼の首筋に顔を近づけた。

「クンクン…」

「ふぇぇ…」

同い年であり、クラスメイトであり、幼馴染である玄に匂いを嗅がれるというのは、

憧にそうされるのとは若干違った恥ずかしさがあった。

数度、控えめに灼の匂いを吸い込んだ玄が言う。

「あ、本当だー。甘い匂いするね」

「うぅ…や、やめ…て…」

その言葉は二人の耳には届かなかった。

 

それから二人は灼の匂いを貪るように嗅いだ。

玄にしたのと同じように、全身くまなく、上から下へ。

「やっぱり、微妙に玄とは違う匂いがするよね」

「そうなんだぁ…」

「でもどっちも良い匂いだなぁ…」

「あ、あははは…」

なんと答えていいか分からない玄は、乾いた笑いで濁す。

そして、憧が灼の腕を掴む。

「じゃあ、灼さん、バンザイして?」

「うぅ〜…」

玄と違い半袖のシャツを着ている灼。

憧は袖口を指で広げ、シャツの中を覗き込む。

そこから漂ってくる匂いを肺一杯に吸い込んだ。

それから袖を捲り、腋の下を直接嗅ぎ始めた。

玄もそれに倣い、同じように匂いを嗅ぐ。

「うぅぅぅ…」

玄が若干息を荒くして、呟く。

「ぁ……なんかこれ…ハァハァ……変な気分になっちゃうね…」

「え……」

そして信じられない行動にでる。

「灼ちゃん可愛い…チュッ…」

「ひぅ…っ、玄…腋の下舐めないで…」

それを見た憧も、反対側の腋に口をつける。

「灼さん、いい匂い…チュッ…」

灼は弱々しく抗議する。

「あ、憧ちゃんも…やめ…そんなとこ…汚いよ…」

「汚くなんてないよ、ねぇ玄?」

「うん、すごくいい匂いだよ〜」

「ひぃぃぃ…」

 

 

腋の匂いを嗅ぎつつ、憧は灼の太ももを撫でていた。

だが匂いを嗅がれるのに手一杯な灼は気付いていなかった。

先ほどは失敗に終わった憧は慎重に事を進める。

手を少しずつ奥に進めていく。

そして、やがて一番奥、灼の下着にまで到達した。

そこで初めて灼は触られている事に気付く。

「んっ…」

憧の指先が触れたそこは、若干の湿り気を帯びていた。

「やっ…あ、憧ちゃ…ダメ…」

「ん〜?何が〜?」

わざとらしく聞き返す憧。

指先でピンポイントに擦る。

「んっ」

布地越しに、少し固くなった膨らみを刺激する。

やがて奥から染み出てきた液体が、憧の指を汚していく。

「あっ、やっ…ん、ダ、ダメっ…あっ、憧ちゃ…っ」

「ん〜?何がダメなの〜?」

可愛らしく喘ぐ灼を見て、憧は気持ちの昂りを抑えられなくなる。

そしてもっと灼を感じさせるべく、下着の中に指を入れようとする憧。

だが、玄がそれを制止する。

「あ、憧ちゃん…それ以上はダメだよ…赤土先生にも悪いし…」

「そ……そう…だよね…」

玄にそう言われ、憧は我に返り、指の動きを止めた。

それと同時に灼の声も止まる。

「ご、ごめんね、灼さん」

「はー…はー…」

肩で息をしながら、灼はぼんやりと考える。

「(やめちゃうの…?)」

中途半端な所で、しかもあと少しという所で止められてしまった灼は、

行き場を失くした昂りをどう扱えば分からなくなってしまった。

羞恥心のタガも外れかかった灼は、無意識のうちに手がスカートの中に伸びていた。

そして憧と玄に見つからないように、さっきまで憧が触っていた場所を擦る。

人前でその行為に及んでしまうほど、灼は理性を失っていた。

「ん……ふっ…ぁ…」

その声で、二人とも灼が何をしているのかすぐに分かった。

憧と玄は一瞬目を合わせ、そしてすぐに逸らした。

悪ふざけで灼にここまでさせてしまった罪悪感でいたたまれなくなる。

「灼さん…」

憧は灼をそっと抱きしめる。そして耳元で囁く。

「ごめんね、我慢できなくなっちゃったの?」

「だ…だって…」

「ごめんね…続き、してもいい…?」

一瞬の躊躇の後、灼は耳まで赤くして憧の言葉に頷く。

憧は灼を抱きしめたまま、再びスカートの中に手を入れた。

それを見て、玄は静かに部室から出て行った。

 

 

15分後―

憧は灼の乱れた着衣を直す。

灼は放心したまま、ソファにもたれ掛っていた。

憧がボタンを全て止め、下着を履かせたところで玄が戻ってきた。

「も、もう…大丈夫…?」

「うん、いいよ」

顔を若干赤くしながら入ってきた玄に、憧は小声で話かける。

「ねぇ玄、外に声聞こえてなかった?」

「うん、大丈夫だったよ」

「そっか、良かった…」

「え、そんなに声出してた…?」

「うん、意外と…」

「そっかー」

その会話を聞いて、我に返る灼。

そして、二人の話を遮るように間に割って入る。

「あ、あの…!」

「な、なに?」

「えっと…ハルちゃんには…その…内緒にしててほし…」

「うん、分かってるよ〜。3人だけの秘密ね?」

「それにこんな事誰にも言えないしねー」

玄と憧の言葉に、安堵の表情を浮かべる灼。

そして顔を真っ赤にしてお礼を言う。

「う、うん…ありがと…」

その言葉に、二人はただただ申し訳なさを感じるしかなかった。

 

 

そして憧は立ち上がる。

すっかり日も暮れかけた窓の外を眺め、清々しい笑顔を見せた。

「んー、今日はいい部活だったー」

そんな憧の手を取り、玄が言う。

「じゃあ、次は憧ちゃんの番だね」

「ん?」

その言葉の意味を測りかねる憧。

そんな憧に、玄は笑顔で憧に告げる。

「憧ちゃんの匂い、嗅がせて?」

「え……?」

それは憧にとって、全く予期せぬ反撃だった。

事態を把握した憧は、我に返り拒否する。

「え……い、いや、む、無理無理無理無理…っ」

だが玄は、それを聞き入れるつもりは毛頭なかった。

「はい、そこ座って?ね?」

「え、いや、だから…っ」

「座ってね?」

「さ、さっき走って汗かいたから…」

「うん、そうだね?」

「(やばい、目が笑ってない…)」

玄が憧をソファに座らせ、灼が腕を掴み逃亡を防ぐ。

 

そして二人は、憧にされた凌辱を、

何倍もの時間をかけて行った。

 


 

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