セーラの謎と、名探偵怜ちゃん

 


 

「おぉ〜」

「おー」

怜と竜華が部室で感嘆の声を上げた。

二人の目の前には、ソファで居眠りをするセーラがいた。

それは、ただのセーラではなかった。

セーラはなんと制服を着ていて、つまり、スカートだった。

「珍しい、スカート履いてるなぁ」

「どないしたんやろな」

セーラがスカートを履くのは、試合の時だけだ。

しかも試合直前に着替え、試合終了後すぐに着替える。

自分から進んでスカートを履く事はまずない。

そのセーラが、スカートを履いて昼寝をしていた。

「レアや」

「レアキャラやな」

「写真撮っとく?」

「ええな」

怜と竜華は携帯で写真を2、3枚撮る。

セーラはシャッター音にも気付かず、豪快に眠っていた。

 

部室にはまだ誰も来ていなかった。

セーラと怜と竜華の3人だけだ。

元々、今日は部活は休みだった。

だが、インターハイまであと1カ月に迫っているため、

レギュラーだけで集まって特打ちをしようという話になっていたのだ。

なので、間もなく浩子と泉も部室にやってくるだろう。

 

セーラの寝姿を見ながら、怜が竜華に尋ねる。

「これは、いたずらせんとあかんのかな?」

「なんでやねん。怒られんで」

「でも、逆にいたずらせーへんと失礼なんとちゃう?逆に」

そう言われ、竜華がしばし考える。

そして、神妙な面持ちで答える。

「……せやな。逆に、失礼やな。逆に」

「うん、逆にな」

どういう経緯でそういう結論に至ったのかは分からないが、

二人の中ではいたずらをするという事に決定したらしい。

怜はセーラを起こさないようにそっとスカートをつまむ。

そしてゆっくりとスカートをめくった。

「え…!?」

「んなっ…」

二人は同時に驚きの声を上げる。

その声は、スカートの中身に対してだった。

なんと、セーラは下着を着けていなかった。

怜は慌ててスカートをすぐに元に戻す。

竜華が唖然とした表情で呟く。

「な…なんでセーラ履いてへんねん」

「ノーパンは意外やったな…」

思いもよらない結果に、ただ呆然と立ち尽くす二人。

どう反応していいのか分からなかった。

しばらくしてから、怜が口を開く。

「……見間違い…やったんとちゃう?」

「え…いや、ちゃんと見たやん」

「でも……ちょっともう一度見てみるわ」

怜はもう一度、ゆっくりとスカートに手を伸ばし、めくった。

だが最初に見た通り、セーラは履いていなかった。

「やっぱり履いてへん…」

「ワレメや…」

「セーラ、ずっと倍やん」

「大変やな」

もちろんそれはワレメルールを採用していれば、の話だ。

通常の部活動では、ワレメなどというローカルルールは採用していない。

今度こそしっかりと確認した後で、怜はスカートを元に戻す。

そして当然の疑問を口にする。

「なんで履いてへんのやろ…」

「なんでって…」

「なんか理由があるんとちゃう?」

そう言って、怜はあごに手をやり、難しそうな顔をして考える。

そんな怜を見て、竜華が笑いながら言う。

「名探偵怜ちゃんやな」

だが、そんな軽口に対して怜は竜華をキッと睨む。

「竜華、ふざけてる場合とちゃうで」

「え……」

「竜華も部長なんやから、ちゃんと考えてくれな困るで」

「は、はい…ごめんなさい…」

なぜか怒られる竜華。

そして素直に謝ってしまった。

 

二人で履いてない理由について考える。

だがそれらしい理由は思い浮かばない。

怜が言う。

「もしかしていつも履いてへんのかな?」

「どんな露出狂やねん」

「……誘ってるとか?」

「誰を?」

「ん〜、誰やろうなぁ?フナQとか?」

「でもセーラはそんなまどろっこしい事せえへんやろ〜」

「確かになぁ。力ずくで襲いそうやもんな」

それに、誰かを誘っているのだとしたら、

今この時、セーラは起きているはずである。

そう結論に至った二人は、「誘っている説」を候補から外した。

 

しばらく考えて、今度は竜華が新説を提案する。

「パンツ汚してしもうたから脱いだとか」

「お漏らししたんかな」

「……なさそうやな」

思いつきで言った事だったが、冷静に考えてもそれはなさそうだった。

だが怜はその説を別の方向に広げる。

「……いやらしい事考えて汚してしまったのかもしれへんで」

「怜、最低やな」

竜華の厳しいツッコミ。

だが怜は照れたように笑う。

「そう?えへへへ」

「なんで照れてるん?」

 

どれだけ考えても、履いていない理由には辿り着けそうになかった。

新しい案も浮かばず、意見もだんだんと陳腐なものばかりになっていく。

もっとも、最初の意見が斬新だったとは言い難いが。

怜が竜華に言う。

「ちょっと竜華もめくってみてくれへん?」

「え?」

「さっきからウチばかりがめくってるやん?」

「うん、そうやな」

「竜華がめくったら、もしかしたら履いてるかもしれへん」

「は?いやいやいやいや、そんなのありえへんやろ」

「一応、念の為、や」

どう考えてもあり得ない事だったが、怜には何か考えがあるのかもしれない。

そう思った竜華は素直に怜の言う事に従った。

セーラを起こさないように、竜華はスカートをめくる。

やはり、当然だが履いていなかった。

それを見て、怜は当然のように言った。

「まぁ、せやろなぁー」

「ちょっと、怜?」

考えなんて、何もなかったようだ。

竜華はスカートを元に戻した。

 

 

そうこうしていると、部室のドアが開いた。

二人は入口に目をやる。

「おはようございまーす、ってどないしたんですか?」

泉がやってきた。

「おぉ、泉。ちょっとこれ見てくれへん?」

「え?」

そう言って、怜はセーラのスカートをめくった。

「どや。履いてへんねん」

「え、なんでですか?」

「それがな、ちょっと分からへんねん」

3人でセーラを取り囲む。

セーラは相変わらず、幸せそうな顔で眠っていた。

「なんで履いてないんですかねぇ」

「泉はなんか思い当たる事ない?」

「ん〜、特にないですねぇ」

そんな泉に、怜が若干悪い顔で笑いながら言う。

「いやらしい事考えて下着汚してしまったのかもしれへんなぁ?」

「園城寺先輩、考える事、結構最低ですね」

「えへへへへへ」

「なんで照れてますのん?」

人数が増えても、答えは見つからなかった。

 

諦めムードの3人。

「よし、ちょっと風向きを変えてみようか」

そう言って、怜が2人に新しい提案を持ち掛ける。

「とりあえず、ちょっと触ってみる?」

「え、いや、それはあかんやろ」

「マズイですって」

竜華と泉は慌てて怜を止める。

だがそれを振り払って触ろうとする怜。

「ちょっとだけならバレへんって」

「絶対起きるやろ」

「大丈夫、お尻やから」

「そういう問題じゃないやろ」

「起きたら、ゴミがついてたって言ってごまかせば大丈夫や」

「って言うか触る意味が分かりませんよ」

そして怜は、さっき竜華に対して行った説得を泉に試みる。

「というかな、ここまで来たら、触らへんかったら逆に失礼やと思わへん?逆に」

「……どういう事ですか?」

だが泉は冷静に聞き返す。

泉は竜華ほど流されやすくはなかった。

作戦に失敗した怜は舌打ち混じりに言う。

「チッ…竜華よりはしっかりした子やな」

「ちょ…怜!?」

失礼な事を言われた竜華はショックを受ける。

そして、さらに怜は泉に言う。

「じゃあ、泉もめくってみてくれへん?」

「え?なんでですか?」

「もしかしたら、泉がめくれば履いてるかもしれへん」

「いや……ちょっと、意味が全く分かりませんが…」

竜華には通じた理論が、泉には通用しなかった。

それを聞いた怜が、悲しそうな顔で竜華を見る。

「ウチ…竜華の事がめっちゃ心配になってきた…」

「ちょ…なんなん、それ!?」

「竜華って、騙されやすい子なんやな…」

そして泉も竜華を憐れみの目で見る。

「え……清水谷部長…こんなんに騙されたんですか…?」

「い、いや…そんな目で見んといて…」

竜華が泣きそうになってしまった。

 

 

その時、再び部室のドアが開いた。

今度は浩子がやってきた。

「何騒いでるんですか?」

「お。フナQ、ええところに来たな」

「浩子ならこの謎、解明出来るかもしれへんなっ」

「船久保先輩の推理力に期待ですね!」

カバンを置いて、浩子もソファの周りに集まる。

そしてセーラを見ながら尋ねる。

「一体なんです?」

「ほら、これ見てみ」

怜がスカートをめくった。

それを見て、浩子が率直に見たままを言う。

「履いてませんね」

「なんでやと思う?」

「下着汚してしまったんとちゃいます?」

「浩子もおもらし説か…」

竜華が呟く。

だが、浩子の意見は少し違ったようだ。

「いや、エロい事考えて汚してしまったのかもしれませんよ」

それを聞いて、ここぞとばかりに怜が浩子に言う。

「フナQ、考える事、最っっ低やな」

「怜……あんたが最低や…」

「園城寺先輩…」

竜華と泉が呆れた声で呟く。

 

 

4人はその後も何度もスカートをめくり、謎を解明しようとしたが、

納得出来るような理由は何も浮かんでこなかった。

そして、何度もスカートをめくられているのに一向に起きないセーラ。

4人はその事に密かに驚愕していた。

八方塞がりな状況に怜がぽん、と手を叩く。

「よし、しゃーない」

「え?」

「本人に聞いてみよう」

「え?」

そう言うと、怜はセーラの肩を揺らす。

「セーラ、ちょっと起きい」

「ん…?」

「セーラ、おはよう。部活の時間やで」

「あ……お、おはよう…」

寝惚け眼で挨拶するセーラ。

そして体を起こし、伸びをする。

「んん〜〜っ、よう寝たわー」

あれだけ騒いでた横で熟睡出来るのはすごいとしか言いようがなかった。

そんなセーラに、怜が本題を切り出す。

「なぁなぁ、セーラ」

「ん?なんや?」

「セーラ、なんでパンツ履いてへんの?」

「え?」

竜華、浩子、泉の3人はギョッとした。

まさかストレートに聞くとは思ってもいなかった。

だが、言われたセーラは不思議そうな顔をして怜を見た。

「は?パンツ?」

「うん」

「いや、履いとるけど?」

「履いてへんやん」

「え?嘘やろ?」

そして確認する。

その直後、驚愕の表情を浮かべる。

「ホ、ホンマや…」

セーラは、自分が履いていなかった事に気付いていなかったらしい。

「なんで俺、履いてへんねん…?」

そしてもう一度確認する。

やはり履いていなかった。

「なんで俺、履いてへんねん…?」

セーラはさっきと全く同じセリフを言う。

そんなセーラに、怜もさすがに戸惑いを隠せない。

「そ、そんなん聞かれても…」

「俺のパンツどこや…?」

立ち上がり、覚束ない足取りで部室を徘徊するセーラ。

カバンやロッカーにはパンツはなかったようだ。

「パンツ……どこ…パンツ…」

茫然自失といった様子でパンツを探すセーラ。

起きたら、パンツを履いていなかった。

それは恐怖以外の何物でもないだろう。

 

結局パンツは見つからなかったし、

履いていない理由も分からずじまいだった。

謎はさらに深まってしまった。

ただ一人を除いて―

「(ど、どないしよう…今さら悪戯で脱がしたなんて言えへん…)」

 

 

竜華の膝枕の上で怜が言う。

「結局なんやったんやろうなぁ」

「ホンマやな〜」

泉と浩子がパンツ探しを手伝いながら言う。

「でもちょっと怖いですよねぇ」

「せ、せやな…怖いな…、ホンマに…」

「先生に報告した方がええんとちゃいますかねぇ」

「い、いや!それはまだええやろ…っ、探せば見つかるかも分からへんし…」

そしてセーラが一点を見つめながらうわ言のように呟く。

「パンツ…どこや…」

そして、下校時刻を告げるチャイムが鳴る。

結局一度も麻雀を打たないまま、部活が終わってしまった。

竜華の膝枕から起き上がり、怜が言う。

「謎を解かれへんかったし、名探偵怜ちゃんは、廃業やなぁ…」

「短い探偵業やったな」

そして怜はカバンを持ち立ち上がる。

「じゃあウチらは帰るわ。泉も、行くで」

「え?は、はい…。でも江口先輩はいいんですか?」

「あぁ、浩子がなんとかしてくれるやろ」

そして怜は浩子の元へ行き、小さな声で囁く。

「ほな、あとよろしくな、フナQ」

「は、はい…」

「悪戯はほどほどにせなあかんで」

「…えっ」

驚いたように怜を見る浩子。

そんな浩子に、怜はウィンクをしながら答える。

「伊達に一巡先、見える訳とちゃうんやで」

そして帰って行く怜と竜華と泉。

「め、名探偵、怜ちゃん……」

浩子は、しばしその後ろ姿に見惚れた。

 

そしてセーラと二人きりになった浩子。

セーラは既にパンツ探しは諦め、ソファで泣いていた。

「ク゛ス…怜と竜華、帰ったん?」

泣きながらセーラが浩子に問いかける。

「あ、あぁ…はい。あと泉も…もうみんな帰りましたよ」

「そっか…お疲れさん…」

ここにはいない3人に律儀に挨拶するセーラ。

そして泣きべそをかきながらまた呟く。

「なんでパンツないんやろ…」

胸の奥がギュッと締め付けられる浩子。

ポケットの中の白い布きれを握る。

そして、意を決してセーラの前に立った。

 

 

次の日の部活では、完全に復活したセーラと、

罰として1日ノーパンで過ごす事になった浩子の姿があった。

 


 

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