喧嘩のある風景
学校から帰ってきたナギは、真っ先に炬燵のスイッチを入れた。
そしてそのまま中に入る。
まだ暖まっていない炬燵は冷えきっていたが、
それでもお構いなしにナギは中に侵入していく。
この日の最高気温はなんと4℃という、
いつ雪が降ってもおかしくないほどの寒さだった。
寒がりのナギが帰宅してすぐ炬燵に逃げ込むのも無理はなかった。
だがやはり、スイッチを入れたばかりの炬燵は暖を取るには頼りなかった。
ナギはその身を炬燵の中へ深く深く入り込ませる。
そして、全身をすっぽりと炬燵の中に入れ、ただジッと暖まるのを待った。
炬燵は5分と経たず、すぐに暖まった。
一日中味わった寒さからようやく解放されたナギは、
まるで猫のように丸まり、幸せそうに目を細める。
もうこのまま一生ここで暮らしたい―
本気でそう思えるほどの、至福の時だった。
しばらくそのまま炬燵の暖かさを堪能していると、
リビングの向こう、玄関からドアの開く音がした。
そして「ただいまー」という声と同時にリビングの扉が開く。
声の主は、ナギの兄だった。
「うー、さむさむ…」
独り言と共に、ナギの兄は炬燵の中に足を入れる。
帰宅後、真っ先に炬燵に飛び込むあたり、兄と妹、行動パターンは似ていた。
兄はすぐに中の"異物"に気付く。
そして、ソファに置かれたナギの鞄を見る。
「またか…」
ナギが炬燵の中に全身潜り込むのは、いつもの事だった。
なので、特に躊躇する事もなく、兄はナギを足でぐいぐい押す。
それに対する抗議として、ナギは兄の足を引っ掻く。
「ナギ、痛い」
「ナギ言うなっ」
妹の友人が呼んでいたあだ名でナギをからかう。
そして狭い炬燵からナギを追い出そうと、なおも押す。
その時、兄の足に若干柔らかい感触が伝わってきた。
中から抗議のうめき声が聞こえてくる。
「ちょ…やっ……ん…」
そしてナギが慌てて炬燵の中から出てきた。
「お兄ちゃん!どこ触ってんのっ」
炬燵から出てきたナギの若干赤い顔と胸を押える手を見て、
兄はどこを触ってしまったのか、すぐに察した。
「あぁ…悪い…」
少しバツの悪そうな顔で謝りつつ、すぐに次の言葉を紡ぐ。
「…背中かと思った。あはははは」
「なっ…!?」
その言葉にショックを受けたナギは絶句する。
背中と間違われるほど貧乳じゃない!
そう抗議したかったが、そう言えるほど大きくないのも事実で、
何を言っても負け惜しみにしかなりそうもなかった。
ナギは無言で兄の頬をつねる。
「いててて…悪かったよ」
その言葉を聞いて、すぐに頬から手を離す。
そして炬燵の布団をめくった。
「まったく…っ」
そう言って、再びナギは炬燵の中に頭から入っていく。
そんなナギに的確なツッコミを入れる兄。
「また入るのかよっ」
冬の夕暮れ時。
仲の良い兄妹の何気なくも幸せなひと時だった。