ある日の冒険

 

人はなぜ未知のものにあこがれるのであろうか。まだ見ぬものを求め時には宇宙にまで旅立つ、これが人類であり、今日の人類の繁栄にはこのような冒険心が不可欠であった。私も、人類の一員として、今回、危険な冒険に挑んだ。これは、その赤裸々な記録である。

 

第1回:Introduction

 

この冒険には構想3年を費やした。3年前からその店の前を通るたび気になっていたのだ。こぎれいな、こじんまりとしたたたずまい。決して豪華ではないが貧乏くさくもないラーメンやのようだった。なぜなら、店の前に看板があったのだ。「いっぷくラーメン」。ただし「ラーメン」の文字が上下反転していた。私はこの看板を見たときに、心痛むものがあった。この新装なったラーメン屋、看板を頼んだのが、店長の知り合いのとある看板屋だった。これが、不況のあおりを食って仕事がない。そこへ、久々の仕事の注文を受けたのだった。開店まであまり時間がなく、急ぎの仕事となるが、従業員も一人減り二人やめというしまつ。何とか間に合わせたはいいが、ラーメンの次が上下逆になっているのに気づいたのは、現地での作業中だった・・・。ラーメン屋の店主も驚いたが、開店まで時間がない。今から作り直すのにも時間がかかるし、なにより、平謝りにあやまる看板屋がかわいそうになり、つい、そのままにしてしまった。そのかわり看板の作り賃をまけてもらうことにした。というような状況がたちどころに脳裏をよぎり、看板屋の後悔、ラーメン屋の苦悩を思い、胸が痛んだのである。「しかし、なにも看板をそのままにしなくても」という気もするのであるが、そこは度量の広い店主である。人を責めず、許すという心がけで作るラーメンは、やがておいしいと評判になり、遠くから客が集まるようになる・・・。

もちろん、ほかの説明は可能であろう。もともとラーメン屋は、宇宙ステーションミールの中の職員食堂として建設されるはずであり、無重力空間を遊泳する宇宙飛行士がどのような姿勢でも読めるように文字を180度回転させておいた。ラーメン屋の店主は帰国子女であり、外国での幼少時に、まちがえてカタカナを上下逆に覚えてしまったなど。

しかし、もともと心優しい私は、上記のような情景を想像してしまったのである。ああ、不憫なりラーメン屋。せめて、機会あれば、我がラーメンの1杯を購おう、そして、新しい看板を作り直す資金に貢献しようと常々考えていた。しかし、なかなか機会がないまま、3年が経過したのである。

ところが、今回、ゆえあって、ついに食事時に、このラーメン屋に入る機会を得た。千載一遇のチャンスである。これはなんとしても逃してはならない。この機会を逃せば一生後悔するであろう。おもえば、いままで様々な機会を逃し続けてきた人生ではないか。苦節43年、大人になった自分を試すときである。私は、決然として現地に赴いた。病院の駐車場に車を止め、病院には目もくれずに、ラーメン屋に向かったのである。

 

(第二回につづく)