「未来って決まってると思いますか?」


わたしはなんとなくぼんやり思ったことを口にした。
隣にいた彼は、こっちを見もせずに「たぶんね」といった。
だれもいない放課後の屋上を駆け抜けていく冷たい風がほほをつねる。


「じゃあ、わたしたちは毎日毎日選択を繰り返している気になっているだけなのか。」



なんて、つまらない人生。



「今日わたしが君を殺しても、それは運命?」
「そうだろうね。でも君は僕を殺せないし、それも運命」
「なんだか廃退的ね」
「そう?僕が思うのは、時間のうねりにはかなわないということ」
「なにそれ、時間のうねりって」


彼はつまらなそうにこっちをみた。
どうせ私は頭悪いしつまらないことばかり考えているけど。


「時間の流れは僕らには止められないし、その大きな流れが変わることはないんだ。」
「そうかな?」
「そうだよ。君に火山の噴火が止められるの?地球の自転を止めることができるの?」
「できません」
「そういうものなんだよ」



彼はまた空をみた。
赤紫色の空には薄く伸ばしたような雲が遠く遠くに流れていた。



「細かいことなんて、選択した所で塵芥のようなもので、歴史に押し流される。その証拠に、これだけ長い時間人間が生活してきて偉人は数えられるほどだ」
「まあ、そうかもしれない」
「それぞれにそれぞれの人生があるけど、それはヒトの社会を支える車輪にすぎない。僕も、君もね」
「じゃあ、私たちがいなかったら社会は崩壊ね。いい役割」
「それだけだけどね。社会が崩壊しても、時間は流れる。ヒトが消えて、新しいスタートさ」
「ひばりさん、そんな思想で人生疲れない?」
「僕は退屈な人生が一番いいとおもうけど」
「退屈はきらいなんじゃないの?」
「退屈だから退屈しのぎができる」
「それ、屁理屈」
「理屈も倫理も屁理屈の一種だろ」





わたしはなんだかどうでもよくなって、冷たいコンクリートに背中をつけて空を見た。
流れていく雲は形を変え、空はあっという間に暗い紫色に変わった。
風は冷たくなり、グラウンドから聞こえていた野球部の声も遠くなった。
ひばりさんは相変わらず、羽織った学ランをはためかせながら、切れ長のあの目でただ前を見ていた。



「ねえ、ちゅうしようか」
「しない」
「これも運命?」
「そう」



選択肢はたくさんある。
それは日常のあらゆる部分で。
私はそれを選ぶ。選択する。
それは運命とか、そんなんじゃなくて、私の意志で。


でも、ちょっとだけ思う。ひばりさんの言うとおり、大人になって、上司の命令だとかで引っ越さなくちゃいけなくなったり、乗りたかった車が生産中止になったり、私の意志ではどうしようもできない何かに私の人生が理想から組み替えられるとき、それはもしかしたら、運命の指図なのかもしれないって。
彼は細かい選択は塵芥といったけれど、ちりも積もれば山となる、だ。
きっと世界を変えてきたのも作ってきたのも、たくさんの塵芥。
すべての元は、肉眼では見えない偉大な塵芥。




「かえろっか。」
「そうだね」
「世界って、すばらしいね!」
「そうだね」
「ねぇねぇ、記念に今日エクレア買って帰ろう」
「は?」




わたしはひばりさんの手を引いて、屋上を後にする。
誰もいない屋上は、今日の夜もただ孤独な夜を過ごし、朝にはふたたび誰かを迎える。








(2011.10.13/時間の砂丘)