怪談と夫婦愛

(怪談と共同制作) 「思ひ出の記」には、・・・「幽霊滝の伝説」の制作過程が、印象的に語られている。セツの語りにハーンは顔色を青くし、目を据えて、セツは「ふと恐ろしくな (った)」という。話が済むとハーンは・・・セツの語りの中に出て来た「アラッ、血が」を「何度も何度もくりかへさせ」、「どんな風をして云つたでせう。 履物の音は何とあなたに響きますか。その夜はどんなでしたらう。・・・(と)相談いたします・・・」と続く。 現在我々は、いかにそれが真実であったかを 知っている。 [セツは]・・・『文芸倶楽部』・・・の中の・・・「諸国奇談」十九篇中――恐らく著者が松江人であることに惹かれて――「幽霊滝」を読み、 ハーンに語った。・・・現在、ハーンが単語羅列・・・した短い草稿と、ひとまずセツが語った通りに記した六葉の草稿を、見ることができる。後者には、 「アラッ、血が」("It is blood!" 本で"Ara!it is blood!")という原典にない表現が現れていて、セツが話に生彩を加えていた事実が 知られ・・・。二人の「相談」、それに・・・ハーン・・・の仕上げが、本にある「picha-picha」や、狭い渓谷に入り滝の轟音に迫る描写を、可能にしたのである。 ・・・ ・・・セツは「『天の河[縁起]』でも、ヘルンは泣きました。私も泣いて話し、泣いて聴いて書いたのでした」と述べている・・・。 ・・・強く結ばれるに至った二人の心が、物語の夫婦の心に重ねられて、別離・再会・永遠の男女の絆に、深切に共鳴したものであろう。 (焼津の夫への手紙) こうして八月を迎える。二人が杵築で夏の陽を楽しんでから、十三年の歳月が流れていた。・・・セツは・・・一日も欠かさずに 、夫から挿絵付きの手紙を受け取ることになった。・・・ [セツの返信]・・・八月十二日 グド、パパサマ。アナタ、ノ、カワイ、テガミ、3トキ、ワタシ、ノ、テニ、 アリマシタ。ヨロコビデ、ワライマシタト、セップンシマシタ。・・・ 十八日 パパサマ、アナタ、シンセツ。ママニ、マイニチ、カワイノ、テガミ、ヤリマス。 ナンボ、ヨロコブ、イフ、ムヅカシイ、デス。アナタ、カクノエ、ヒキフ子(ネ)ノエ、オモシロイデス子ー。・・・ 二十三日 シンセツノパパサマ、セカイ、 イチバンノ、パパサマ、アナタノ、カラダ、ダイジヤウブデスカ。・・・ |