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| ラヴクラフトを自ら師匠と慕い、生前不遇だった師の作品集を出版したオーガスト・ダーレス。 ラヴクラフト自身やその作品群への強い傾倒を示したダーレスだが 生前のラヴクラフトには一度も会っておらず、文通のみの関係だった。 |
| ダーレスはドナルド・ワンドレイと共に出版社『アーカム・ハウス』を設立し ラヴクラフトの作品集や生前のラヴクラフト自身が出版社に出さなかった作品を 取り上げ、埋もれてしまう可能性もあったラヴクラフトの残した作品群を『クトゥルフ神話』として体系化する。 ラヴクラフトの残したメモから新作を書きあげ、それをラヴクラフトとの共著として発表する等の活動で知られている。 また、新たな作家たちの神話世界への参入を容易にした点等が評価されている。 |
| クトゥルフ神話における彼への評価は真っ二つに割れることも少なくない。 ラヴクラフトの解釈に独自の理論、単純な善悪二元論や四元素説を取り入れた事 及び、アーカムハウスの設立によってクトゥルフ神話を自己の管理化に収めようとした事である。 ただ、この二つに関しては誤解も大きいといわざるを得ない。 善悪二元論はダーレスのみならず、ラブクラフトも関わっていた内容であるし その他の設定群もクトゥルフ作品を書いた作家達の影響力も大きい。 そもそも、クトゥフル神話はラヴクラフトだけではじめた物ではなく 作家仲間や友人たちとあれやこれやとお互いの作品を批評しながら 面白そうな要素を共有して描かれた作品であり 実際にクトゥルフ作品群には 単純なコズミックホラーとは趣の違う作品も多い。 アーカムハウスに関しては、当時ラヴクラフトの死と共に 消え行く運命だったクトゥルフ作品を盛り上げる為の出版社である。 この為、ダーレスはクトゥルフ作品に関して公平に接した。 例え自分の作品に対する批判であろうと、訳隔てなく出版していたのだ。 自己の管理下に治めようとしたなんて事は無く 「クトゥルフ作品を書くならアーカムハウスに話を通してね」程度であったし アーカムハウス以外の作家が 書いた作品を見つけても「別に一度ぐらいいいじゃない」と静観してた。 |
| ラヴクラフトとダーレスは対立していたわけではないが、後継の作家やファンの中には ダーレスの組み込んだ善悪二元論や、属性付けを嫌う者が少なくない。というのもラヴクラフトは、彼が理想とする怪奇物語として
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これを平易に説明すれば、人間をアリに置き換え、人間社会をアリの巣の中で完結しているような社会と考えればよい。 アリには「大気」や「人間の足」という認識はなく、人間が大気を掻き分けてアリを踏みつぶし殺害したという事象はアリからでは理解できず そこにはアリでも認識できる程度の結果、つまり潰れた同胞の死体が残るのみである。 アリに比する人間、つまり人間に比しての「宇宙的存在」が成す"事象"は、アリのように矮小な人間には理解できず ただ意志疎通も理解も拒まれる絶対的他者への「宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)」 のみがそこにある--というような思想が少なからぬラヴクラフト作品の根底にある。 そのためクトゥルフ世界が普及するにつれて、ダーレスが持ち込んだ善悪二元論などの 「人間的に解釈できる」要素付けはラヴクラフトの思想とは反するものだとして、嫌悪の対象になることもあった。 (――しかしこれらの作品を作り上げた1920年代当時、ダーレスは熱心なアマチュア作家に過ぎず ラヴクラフトの世界観の普及というテーマに取り組むのは大分後になってからのことなので 単純に自分が面白いと思って付け加えた設定に過ぎないと考えるのが自然だろう。 そして、ラヴクラフトもまたダーレスの作品を高く評価し 「インスマスを覆う影」においてダーレスの旧神にまつわる設定を取り入れた可能性が指摘されている。) 故に、便宜的にではあるが、ラヴクラフトの思想と手法を受け継ぐと自認する つまり理解できない事象を理解できない恐怖として表現する者をラヴクラフト派 ダーレスの設定を受け容れて理解できない事象を理解できる恐怖として表現する者をダーレス派と呼ぶ事がある。 |