講義1 高齢者総合的機能評価
高齢者総合的機能評価では、高齢者を生活機能、精神機能、社会・環境の3つの面からとらえます。それぞれに、簡単なスクリーニングツールが開発されています。問題点が整理できたら、それぞれの問題のスペシャリストにコンサルテーションし、ケア全体をコーディネートするのが老年科医の重要な仕事です。
高齢者総合的機能評価
評価すべき項目
1.(基本的)日常生活活動度(Activity of Daily Living;ADL)
2.手段的日常生活活動度(Instrumental ADL;IADL)
3.認知機能 Cognitive function
4.気分・情緒・幸福度 Mood, Quality of Life
5.コミュニケーション能力 ; 視力・聴力・構音・言語・理解
6.社会的環境 ; 家庭環境(家族構成・人間関係・住居)、介護者、支援体制
評価の目的
1.高齢者疾患の正確な診断、治療可能な状況の早期発見、過剰な薬剤の整理
2.治療効果判定、経時的な臨床的、機能的変化の把握
3.セルフケア能力の低下に伴う疾病の増悪やさらなる障害発生の予防
4.介護の必要性のスクリーニングと最適な介護環境の選択(退院支援、ケアマネジメント)
主な効果 →生活機能の改善、生命予後の改善
→入院日数の短縮
→医療費の抑制
→チーム医療・ケアの形成
(基本的)日常生活活動度(Activity of Daily Living;ADL)>
日常生活活動度 ADL (Activity of Daily Living)とは
一人の人間が独立して生活するために行う基本的な、しかも各人ともに共通に毎日繰り返される一連の身体動作群
1)セルフケア ; 食事、整容、更衣、トイレ動作、入浴
2)排尿排便コントロール
3)移動能力 ; 車椅子とベットの移乗、歩行、階段昇降
評価方法/スクリーニングツール
Barthel Index,
Kaz Index,
Functional
ADLの障害を認めた場合の対応
@ADL障害の原因の追求(診断と治療) →老年病科への紹介
神経学的検査・・・麻痺、筋力低下、パーキンソンニズム、運動失調、嚥下障害、排尿障害、起立性調節障害
四肢・脊椎の診察・・・関節可動域制限、変形、疼痛、褥瘡
内科的疾患の評価・・・運動耐用能の低下(息切れ;心機能・呼吸機能の低下)
視力障害、聴力障害、認知機能障害のチェック
Aリハビリテーション →リハビリテーション部への依頼、主治医によるリハビリテーション
a.損なわれた心身機能の回復を目的とした機能回復訓練
b.日常的な生活行動の活性化による廃用性の運動機能低下の予防
c.行動しやすい生活環境の整備
d.損なわれた運動機能を補う自助具などの利用
理学療法;移動能力障害・筋力低下・関節可動域制限、運動耐用能低下→運動療法、疼痛→物理療法
作業療法;日常生活動作訓練、上肢機能訓練、自助具
言語療法;失語、構音障害、聴覚障害、嚥下障害
装具療法;体幹装具、上肢・下肢装具、移動補助具(杖・歩行器・車椅子)
Bソーシャルワーク、ケアマネージメント →地域医療連携部への依頼
家庭介護力の評価と社会資源の導入 →介護保険の申請(家族に区役所に行ってもらう)
在宅生活に必要な3つのM(Man; 介護力、Money; 経済力、Machine;福祉用具、住環境)の評価と介入
早期からの退院援助 →在宅か福祉施設か医療施設か
手段的日常生活活動度(Instrumental ADL;IADL)
手段的日常生活活動度 IADL (Instrumental ADL)とは
より広い生活空間である地域における自立生活に必要な最低限度の日常活動
1)家庭内における家事動作 ; 電話を使用する能力、食事の準備、家事、洗濯
2)近隣への移動動作 ; 買い物、公共交通機関の利用
3)財産取り扱い能力
4)服薬管理能力をはじめとしたセルフケア能力
手段的日常生活活動度を評価する目的
1)ADL低下の予防
近隣への移動能力の低下は家の中での「閉じこもり」を生み出し、ADLや精神機能の低下、生きがいなどの生活の質にも影響を及ぼす。また、家事動作の低下は、家庭の維持・発展にとって大きな障害となる
2)IADLの低下は、認知機能障害やうつなどの精神機能の低下のスクリーニングに重要
IADLの低下が痴呆診断の指標(物忘れだけでIADLの低下がなければ痴呆とはいえない)
評価方法/スクリーニングツール
IADL尺度(Lawton & Brody)
老研式活動能力指標
日常生活活動度を認めた場合の対応
原因の追求 本人の問題 認知機能の低下?うつ?運動機能の低下?→老年病科へ紹介
閉じこもり、ソーシャルネットワークの低下
家族の問題、経済的問題、家屋環境の問題 →地域医療連携部へ紹介
家事などの仕事の簡略化と動作の効率化を図る
介護保険の申請 家事援助の利用
地域高齢者支援事業の利用;生活支援(給食サービス)、介護予防(運動指導、転倒予防)生きがい対策(スポーツ、就労)、権利擁護(成年後見制度、地域福祉権利擁護制度)
認知機能 Cognitive function
認知機能とは
@ 短期記憶、長期記憶
A 抽象的思考、判断力、構成力、ものの認識、動作、言語表現
B 社会生活、職業、対人関係に支障がない能力 (DSMW)
認知機能の評価の目的
痴呆症は高齢者おける頻度が高い(65歳以上の約7%)
痴呆の原因によっては有効な治療がある(treatable dementia)
進行性の痴呆性疾患(アルツハイマー病など)でも早期ならば進行を遅らせる治療がある
痴呆になる前に発見が必要→軽度認知機能障害 mild cognitive impairment
評価方法/スクリーニングツール
改定長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)
認知機能障害を認めた場合の対応
原因の追究(診断)
神経学的検査、神経心理学的検査
神経画像検査(頭部CT・MRI/SPECT/PET)
神経生理学的検査(脳波)
一般内科的検査(血液・尿検査、甲状腺機能、ビタミン、胸部X線、心電図)
合併症の評価 老年症候群(せん妄、失禁、転倒、難聴、視力障害、やせ、便秘、骨粗鬆症、関節変形)
治療 薬物療法・・・抗痴呆薬(塩酸ドネペジルなど)の投与、抗精神病薬・抗うつ薬の投与
リハビリテーション(回想法、現実見当識療法、運動療法) 栄養療法
治療環境の整備 介護方法の指導 介護保険申請 在宅か施設か?
気分・情緒・幸福度 Mood, Quality of Life
高齢者のうつ病の特徴
@ 不安・焦燥感を伴うことが多い
A 他人の前では元気に振る舞い、抑うつ感を訴えない場合がある
B 疼痛、動悸、呼吸困難、便秘異常など身体症状が前面に立ち、身体疾患と見誤られることがある
C 思考力や意欲の障害のため、痴呆様の状態を呈することがある<br>
D 意欲低下、食欲不振などのために全身状態や身体機能の低下をきたしやすく、それがさらに不安、無力感を助長するといった悪循環を生じやすい<br></p>
うつを評価する目的
痴呆症に次いで高齢者で多くみられる疾患(後期高齢者の10%以上にうつ状態あり)
もともと高齢者はさまざまな「喪失」を経験する年代であるため、抑うつ的な気分についてともすれば年だからしかたないとみなされたり無視されたりしがちである
うつ病とまでいかなくても、軽度のうつ状態が「閉じこもり」を引き起こし、認知機能や運動機能の廃用性低下を引き起こす場合があり予防必要
評価方法/スクニーニングツール
高齢者抑うつ尺度(Geriatric Depression Scale ; GDS)<br></p>
うつを認めた場合の対応
うつ状態を呈する身体疾患(脳血管障害など脳疾患・内分泌疾患・薬物)の除外
薬物療法・・・抗うつ薬(SSRI、SNRIなど)
環境調整・・・休養、叱咤激励しない、自殺の予防(場合によっては入院治療)
予防的対応・・・精神療法・作業療法・集団的レクリエーション
退院支援のための総合的機能評価
退院支援の遅れによる患者への不利益の発生
わが国では入院治療がほぼ終了し、退院許可となった段階になって初めて退院困難が発覚し、家族や不慣れな医師による退院準備が始まることもしばしば
→退院までの間、医療の必要のない、環境の整備を待つだけの無意味な入院期間の発生
→早期から介入すれば在宅への退院も可能であったのに、退院支援が遅れたために転院しか選択肢がなくなる場合や、不適切な生活環境のまま在宅へ退院する場合あり(疾患の増悪を引き起こし、再入院をくりかえす)
退院計画とは
個々の患者・家族の状況に応じて適切な退院先をを確保して、その後の療養生活を安定させるために、患者・家族への教育指導や諸サービスの適切な活用を援助するように病院においてシステム化された活動・プログラム
退院計画の目的
1.良質な患者ケアの継続
2.入院が必要な他の患者にとっての病院資源の有効利用
3.退院時の社会資源の適切な利用
退院困難な患者の抽出と退院困難が疑われた場合の対応
1.高齢者総合的機能評価の施行
退院困難のリスク因子・・・年齢、入院時ADL、意欲
退院先(在宅・施設)決定因子・・・退院時ADL、入院日数(入院が長くなるほど在宅への退院が難しくなる)
2.地域医療連携部への退院援助依頼
老年病科医、看護師、ソーシャルワーカーが専門職員として勤務
アメリカでは退院計画部Department of discharge plannning
3.関連職種との連携
家庭医(往診)、ケアマネージャー、訪問看護ステーション、保健所などに電話連絡し情報収集・提供
4.入院中の機能低下の予防
リハビリテーション部への依頼、主治医による病棟リハビリテーションの促進