講義4 うつと意欲低下
うつ病の有病率は非常に高いにもかかわらず、その多くが適切に治療されていないといわれている。高齢者においても、それは例外ではなく、ともすればうつも意欲低下も「年のせい」と放置されている場合も多い。
そのようになる原因として、うつ病の診断の難しさがあるように思われる。実際、高血圧など身体疾患の治療のために来院してくる患者さんに対する普段の短い外来診療において、精神状態の評価まで適切に行えるとは言いがたい。
診断率改善の方法として、老年病科では、CGA(高齢者総合機能評価)として、うつ病のスケールであるGDS(Geriatric Depression Scale)を必ず施行している。
GDSにおいてうつ状態が疑われた場合、DSM4-TRなどの診断基準に基づき問診を行い、診断を確定し、早期に治療を開始する。
うつ病性障害 Depressive Disordersの分類(DSM-W-TR)
1.大うつ病性障害、単一エピソード
2.大うつ病性障害、反復性
3.気分変調性障害
4.特定不能のうつ病性障害
(1)月経前不快気分障害
(2)小うつ病性障害
(3)反復性短期うつ病性障害
(4)統合失調症(精神分裂病)の精神病後うつ病性障害
(5)妄想性障害、特定不能の精神病性障害または統合失調症(精神分裂病)の活動期に重畳する大うつ病エピソード
(6)うつ病性の疾患が存在するが、それが原発性か一般身体疾患によるものか、物質誘発性かを決定できない状態。
診断基準
大うつ病エピソード
A.
以下の症状のうち5つ(またはそれ以上)が同じ二週間の間に存在し、病前の機能からの変化をおこしている。これらの症状のうち少なくとも
1つは、(1)抑うつ気分または (2)興味または喜びの喪失である。 (明らかに、一般身体疾患または気分に一致しない妄想または幻覚による症状は含まない。)
1.患者自身の言明(例えば悲しみまたは、空虚感を感じる)か、他者の観察(例えば涙を流しているように見える)によって示される、ほとんど一日中、ほとんど毎日の抑うつ気分。(小児や青年ではいらいらした気分もありうる)
2.ほとんど一日中、ほとんど毎日の、すべて、またはほとんどすべての活動における興味、喜びの著しい減退(患者の言明または他者の観察によって示される)。
3.食事療法をしていないのに、著しい体重の減少、あるいは体重増加(例えば1ヶ月で体重の5%以上の変化)、またはほとんど毎日の食欲の減退または増加。(小児の場合、期待される体重増加がみられないことも考慮)
4.ほとんど毎日の不眠または睡眠過多。
5.ほとんど毎日の精神運動性の焦燥または制止(他者によって観察可能で、ただ単に落ち着きがないとか、のろくなったという主的感覚でないもの)。
6.ほとんど毎日の易疲労性、または気力の減退。
7.ほとんど毎日の無価値観、または過剰であるか不適切な罪責感(妄想的であることもある)。(単に自分をとがめたり、病気になったことに対する罪の意識ではない)
8.思考力や集中力の減退、または決断困難がほとんど毎日認められる(患者自身の言明による、または他者によって観察される)。
9.死についての反復思考(死の恐怖だけではない)、特別な計画はないが、反復的な自殺念慮、自殺企図、または自殺するためのはっきりした計画。
B.
症状は混合性エピソードの基準を満たさない。
C.
症状には著しい苦痛または社会的、職業的または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
D.
症状は物質(例:乱用薬物、投薬)の直接的な生理学的作用または一般身体疾患(例:甲状腺機能低下症)によるものではない。
E.
症状は死別反応ではうまく説明されない。すなわち愛する者を失った後、症状が2ヶ月をこえて続くか、または著明な機能不全、無価値観への病的なとらわれ、自殺念慮、精神病性の症状、精神運動制止があることで特徴づけられる。
大うつ病性障害、単一エピソード
A 単一の大うつ病エピソードの存在。
B 分裂感情障害ではうまく説明されず、統合失調症(精神分裂病)、分裂病様障害、妄想性障害、または特定不能の精神病性障害には重なっていない。
C 躁病エピソード、混合性エピソード、または軽躁病エピソードが存在したことがない。
大うつ病性障害反復性
A 2回またはそれ以上の大うつ病エピソードの存在(別々のエピソードと見なすには、大うつ病エピソードの基準を満たさない期間が少なくとも2ヶ月連続して存在していることが必要。)
B 分裂感情障害ではうまく説明されず、統合失調症(精神分裂病)、分裂病様障害、妄想性障害、または特定不能の精神病性障害には重なっていない。
C 躁病エピソード、混合性エピソード、または軽躁病エピソードが存在したことがない。
気分変調性障害 Dysthymic Disorders
A 抑うつ気分がほとんど一日中存在し、それのない日よりもある日の方が多く、患者自身の言明または他者の観察によって示され、少な くとも2年間続く(小児や青年では気分はいらいら感であることもあり、期間は少なくとも1年間)
B 抑うつの間、以下のうち2つ(またはそれ以上)が存在
1.
食欲減退、または過食
2.
不眠、または過眠
3.
気力の低下、または疲労
4.
自尊心の低下
5.
集中力低下、または決断困難
6.
絶望感
C この障害の2年の期間中(小児や青年は1年間)一度に2ヶ月を超える期間、基準AおよびBの症状がなかったことがない。
D この障害の最初の2年間(小児や青年は1年間)大うつ病エピソードが存在したことがない。(気分変調性障害が発現する前に完全寛解しているならば、以前に大うつ病エピソードがあってもよい。さらに気分変調性障害の最初の2年間(小児や青年は1年間)の後、大うつ病性障害が重畳していることもあり、この場合は、大うつ病エピソードの基準を満たしていれば、両方の診断=二重うつ病)
E 躁病エピソード、混合性エピソード、または軽躁病エピソードが存在したことがない。また、気分循環性障害の基準を満たしたこともない。
F 障害は、統合失調症(精神分裂病)や妄想性障害のような慢性の精神病性障害の経過中にのみ起るものではない。
G 症状は物質(例えば、乱用薬物、投薬)の直接的な生理学的作用や、一般身体疾患(例えば、甲状腺機能低下症)によるものではない。
H 症状は臨床的に著しい苦痛または、社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。(発症が21歳未満であれば早発性、21歳以上であれば後発性)
特定不能のうつ病性障害
抑うつ性の特徴を持つ疾患で、大うつ病性障害、気分変調性障害、適応障害、不安と抑うつ気分の混合を伴うものの基準を満たさないものが含まれる。例えば、
(1)月経前不快気分障害、
(2)小うつ病性障害=少なくとも2週間の抑うつ症状のエピソードがあるが、症状数が大うつ病性障害に要求されている5項目未満、
(3)反復性短期うつ病性障害=すなわち持続が2日から2週間までのうつ病性エピソードで12ヶ月間少なくとも1ヶ月に1回生じているもの(月経周期に伴っていない)、
(4)統合失調症(精神分裂病)の精神病後うつ病性障害、
(5)妄想性障害、特定不能の精神病性障害または統合失調症(精神分裂病)の活動期に重畳する大うつ病エピソード、
(6)うつ病性の疾患が存在するが、それが原発性か一般身体疾患によるものか、物質誘発性かを決定できない状態。