73.医療制度の国際比較(1) 医療費 (2007年7月3日記載)
医療崩壊の現状を6回にわたって分析してきたが、これからは、医療制度の国際比較を試みる。国際比較は、単純ではないが、OECD Health 2005 のデータを中心に、分析する。まず、最初に医療費を取り上げる。
1.日本の医療費は高いのか?:
まず、最初に、インターネットで得られる各国の医療費を比較して、日本の医療費が国際的に見て高いのか、安いのか、調べてみよう。世界の医療事情の詳細は、右をクリック: 世界の医療事情
| 表1 都市別病院費用(例) | ||
| 都市名 | 外来初診料(円) | 入院料(千円) |
| バンコク | 1,100〜2,700 | 1〜11 |
| 台北 | 2,100〜34,300 | 7〜23 |
| 北京 | 2,700〜9,600 | 3〜89 |
| 日本 | 2,700〜9,650 | 10〜50 |
| ソウル | 3,200 | 5〜80 |
| パリ | 3,200〜17,100 | 50〜130 |
| シンガポール | 4,800〜8,000 | 3〜24 |
| 上海 | 6,400 | 8〜129 |
| ストックホルム | 6,400〜16,100 | ? |
| ホノルル | 13,100 | 90〜160 |
| ロスアンゼルス | 16,100 | 120〜160 |
| ロンドン | 16,100〜18,800 | 56〜65 |
| ローマ | 19,300〜25,700 | 50 |
| 香港 | 21,000〜34,300 | 9〜46 |
| ニューヨーク | 21,400 | 214〜403 |
| デュッセルドルフ | 25,700〜128,600 | ? |
| バンクーバー | 32,200 | 210 |
1.1.外来初診料と入院料:
インターネットの「世界の医療事情」からのデータを下に、都市別の外来初診料と入院料を右の表1に例示する。
日本の医療費については、右をクリック: 日本の医療費
(1)外来初診料:
@日本の場合、病院での料金は薬代も含め、すべて、診療報酬体系で決められており、時間内に病院に行けば、2,700円である。幼児が深夜に病院に行くと、9,650円となっており、外来初診料は、この範囲内で細かく決められている。
A日本以外の国は、必ずしも単純ではない。しかし、「世界の医療事情」のデータから、以下のことがみてとれる。
(@)アジアの諸都市は、上海や香港を除き、日本と比べるとそれほど高くはない。
(A)しかし、欧米諸国の都市では、パリを除けば、日本と比べると極めて高い。とくに、ニューヨークや、デュッセルドルフ、バンクーバーでは、2万円を超えている。
(2)一日当りの入院料:
@日本の場合、大体一日当り1万円である。後は差額ベッド代とか、食事代とか色々違いがあるが、上限は5万円くらいであろう(もちろん、最近は超豪華な病室もあるらしいから、実際の上限はよくわからない)。
A日本以外の国では、初診料以上にいろいろあって、単純な比較は難しい。しかし、ここでも、アジア諸国と欧米諸国とで大きな違いがみられる。
(@)アジアの諸都市では、一日当りの入院料は数千円からであり、日本と比べてそれほど大きな違いはない。
(A)しかし、欧米諸国の都市では、最も安いパリやローマでも5万円であり、ニューヨークやバンクーバーでは、21万円もの高額である。
(3)比較結果: 上記からわかるように、日本の外来初診料や入院料は、欧米先進国と比べると、極めて安い、と言える。
| 表2 盲腸手術の費用の比較 | |||
| 都 市 | 費用総額 | 入院日数 | |
| 万円 | 比率 | ||
| ニューヨーク | 243.9 | 6.45 | 1 |
| ロスアンゼルス | 193.9 | 5.13 | 1 |
| 香港 | 152.6 | 4.04 | 4 |
| ロンドン | 114.2 | 3.02 | 5 |
| 台北 | 64.2 | 1.70 | 5 |
| バンクーバー | 54.6 | 1.44 | 2 |
| ジュネーブ | 52.1 | 1.38 | 4 |
| ソウル | 51.2 | 1.35 | 7 |
| シンガポール | 50.9 | 1.35 | 3 |
| 北京 | 47.8 | 1.26 | 4 |
| パリ | 47.7 | 1.26 | 2 |
| ローマ | 46.4 | 1.23 | 2 |
| フランクフルト | 42.5 | 1.12 | 7 |
| 済生会栗橋病院 | 37.8 | 1.00 | 7 |
| ホノルル | 27.3 | 0.72 | 1 |
| 上海 | 23.4 | 0.62 | 4 |
| バンコク | 20.7 | 0.55 | 3 |
| AIU保険会社の2000年調べより | |||
| 費用には手術費、看護費、入院費等の経費をすべて含む。 | |||
| 比率は、日本を1としたときの比率である。 | |||
1.2.盲腸で入院した場合:
虫垂炎で入院し、盲腸の手術を受けた場合、退院まで何日かかり、費用はいくらか、について右の表2にまとめる。この表は、AIU保険会社が2000年に調べたものである。
(1)費用と入院日数:
@日本は「済生会栗橋病院」の例である。入院期間は1週間、費用は約40万円弱である。
Aホノルル、上海、バンコクでは、日本よりも安いが、入院期間は日本より短い。したがって、もし、日本と同じく1週間入院すれば、日本より高くなる。
Bフランクフルトでは日本とほぼ同じである。
Cアジアの都市でも、日本よりは高い。とくに、香港では、4日間の入院で150万円強(日本の約4倍)もかかる。
Dパリやローマ、バンクーバーでは、費用は日本の2〜4割アップくらいだが、入院期間はわずか2日間である。日本と同じように、1週間も入院すれば、1.1.(2)で示すごとく、高額な入院料を払わねばならなくなる。
Eニューヨ−クやロスアンゼルスでは、たった1日の入院で200万円もの医療費がかかる。ニューヨークでの入院料は1日20万円から、ロスアンゼルスでは1日12万円から、と極めて高いから、病院に入院するよりは、近くのホテルで泊まって病院に通ったほうが安くなる。また、アメリカの保険会社も、盲腸での入院には、1日の入院料しか払わない健康保険が多い。つまり、2日以上入院すると、たとえ、健康保険に入っていても、2日目以降の入院料は全額自己負担となるケースが多いのだ。それが、入院1日の理由であって、アメリカで盲腸の手術をすれば、1日で全快する、というわけではない。
(3)比較結果:
@入院日数: 日本以外では、入院日数が短いところが多い。これは、短期間で完治する、と言う意味ではなく、費用や保険の関係から、その日数しか病院においてもらえない、という意味である。日本の場合は、基本的に完治するまで入院することができる。もっとも、この点から、治療がほぼ終わったにもかかわらず入院し続ける「社会的入院」が問題となっている。
A費用: アメリカやイギリスの都市では、極めて高い。また、日本よりは費用が安い都市でも、7日間も入院すれば、費用は日本よりは極めて高くなる。
B上記のことから、日本の盲腸手術の費用は極めて安い、と言える。
1.3.日本の医療費は安い!!:
インターネットで得られる「世界の医療事情」をベースに医療費の国際比較を試みた結果、日本の医療費は国際的に見て安い、ということがわかった。
2.日本の医療費は多いのか?:
今までのホームページでも述べてきたが、厚生労働省は、「医療費亡国論」を唱えて、医療費の抑制に躍起となっている。ここで、日本の医療費は本当に多いのか、
OECD Health Data 2005 に基づいて、国際比較をしてみる。
2.1.総医療費とGDPの比率:
右の図1に、2003年のOECD諸国の総医療費とGDPとの比率を示す。(ただし、日本、英国、オーストラリアの3カ国のデータは2002年のもの)。
なお、用語の定義は以下の通り。
@国民医療費: 保険医療の財とサービスの消費に、保険医療基盤の資本投資を加えたもの。
A公的支出: 一般政府からの支出と強制的社会保険機構からの支出を合わせたもの。
B私的支出: 家計負担(患者の窓口負担等)と個人が任意で加入する自発的保険機構からの支払いを合わせたもの。
(1)GDP比率(2003年):
@図1は16ヶ国だけを選んで示した。欧米先進国と比べると、日本は、イタリアよりも低く、英国より少し高いレベルであることがわかる。なお、日本は、データの得られた30ヶ国中18番目であった。
A30ヶ国で一番比率が高いのはアメリカで、15.0%、次は、スイスで11.5%、3番めはドイツで11.1%であった。トップのアメリカは、公的支出の割合が6.6%で、私的支出の8.4%よりも少ない。公的支出よりも私的支出が多い国は、OECD加盟国では、このアメリカとメキシコの2カ国だけである。
B30ヶ国で一番比率が低いのは韓国で、5.6%、次は、スロバキアで5.9%、下から3番目はメキシコで6.2%であった。韓国はアメリカの3分の1くらいの少なさである。
C日本の7.9%という値は、OECD平均の8.8%よりは低い。また、欧米先進諸国と比べても、イギリスを除けば、低いレベルである。この点から、日本の総医療費は、GDPとの比較でみれば、国際レベルではまだ少ないと言える。
D図1をみればわかるように、トップのアメリカと最下位の韓国やメキシコは、公的支出が私的支出より少ない(あるいは同じである)。これら3カ国は、他の27カ国と違い、公的支出が極めて少ない。公的支出の少ない国が、GDPとの比較で、トップと最下位並びにビリから3番目にいる、というのも考えてみれば面白い現象である。(公的負担と私的負担については、後で項を改めて分析する)。
(2)GDP比率の推移:
総医療費とGDPの比率が、どのように推移してきたか、欧米主要国と日本の状況を右の図2に示す。
@1970年では、どの国も比率は極めて低かった。ピックアップした6ヶ国でみると、日本とイギリスが最低で4.5%。アメリカとスウェーデンが最高で6.9%。この最高レベルでも、2003年の最低比率7.7%(イギリス)よりも低い。
Aこの6ヶ国は、若干の凸凹はあるが、いずれも比率を上げている。とくに、アメリカの上昇は際立っている。1970年の6.9%から2003年の15.0%まで、ほぼ一直線で上昇している。
B1970年には、アメリカと同じレベルであったスウェーデンは、アメリカほど上昇せず、2003年には、9.4%であり、6ヶ国中の4番目となった。
COECDの平均値は、1990年の7.1%から2003年の8.8%まで、直線状で上昇している。
D日本は、1970年は4.5%と6ヶ国中最低であった。2003年には7.9%まで上昇したが、イギリスの7.7%よりもわずかに多いだけであり、6ヶ国中ビリから2番目である。日本の推移を、この6ヶ国と比べると、上昇率が少ない、ということがわかる。
Eフランスやドイツは、1970年と2003年を比べると、比率はほぼ2倍近くまで上昇しており、2003年の比率は共に、10%を超えている。この両国と比べても、日本の比率は低い、と言えるであろう。
(3)GDP比率の比較結果:
上記の比較からもわかるように、日本の医療費のレベルは、GDPと比べると、国際的に見て少ないし、上昇率も大きくはない、と言える。
2.2.国民一人当たりの医療費:
それでは次に、国民一人当たりの医療費をみてみよう。2003年のOECD諸国の一人当たりの医療費支出額を、右の図3に示す。(ただし、日本、英国、オーストラリアの3カ国のデータは2002年のもの)。ここでも、図1と同じく、16ヶ国をピックアップして図示した。
なお、一人当たりの医療費支出額は、購買力平価に換算されてUSドルで表示されている。
(1)一人当たり支出額(2003年):
@図3では、図1と同じ16ヶ国を選んで示している。欧米先進国と比べると、日本は、イタリアやイギリスよりも若干低いレベルであることがわかる。なお、日本は、データの得られた30ヶ国中18番目であり、奇しくもGDPの比率と同じ順位であった。
A30ヶ国の中でトップはアメリカで、5,365ドル。2位のノルウェーの3,807ドルの1.48倍、OECD30ヶ国の平均値2,394ドルの2.35倍であり、ダントツの多さである。しかし、アメリカの場合、公的支出は、44%の2,503ドルであり、56%は私的支出となっている。
B30ヶ国のうち、3千ドルを超えている国は、カナダの3,001ドルまでの6ヶ国である。逆に、千ドルにも満たない国は、トルコの513ドルを最低として4ヶ国であった。
C日本は、2,139ドルであり、平均の2,394ドルよりも11%ほど少ない。欧米先進諸国と比べた場合、最下位であり、この点からも、日本の一人当たり医療費支出は国際的に見て少ない、と言える。
(2)一人当たり支出額の推移:
一人当たり医療費の支出額がどのように推移してきたかを、図2と同じ6ヶ国について、右下の図4に示す。

@1970年では、最低の日本が149ドル、最高のアメリカが347ドルであった。その差は、金額にして198ドル、比率で2.33倍であった。
Aアメリカを除く5ヶ国は、それ以降、ほぼ同じ比率で上昇した。6ヶ国の、1970年と2003年の比較を下の表3でまとめて示す。
| 表3 6ヶ国の推移 | |||
| 1970 | 2003 | 倍率 | |
| 米国 | 347 | 5,635 | 16.2 |
| 独 | 270 | 2,996 | 11.1 |
| 仏 | 210 | 2,903 | 13.8 |
| スウェーデン | 309 | 2,703 | 8.7 |
| 英国(*) | 164 | 2,231 | 13.6 |
| 日本(*) | 149 | 2,139 | 14.4 |
| 注:英国と日本は2002年のデータ | |||
B1970年にトップであったアメリカは、1990年以降、他の5カ国以上に急激に上昇し、2003年には、16.2倍の5,635ドルとなった。
C1970年に309ドルで、6ヶ国中2位であったスウェーデンは、その後、上昇率が鈍り、2003年には、8.7倍の2,703ドルであり、6ヶ国中の4位にまで順位を下げた。
D1970年に最下位であった日本は、その後、2003年までの上昇率ではアメリカの16.2倍に次いで14.4倍と大きく上昇したが、絶対金額では、2,139ドルであり、相変わらず最下位のままである。
E2003年トップのアメリカと最下位の日本の差は、金額で3,496ドル、比率で2.63倍となり、1970年よりも開きが大きくなった。
(3)一人当たり医療費の比較結果:
日本の医療費は、一人当たりでみても、国際的には少ない、と言える。
しかし、驚くべきは、アメリカの「一人当り医療費」の金額の大きさと、大幅な年度毎の上昇率である。アメリカは、先進国の中で、全国民を対象とした強制的な公的健康保険制度を持たない唯一の国である。健康管理も「市場原理」に徹して、「自己責任」で行え、というのがアメリカ国民の合意なのであろう。しかし、その結果が、GDPとの比率で見ても、一人当りの金額で見ても、飛びぬけて大きい「医療費支出」となっているわけであるから、医療の世界に「市場原理」を持ち込むのは間違いではなかろうか?
3.医療費の負担状況:

国民医療費についてみてきたが、その中で公的支出、私的支出、という分類があった。
@「公的支出」とは、別の言い方をすれば、政府が負担するお金(「公金」)と、国民の強制加入から成り立っている公的保険機構が負担するお金の合計。
A「私的支出」とは、患者が病院に対して直接負担するお金(「家計負担額」)と、個人が任意で加入している民間の医療保険機構が負担するお金の合計。
ここでは、その「公的支出」「私的支出」の中身をもう少し詳しく分析してみる。
3.1.一人当たり医療費の公的負担分について:
(1)公的負担額と割合(図5):
図3で示した「一人当たり医療費支出額(2003年)」のうち、公的負担分のみをピックアップして右の図5に示す。
緑の棒グラフは、購買力平価換算のUSドルで表示された絶対金額を示し、赤の折れ線グラフは、総医療費に対する割合(%)を示す。
@公的負担の比率が44%と最も低いアメリカが、絶対金額では2,503ドルと極めて多い(30か国中では3番目の多さである)。
AOECDで調査した30ヶ国の平均値は、比率で72%、絶対金額で1,714ドルである。
B日本は、比率では82%、金額では1,743ドルで、いずれも平均よりは高い。
C日本の82%という比率は、ヨーロッパ諸国と比べても遜色ない比率である。しかし、その内訳をみると、一般政府負担(つまり「公金」)が少なく、公的保険の負担分が大きいことがわかる。
(2)公的負担の内訳(図6):
「公的負担(公的支出)」は、前述のごとく、一般政府の負担と公的保険機構(社会保険)の負担とに分かれる。その比率がどうなっているかを右の図6に示す。
@右の図6でわかるように、イギリス、デンマーク、イタリア、オーストラリアの4カ国は、公的負担分のすべてが一般政府負担(つまり「公金」)で賄われており、公的保険制度はとっていない事を示している。(カナダも、70%の公的負担率のうち、そのほとんどの69%が一般政府で賄われている)。
A日本の公的負担率は、82%と高かったが、そのうちの一般政府負担分はわずか16%と少なく、66%は社会保険によって賄われている。
Bアメリカは、公的負担率は44%であり、日本よりも低いが、一般政府負担分は32%であり、日本の16%の2倍である。つまり、「公金」の投入率でいえば、アメリカは日本の2倍を投入している、ということである。
Cドイツ、オランダ、フランス諸国は、一般政府負担分が10%以下と極めて少なく、@で述べた諸国と対照的である。これは、医療費を「公金」で負担するのか、「社会保険」で負担するのか、といった制度上の理念の差が表れた結果である。
D絶対金額の少なかったトルコ、メキシコ、韓国の3ヶ国は、一般政府負担も少ない。とくに、韓国はわずか9%しか占めていない。これらの国々では、社会福祉制度そのものがまだ未熟であることを示している。
(3)公的負担比率の推移(図7):

ピックアップした16ヶ国の「一人当り医療費の公的負担比率の推移(1990年と2003年の比較)」と、OECD30ヶ国平均の推移とを、右の図7に示す。
@青の棒グラフと、青の枠で囲んだ数字が、1990年の比率である。
A赤の棒グラフと、赤の枠で囲んだ数字が2003年の比率である。
B平均をみると、13年間で、1%公的負担比率が低下している。
Cしかし、元々、公的負担比率の低かった、アメリカ、メキシコ、韓国の3ヶ国は、いずれも公的負担比率が大きく上昇している。
D公的負担比率が高かった、スウェーデン、イギリス、ドイツ、フィンランドは、公的負担率を若干下げている。
Eそうした中で日本は、公的負担率を78%から82%へと引き上げている。(とはいっても、公金の投入比率を増やしたのではなく、公的保険の負担分を増やしたのであるが、この点は、項を改めて分析する)。
(4)公的負担の比較結果:
@一人当たり医療費の公的負担額と割合について、国際比較をした結果、ここでも、アメリカの特異性がみてとれる。公的負担率は、44%と30ヶ国中で最下位であるにもかかわらず、公的負担額は、2,503ドルと、30ヶ国中で3番目の多さである。
A日本は、公的負担率でいうとOECD平均よりは多いが、一般政府の負担率が少なく、公的保険でカバーしている部分が多い、と言える。
3.2.一人当り医療費の家計負担分:
図3で示した「一人当たり医療費支出額(2003年)」のうち、私的負担分に含まれる家計負担分ピックアップして下の図8に示す。イギリスとスウェーデンについては、データが得られなかったので、14ヶ国について、図示した。

@比率でみると、日本は17%であり、欧米諸国と比べると、比較的高い比率である。図6によれば、「一般政府負担分」は16%であるから、日本では、家計負担率が一般政府負担率より高い、ということになる。つまり、一人当り医療費でみると、各家庭での負担額が税金でカバーされる分よりも多い、ということである。
A日本のデータは、2002年のものであるから、窓口での自己負担が現在のように全員が3割となる前のデータである。したがって、現在は、この17%という比率がもっと高くなっているものと思われる。
Bアメリカは、比率では14%と妥当な数字だが、金額では793ドルと極めて多い。ただ、図3で示されている「私的支出」3,132ドルと比べると、少ない。この差額の2,339ドルは、個人が任意で加入している医療保険でカバーされている。
Cアメリカでは、この任意加入の保険料が払えないために、無保険となっている国民が15%、4,000万人以上いる、と言われており、大きな社会問題となっている。
Dドイツ、フランスの比率は共に10%であり、金額も300ドル前後となっている。この金額と、図3の「私的支出額」とを比べると、「私的支出」の半分以上が個人が任意加入する保険でカバーされていることがわかる。
E図6の説明でも述べたが、この両国は、「公的支出」においても公金でカバーする比率は少なく、公的保険でカバーしている。したがって、ドイツやフランスは、税金ではなく、保険でカバ−するもの、という国民的合意があるように思われる。
注: ドイツの介護保険も税金ではなく、保険で運用されている。これに対し、日本の介護保険は、税金と保険の混合で運用されている。
3.3.国民負担率について:
医療費負担だけに限らず、いわゆる「国民負担率」がどのようになっているかを調べてみる。
注: 国民負担率については、右をクリックしてください: 国民負担率とは

(1)2003年の国民負担率(図9):
財務省が調べたデータをベースに、2003年の国民負担率の国際比較を、日・米・英・仏・独・スウェーデンの6ヶ国について図9として示す。
@6ヶ国の中で、国民負担率が最も高いのがスウェーデンの70.2%、最も低いのが米国の31.8%であり、その差は2.2倍もある。
Aこの開きは、「高福祉高負担の国」スウェーデンと、「自己責任と市場原理の国」アメリカとの違いが、鮮明に表れた結果である、と言える。
B6ヶ国の中で、租税負担率が最も高いのがスウェーデンの49.9%、最も低いのが日本の21.8%であり、その差は2.3倍もある。
C日本は、「自己責任と市場原理の国」アメリカよりも。租税負担率が低いのだ。
D社会保障負担率については、6ヶ国中で最も高いのがドイツの24.7%、最も低いのがアメリカの8.7%であり、その差は2.84倍である。
Eフランスの社会保障負担率も24.5%であり、ドイツと同じくらい高く、イギリスの2倍以上である。ドイツとフランスの両国は、図8のEで述べたように、保険でカバーする、という考えが強いので、社会保障負担率も高いのであろう。
(2)国民負担率の推移(図10):
財務省が調べたデータをベースに、1970年から2003年までの、国民負担率推移の国際比較を図10として示す。取り上げたのは、図9と同じ6ヶ国である。
@1970年から1990年まで、日本とスウェーデンは、比率こそ違え、負担率を大きく引き上げてきた。しかし、その後は減少傾向から横ばいに転じている。
Aフランスとイギリスは、1970年から1985年までは上昇したが、その後は横ばいから減少に転じている。
Bドイツは、1970年から1990年までは、ほぼ横ばいであったが、1995年に大きく上昇し、その後は再び横ばい状況が続いている。
Cアメリカは、1970年以来、ほぼ横ばいの状態が続いている。
Dこの6ヶ国における国民負担率の順位は、1995年以降は変動はなく、スウェーデン、フランス、ドイツ、イギリス、日本、アメリカの順位が固定している。
E21世紀に入ると、この6カ国はいずれも、負担率を下げている。とくに、負担率が最大のスウェーデンは、ピーク時(1990年)の79.6%から、2003年の70.2%まで、9.4%も負担率を下げた。
F日本も比率を下げたが、その低下率は少ない。(ピーク時(1990年)の38.2%から、2003年の36.2%まで、負担率の低下は2.0%)。
(3)国民負担率の比較結果:
@日本の国民負担率は、アメリカよりは高いが、他の4ヶ国よりは相当に低い。
Aとくに、租税負担率でみると、日本は6ヶ国中で最低である。
Bこれらの事から、日本の租税負担率も国民負担率も国際的に見て低すぎる、と言うことであり、福祉や医療のレベルを維持し、向上させようとしたら、もっと、国民負担率を引き上げる事も考えなければならないであろう。
6.最後に:
日本の医療費を様々な角度から、国際的に比較分析してきた。その結果、わかったことは以下の通りである。
@日本の医療費は、欧米先進諸国と比べると安い。
A日本の医療費支出額は、GDPと比べた場合、欧米先進諸国と比べて少ない。
B日本の国民負担率は、欧米先進諸国と比べると低い。このため、福祉・医療のレベルの維持・向上を目指すのであれば、国民負担率を引き上げることも今後の政策の選択肢になりうるであろう。
厚生労働省は、日本の医療費が国際的にみて少ないレベルであるにもかかわらず、アメリカ型の市場原理経済を目指す改革路線に乗って、医療費支出を抑制しようと躍起になっている。しかし、そのアメリカでは、上記の図2、図4で見るごとく、医療費支出は、他国を大幅に上回って増えている。したがって、アメリカ型の医療システムは、医療費の抑制にはつながらない、と言えるのに、なぜ、政府の医療改革はアメリカ型を目指しているのであろうか?まったく、不思議な話である。
次回は、そのアメリカの医療制度を分析する。
参考文献: 1.「図表でみる世界の保健医療」、OECDインディケータ(2005年版)、明石書店
2.「日本の医療に未来はあるか」、鈴木厚、ちくま新書
3.「誰も書かなかった厚生省」、水野肇、草思社
4.「市場原理のアメリカ医療レポート」、三浦清春、かもがわ出版
5.「介護地獄アメリカ」、大津和夫、日本評論社
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