「モスコミュール」




私は酒が弱い。殆んど飲めない。

特に日本酒やウイスキーのような「わし・・酒だかんね!!」的酒はまず飲めない。

ビールも苦い炭酸飲料という感じだ。

飲めるものといえば、口当たりのいいモスコミュールのようなカクテルだ。

うーん、後はなんとかサワーみたいなものくらいだ。

しかし、酒場と言うのは大好きである。

ここで言う酒場とは、学生が大騒ぎする店などは含まない。

昔、新宿の3丁目の小劇場の向かいの地下に好きなお店があり、よく足を運んだ。

そこの親父さんと言うのが面白い人で、いろいろなことを教えてもらったものだ。

モスコミュールも彼に教えてもらったし、いろんな料理の作り方もおそわった。

当時はバブルの香りも残っていた時代だが、その店にはそんな気配もなく、

貧乏役者や編集者が新作の舞台の話をしていたり、

こっちの話に割り込んでくる奴と討論会のようになっていて、楽しい時間だった。

お金もなく、情報誌に載っているような店にいく金もなかったし、金があっても気後れしていた。

当然、金が入ってデートにするにしても、芝居や映画を見て、その店に行っていた。

おぉ!!女連れ!!と驚く親父に紹介して楽しく過ごすが、

大抵次にその店に行くときは大抵ふられて一人ぼっちだった。

そんなときに、失恋王といわれるわしは、またしてもふられその店で親父に声をかけられ、

つい泣いてしまったことがある。

その親父も好きな人と別れ、自殺しようと思いつめたときに知らない人に声をかけられ、

泣いたことがあるという話を店を閉めた後午前4時までしてくれた。

その親父は見た目は熊のような男だったが、いつも無口で厳しい人だったが、

優しい目をしており、いい男だった。

先日、新宿にいくことがあり、尋ねてみると店はなくなっていて、

代わりに浮ついた装飾の店が入っていた。

友人に聞くと、貧乏経営で店をたたんだと言う。

いい場所だったので、やり方によっては繁盛しただろうに、

悪酔いした客は帰らせるような頑固者だったので、時代にはじき出されてしまったのかも知れない。

親父に教わったモスコミュールは、正しくはモスコー・ミュールといい、

ライムジュースとジンジャーエールでウオッカを割った酒で、口当たりがいい。

名前の意味は「モスクワの騾馬」と言う意味で、騾馬が転じて、

「頑固者・わからずや」と言う意味だ。

新宿の頑固親父は、今でもどこかで、安酒でも出しながら、振られた男でも慰めてるに違いない。




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