しっぽでハテナ?(表) 

 

 娘の話

タシの名前は野原やむ。
「やむ」ってちょっと変わった名前でしょ? お父ちゃんにつけてもらったの。アタシは、大阪でお父ちゃんとくらしている10さいの女の子。アタシのお父ちゃんは、しゃしんをとってるフリーナントカっていう仕事をやってるらしいの。

今日は日ようなのにお父ちゃんはお仕事。アタシも連れて行ってほしかったけど、一人でおるすばんしてるの。今日はたいくつしてたトコだから、アタシがもっと小さかったころに見たフシギなゆめのはなしをするね。


そのゆめの中のアタシは、どういうわけか、げすいこうの横で全身ズブぬれになって泣いていたの。さむくて、こわくて、おなかがすいて、声も出ないし足も立たない。おまけに何も見えなくてまっくらで、とっても心細かったの。
「もうダメだ」と、思っていると、すぐそばでだれかがすすり泣くような声が聞こえたのね。なぜだか、アタシはその声の方に近づいていったの。でも、体に力がはいらなくて、途中で動けなくなったの・・・。だんだんと意識がかすれて、「ああ、アタシは死ぬんだ」と思った・・・。地面にたおれこんで、ゆび一本も動かせなくなったとき、なんだかあったかいものにつつまれて体がふわって、ういたような気がしたの。そう思ったら目の前がまっ白になった・・・。

でね、ゆめからさめて気がつくと、アタシは毛布の中でお父ちゃんにだかれて寝てたのね。ドクン、ドクン…て、しんぞうの音が聞こえるから、目を開いたらお父ちゃんの顔があったの。こわいゆめを見たあとやからさぁ、「なぁんや、ゆめやったんか」って、気づいてホッとした。お父ちゃんのあったかいしんぞうの音をきいたら心づよくて、うれしくって…。思わず「お父ちゃん!」って、声をあげて、うでにスリスリしちゃった。あたしをだいてくれてたお父ちゃんのうでは、すごくあたたかかったのおぼえてる。

その後で、お父ちゃんに食べさせてもらったゴハンはおいしかったなぁ…。じょうとうのハナカツオがかかっててね、すごくいいい香りがしたの。「イヤぁ〜、ハナカツオやん。アタシこれめっちゃスキぃ〜、めちゃめちゃおいしい! うれしいわぁ〜」ハグ、ハグ、ハグってカンジ。

アタシね、お父ちゃんがダイスキきなの。おふろもごはんも、いっつもお父ちゃん
おといっしょ。お父ちゃんがねたらアタシもねるの。おとうちゃんは体が大きくっ
てね・・・ちょっと待って・・・あ! お父ちゃん帰って来た!

「ただいま〜」。
「おかえり〜! お父ちゃん、おそかってんなぁ。もうアタシ待ちくたびれたわ!」。
「よしよし、エエ子にしとったっか?」。
「うん、ちゃんと、一人でゴハン全部食べたで!」。
「よしよし、エエ子や。お前がおってくれて、お父ちゃんは家に帰る楽しみがあるわ。ちょっと待ってな、お父ちゃん、電話一本入れんとイカンねや」。
「ええ〜、早よう遊んでぇな〜」。
「すぐ済むから、ちょっと待っとけ」。
「いやや〜、早よぉ、早よぉ〜」。
「ちょっと待っとけって・・・・」。


                   
  父の話


あ、どうも、野原です。今日はどうもお疲れ様っス。はい、ええ、そうですか、デザイン出しは15日ですか。…はい、大丈夫です。ええ、ラボで確認したら、明日には大丈夫みたいです。立て込んでたみたいですけど、無理きいてくれましたよ。

・・・え、聞こえます? そうです。ネコ飼ってるんスよ。え、真っ白な子です。もう、すっかりハウスホールドですわ。ええ、3カ月ほど前です。生後まだ、1年はたってないみたいですね。…いえいえ、もうちょっと大人ですよ。医者が言うには、1月生まれくらいやろうって言ってました。人間でいうと10〜11歳くらいと違いますかね。
もうそろそろお年頃ってトコかな?

・・・家の近所です。雨降りでもなかったのに、何故か全身ズブ濡れで足腰も立たない様子で・・・かなり衰弱して死にかけてたんですよ…そうですね、あと、こういうのも考えられますよ。猫が嫌いな人の家の軒下に住みついてたりして、油断してるトコロに水を浴びせられたとか…いやいや、居ますよ。そういう人って。

…そう、そうなんですよ…そう。でね、ボクの気配に気づいたらしくて、こっちに近づいてくるんですよ。でも、弱ってるから一歩足を踏み出すごとにポテポテとコケるんですよ。それでも、前足で宙をかいてね、何かにすがろうとしてたんですかねぇ・・・ボク、気が付いたら、半ベソでこの子を抱き上げて家へ走ってました。
ええ、そうですね。ほんまに良かったです。ええ、ええ…ありがとうございます。

あ、そうなんですか、上本さんもネコ飼ってはるんですか。ええ・・・ははぁ、
へえ〜、よくなついてるんですね・・・あはは、そらぁカワイイですねぇ。ウチの子は死にかけて一旦意識が途切れて、また戻ったところにボクの顔があったモンやから、完全にボクが親だと思ってますわ。…そうそう、あはは、ひな鳥の”スリ込みOK”状態ね。意識が戻ったら、視線が合うなり「うにゃ〜ん」って、ひと声あげて、ボクの腕に顔をスリスリしてきてね。もうそれ以来、ひと時もボクのそばを離れませんよ。食事の時もトイレも、お風呂まで一緒に入りたがりますわ・・・。

え、名前ですか? 「やむ」っていいます。ええ、変な名前でしょ。意識が戻った時に鰹節をあげたんですよ。そしたら、「ウニャ、ムニャ〜ム、ヤム、ヤム、ヤム…」って、声を漏らしながら、スンゴイ勢いで食べるんですよ。それで「やむ」って呼ぶ様になりました。…あはは、安直ですか…でも、もう少し解説するとですね、、英語圏の国の子供は言いますよね、お菓子とか食べながら口を動かして「ヤミ、ヤミ」って。そういう意味もあります。ええ、まあホントは違いますけど、「ヤミ」より、「やむ」の方が語感がイイでしょ。それで。

ええ、ええ・・・あははー、ネコパンチねぇ。ワッツ マイケル最高っスね!ウチの子は、ボクが出掛ける時は分かるみたいで、身支度してると必要以上にジャレついて来ますよ。足元にネコアタックまでしてきてボクの足を捕まえようとするんですよ。「行かんといて〜」って言ってるみたいですよね。

・・・へぇー、そうですか、そちらも苦労が多い。…あはは、そうそう、へぇー、チンチラゴールドですか、それはそれは、お宅のモモちゃんは美猫ですね。ウチの子はねぇ、シッポが内側に曲がってるんですよ。カタカナの「コ」の字みたいに…いえいえ、そう思うでしょ、ボクも最初はブサイクやと思ってたんですよ。でもね、慣れると意外にカワイイんですよ、コレがっ! シッポを立ててる時なんかね、ハテナマークみたいに見えましてね、時々これをプルプルと小刻みに震わせてボクの顔をジッと見つめるんですよ、どうです? プリティでしょ、スゥイートでしょ。・・・いいえ、いいえ、い〜え!ウチの子がイチバンです。世界一カワイイですぅ〜・・・え? あはは、そう、親バカですよね・・・はあ?あはは、それ、オモロイ。マジでやりましょうか・・・野郎だけの自慢大会・・・女性立ち入り禁止!・・・”猫ナデ声&にゃんこ言葉で発言するのが鉄則。あはは・・・あのイカツイ窪田さんも、「にゃ〜ん、ウチのチロちゃんです〜ヨロシクにゃ〜」って・・・あははは・・・。

ええ、ええ、ええ …同じですよね。人間と。ボクはすごくこの子に感謝してますよ。・・・ええ、りゃぁ一人暮しって、正直言って寂しい時もありますよ。でも、この子がいてくれるから、真っ暗な部屋でも帰る喜びがありますわ。ええ、モチロン出迎えてくれますよ。
あ〜、そうですね。そうそう、足元スリスリはカワイイけどジャマですよね。そう、踏み潰しそうになりますよね。でもね、帰って来て居間の座布団が温もってたりしたら、「ああ、この子が留守番してくれてたんや…」なんて、思ってしまいますね。ほんま…。

あ、ついウダウダと…もうこんな時間じゃないですか…あはは、親バカ同士だとダメですね…際限ないですね…。ええ、そうですね。はい。じゃ、人物のところはポジとベタヤキの両方で。はい、お疲れさまです。ええ、あはは、ありがとうございます。そちらも、モモちゃんによろしく。ハイ、じゃぁお休みなさい。失礼します…。

                   再び娘の話

アタシの名前は「野原やむ」っていうの。
この名前はお父ちゃんにつけてもらったの。
お父ちゃんのはなしはよく分からないことが多いけど、アタシはお父ちゃんがダイスキ。だってアタシは、生まれるまえから、あのあったかくてドクン、ドクンっていうお父ちゃんのしんぞうの音を聞いていたんだもん。お父ちゃんに「やむ」ってよばれると、うれしくなって、ついシッポがプルプル震えるの・・・。
「お父ちゃん、でんわおわったやろ〜、早ようあそんでぇな〜」。うニャ〜ン。



                          ★1997・Apr.

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