奇美電子


 10月16日(木)、証券会社の営業さんから電話がありました。何でも台湾の珍しい銘柄が売りに出されるということで、液晶パネルのメーカーで「チーメイ(奇美)電子」というらしい。台湾でも有数の規模のLCDメーカーだそうで、ODF(One Drop Fill)という非常に効率的な生産技術を持つとのこと。300株で45万円〜50万円になるらしい。(後で株価を見てみたら、どう考えても3000株の間違いのようです。)

これを聞いて考えたのは
1.この手の業界は、HDDに代表されるように、非常に波が大きいのではないか?
2.プラズマ・ディスプレイが流行りだしているので、LCDの先行きは暗いのではないか?
3.奇美電子の生い立ちと、現在の資本関係・取引先はどうなっているか?
4.ODF技術は他社に真似ができないものなのか?もし一般的な技術であれば、すぐに過当競争になると考えられる。
5.仮にこれらについてクリアできたとすれば、株価は妥当か?
1.LCD事業の波

 この業界は韓国が先行していて、台湾勢は1999年からの参入です。それと日本の3国・地域で世界シェアのほとんどを占めています。でも、日本勢は試合放棄状態で、多くの日本の電器メーカーは台湾メーカーに技術とともに生産をアウトソースしているようです。そういえば、最近精密機器でも"MADE IN TAIWAN"が多いな、と思っていました。
 台湾勢が参入した結果、2001年にはLCD市場が大暴落しました。奇美電子も例に漏れず、大赤字を出しています。2002年には市況は回復しましたが、2003年はまた思わしくない状況になりそうなようです。2001年はサムスンが過剰な設備投資で自らの首をしめたのではないでしょうか
各社設備投資額
2001年 2002年 2003年(予想)
シャープ(億円) 553 720 1,080
サムスン(億円) 5,000 1,400 1,640
チーメイ(100万ドル) 793 395 866
 奇美電子は、2005年にはテレビ向けLCDの出荷台数が2003年度の420万台から1,200万台に増加すると推定しているようですが、出荷台数よりも、それで利益があがるのかということが重要です。
 ちなみに、大和証券の担当さんのお話では、社内資料(外部配布禁止だそうです。何で?)では25インチの世界全体の出荷台数として
2002年 2003年 2004年 2008年
6,400万台 9,000万台 12,100万台 23,000万台
という奇美電子の見通しを持っていることを教えてくれました。(口頭でしか教えてくれません!)
 そもそもLCD事業は大量生産によって単価を下げることができる産業なので、誰がいち早く生産量を増やして市場価格を引き下げてしまうか、という競争になります。とはいえ、LCDは第5世代、第6世代とレベルアップしており(これらの世代がどういうものかは勉強不足で知りません)、世代が進むごとに、それ用の生産設備を作る必要があるので、今の世代で出遅れた企業も挽回は可能です。
 第5世代も韓国・三星が生産技術の確立に手間取ったため、台湾勢に付け入る隙を与えたようです。
奇美電子 連結財務情報 (2003年10月売出の目論見書による)
2000年 2001年 2002年 2002年
(上半期)
2003年
(上半期)
純売上高 9,381.4 20,919.8 59,677.1 21,183.2 24,014.6
当期純利益(百万新台湾ドル) 1,946.8 (4,099.8) 4,530.8 4,025.2 100.7
2.LCDの先行き

 私はプラズマ・ディスプレイ(PDP)が出だしたので、LCDはもう廃れるかな、と思っていました。でも、PDPは42インチ以上の大型スクリーンでやっと高画質の効果が出るらしく、たいていの家庭用テレビなんかはLCDが得意とする範疇のようです。
 PDPよりも注目すべきは、有機EL(自発光)だそうです。こちらはまさにLCDと競合するみたいですが、専門家の話では7年くらいは実用化されないのではないかということです。
 同じLCDでも、さらにPC向けとテレビ向けがあるようです。これから需要が急増しそうなのはテレビ向けだと言われています。しかし、家電進出を表明した、あのデルが、PC・テレビ兼用モニターを主体にするらしいので、今までのPCモニターVSテレビといった従来の図式が崩れてしまうかもしれません。そういう点で、テレビ用に強い韓国勢に対してPCモニターに強い台湾勢も、巷で言われているよりも将来性があるかもしれません。
3.奇美電子とは

 以下は知人からの情報です。かなりインサイダー的ですが。

 「歴史的な話をすると、数年前に東芝とIBMがDTIと言う液晶の会社を作りました。2年前に提携解消し、IDTech(IBM)とTFPD(東芝)に分離されました。理由は、IBMがハイエンドの液晶を目指し始めていたのに対して、東芝は携帯電話などの小さな液晶を目指し始めていたためです。
 「その後すぐに、IDTechが台湾のチーメイに買収されたと言う次第です。チーメイはDTIの技術力を高く評価しての買収で、現在のチーメイの技術力はDTIで培われたものが大きいようです。
 「以下、昨年当たりの状況です。
 「台湾の液晶メーカーの状況ですが、チーメイのみが(売上高で)成長を続けています。規模的には、AUと言う会社の方が大きいのですが、下降線をたどっています。先輩は、台湾ではチーメイが残るでしょうという見解です。チーメイは台湾の中でもピカイチの優良企業だそうです。(特に南の方では)
 「が・・・今、今年の売上高の計算をしてもらっていますが、あまり旨みのないモニター用の液晶の枚数が伸び、AUが液晶テレビの枚数が伸びているようなので、売上高的にはAUが盛り返しているようです。(CPTは売却の噂が出てから盛り返しているようです。)
 「ちなみに、台湾の上位4社は、IBM(iiSC(株))の、工程管理システムを導入しています。
 「現在のところ、チーメイがプラズマに手を出すことはありません。液晶モニター液晶テレビの方が、旨みがあるので現在はそちらに注力しているようです。EL(有機液晶ディスプレイ)の方にも手を出しているようです。(ひょっとしたら、こちらの方にシフトするかも、ということらしい。)」
4.技術力
 上の話と目論見書からわかるのは、どうやら奇美電子の技術は、主に富士通とIBMから得ているようです。ということは、あえていうなら、「奇美電子だけが持つ技術はない」。
 さらに、もしLCD製造業がもうかるなら、なぜ富士通とIBMも自前で生産しないのでしょうか?確かに専門メーカーの方が効率的に工場を運営できるでしょう。でもその専門メーカーも、基礎技術は発注者に頼っている。悪く言えば、奇美電子はIBMのLCD工場に過ぎないと。それなら、われわれは受注者である工場に投資するよりも、基礎技術も持つ発注者に投資する方が効率的ではないかと思います。
 一方でよい言い方をすれば、富士通やIBMでは商売に結びつけることができなかったLCD製造技術を、うまく商売に結びつける才覚が奇美電子にあったと言うこともできます。でもそれは、たまたま富士通やIBMが持つ技術と奇美電子の相性が良かったからということもできます。それは、ある意味では技術ではありますが、技術というよりも現場への適応力という方がよいと思います。
 私の調査不足で、実は奇美電子も優れた技術開発力を持っているのかもしれません。でも、今回調べた範囲では、基礎技術研究においてどれほどの優位さを持っているかを確認できませんでした。この状態で奇美電子に投資するのは、非常に不安です。
5.結論
 奇美電子は、市場の伸びが期待される有望業界における、有力企業だと思います。でも、同時に、この業界は競争が激しいので、ここでいう「市場の伸び」は利益に直結しません。しかも、特性として、現在の生産技術の優位性が長続きしません。
 奇美電子は、競争が激しくなっても生き残る企業だと思いますが、それと、生き残っても、瀕死の状態であれば投資するに値しません。私には、奇美電子が圧倒的な強さを発揮して市場を席巻するという構図を予想できません。
 大和証券の担当さん、せっかく面白い企業を紹介してくれたのに悪いですが、今回は見送らせていただきます。