エビングハウスの記憶実験と英単語ボキャビルに関する考察(©sd)

エビングハウス(Hermann Ebbinghaus)は 1885年に記憶に関する画期的な論文
を発表しています。 主として忘却曲線(forgetting curve)で知られていますが、
他にも いろいろとおもしろいデータがあります。

今回、私なりに解析した結果も含めてご紹介したいと思います。
なお、論文の英語版は ここ にあります(注意:誤字多し、英文もイマイチ)。

0.解析の動機・背景:
  そもそも30台に入ってから記憶が衰えてきたこと、 と 常に英語による読書とボキャビル
  に関心があること、 が背景にありました。 特に最近「アンチ・バベルの塔」さんのblogを
  発見し、sdなりに「アンチ・バベルの塔」を構築しようと思ったのですが、 私の環境で
  構築する時間があるのか、見通しを得るための納得できるデータが無いか探していて
  見つけたのがエビングハウスでした。

  まだまだ会社の仕事も忙しいし、 健康の為のジョギングも毎日したい。休日には山にも
  登りたいし、 最近家内に刺激されて始めた韓国語も面白い・・・。 とやりたいことは
  いっぱいあるのに 時間の方は限られています。 私の個人的環境でやり遂げられそうなのか、
  それが気になって踏ん切りがつかなかった・・・というのが この記憶に関する考察を
  開始したきっかけです。

1.エビングハウスの手法: 
  エビングハウスは、記憶&忘却に関するデータを客観的に得るため、以下の手法を初めて
  編み出しました。
  1)子音+母音+子音からなる単語のうち、無意味なもの(nonesense)なものだけを対象とする。
     例:zaz, qoc 。 これを9〜16ヶ程度並べた暗記用例文を沢山作る。
  2)まず最初に 暗記対象を何回か繰り返して覚える。当然、1回や2回では覚えられない。
   「初めて完全に暗唱できた」回数をnとする。 
   その後、一定期間後(例:20分〜1月)、再度暗記を繰り返す。
   通常1回目では 完全暗唱出来ないので、 同様に 「完全に暗唱できるまで繰り返し」、
   その回数をmとする。 
   記憶が完全であれば、m=1であるはずだが、多くの場合 n>m>1。
   そこで、最初の練習の効果が記憶として残存している割合Qを Q=(n-m)/(n-1)で定義する。
   m=1なら100%。 m=n(まれにm>n)なら完全に忘れており0%残存となる。
      (なお 回数の代わりに 時間で代用することもある。
   また通常n>>1なので Q= (n-m)/n としても結論に大差はない。)

2.エビングハウスの忘却曲線の紹介と解析:
  エビングハウスの実験の結果で最も有名なのがこれです。
  ここ  に その結果をグラフ化したものと、 その近似式に関するsdの考察を
  まとめてあります。
  エビングハウスが論文で紹介している近似式は 全くいい加減で そのせいか 後世の
  論文では完全に無視されているようです。 (まあ、当時は非線形の最小2乗近似式を
  求めることは容易ではありませんでしたから、「それなりに意味のある近似式をでっち上げた」
  という感じです。)
  しかしながら、彼の見い出したデータは 彼個人しか対象にしていないとはいえ 客観的検証に
  耐えうるデータを初めて取ったという意味で非常に画期的なものです。
  結論を一言で言えば、
    1)記憶練習の効果は非常に短時間で相当部分が失われる。
    2)ただし、残存する一部分は超長期にわたって保持される。
  ですが、 sdの考えるに、 ボキャビルという観点から見ると 一番大事な結論は
  次とその次の実験結果と組み合わせた結論です。

3.1回の練習量と記憶保持量が比例するという事実、但し、飽和点があるという事実。
  グラフと解析は ここ  にあります。
  1)「勉強すればテストの成績がよくなる。勉強しなければ結果は悪い」というのは誰でも経験的に
    知っている事実だと思います。 ただし、それをデータで見たのはこれが初めてでした。
    とくに、 「記憶残存量は練習量の1次に比例する」 というのは 一見当たり前みたいですが、
    極めて重要だ、ということを新ためて指摘しておきたいと思います。 
    (たとえば、記憶量は練習量のルートにしか比例しない、とか 最悪logにしか比例しない 
     とすれば 勉強の効率は非常に悪くなります。 特に、logに比例、となれば 事実上
     いくら勉強しても無駄、ということになりますので。)

   →さて、ここでこの結論と 先の結論「残存する一部は非常に超長期にわたって保持される」を
    組み合わせると 次の仮説が得られます。(論文では明記されていません)
    「一定以上の練習量があれば 憶えたことを超長期にわたって忘れない(たとえば一生)
    解析の頁に書いておきましたが、 「一定以上の練習量」とは 最初に1回暗唱するに
    必要な練習量を100%とした場合、 約700%に相当する練習量です。(sdの結論)

  2)しかしながら、全てが簡単では無く、彼は同時に 次のデータも得ています。
   「1回に多量に練習してもその効果は飽和する点がある。(比例が成り立つ限度がある。)」
   経験的には良く知られているように、 詰め込みでやっても効果が少ない、ということをデータで示したものです。
   彼の示したデータ数は非常に限られていますが、 それを信じるならば、 その飽和点は
   上記練習量の定義に換算して、「1回の練習量は200%で飽和する」(sdの仮説)です。
   ただし、これに関しては 200%という数字が重要なのか、 連続練習時間で40分以上程度
   という 時間が問題なのか、区別できるデータが無いのが残念です。
   sdの私見では、 「小中学校の授業が1こま45分程度であることを考えると 200%というよりは
   時間の方が本質では無いか?」と予想しています。→これについては 他の論文を調査したり、
   個人的実験で検証する予定です。

   いずれにしろ 3−1)で示した 700%などという練習量を1回でこなすことは無意味そうなので
   せっかくの(sdの結論) も無意味になりそうですが、 うまいことに 次のデータがありました。

4.累積練習量と 記憶保持量が比例しそうだ、 というデータ:
   グラフと解析は ここ  を参照ください。
   つまり、1回で沢山練習するのでは無く、 少しづつ、 飽和しない範囲に練習量を分散させると、
   「累積の練習量と 記憶保持量が比例する」という結論です。(sdの仮説。本文には明記なし)

  グラフはちょっとばらつきがあり、 他の結果ほど明快ではありません。
  しかしながら、 定性的には多くの教育者によって指摘されてきた事で、十分あり得る事だとsdは
  思っています。

  いずれにしろ、 2の忘却曲線、 3−1)、−2)の結論と組み合わせると 次の重要な結論が
  得られます。(sdの結論)
  「1回の練習が飽和しないように分散させて反復練習した場合、累積の練習時間が700%程度に
   達した段階で、 その記憶効果は超長期にわたって保持できる。」 です。
 
  →これで 初めてボキャビルに必要な練習量(練習時間)が定量的に明らかになります。
   後は 実際のボキャビルで100%( )に必要な練習量がどの程度か データを得るだけです。
   
  尤も、 エビングハウスの実験は「無意味の単語列」を暗記した実験であり、 英文などの
  「有意味文」を暗記した場合はさらに効果が良さそうだ、という示唆的データも乗せていますので
  この 700%という値は 「最悪値」だとsdは思っています。
  →この辺も 個人的にデータを取りたいところです。

5.今後の予定:
  上記の様に、エビングハウスが残してくれた貴重なデータを元に、sdなりに解析して結論を引き出した
  わけですが、 いずれにしろ「仮説」でしかありません。
  まだまだデータが不足していますし、 特に エビングハウスは「無意味単語」の記憶を手段としたのに
  対して、 現実の英単語のボキャビルに対しどうなのか、というデータはありません。
  そこで、 今後は これらを 現実のボキャビルの中で 取っていきたいと考えています。

  1)現実の英単語のボキャビルに適用した場合の忘却曲線の検証:
      ・同じ関数型で表現できるのか。
      ・各定数はどうなるのか。 24h後の記憶保持量はエビングハウスでは33%程度となっているが、
       さてどうなのか。 
      ・sdの仮説「累積練習量330%で24H保持、700%で超長期保持」
       は成り立つのか。
      ・実際のボキャビルでは100%の練習量とはどの程度のものなのか。
  2)1回の練習飽和量は 実際のボキャビルでは何%なのか。 それとも時間制限なのか。
  3)反復練習の頻度を エビングハウスは1日おきでデータを取ったが、それより短時間では効果が  
    無いのか? たとえば、朝・昼・夕・寝る前の数時間おきではどうか?
    または ほんの10分〜20分程度の休憩でもいいのか。 
  etc....

    →これらにより、実際のボキャビル、 特に「アンチ・バベルの塔」をsdなりに構築した場合の
   必要時間・日数の目論見を算出したいと思います。
   (死ぬ前に終わるのかな?)

  何か、まとまったデータが得られたら 随時アップしますのでよろしく。

・・・とりあえず以上・・・

<追記>なお、 教育の場に適用するには 「個人差」を含めたデータを取る必要があります。
      すなわち、
      1)いわゆる、勉強の出来る人と出来ない人で どこにどの程度の差があるのか。
        (出来る人は忘却特性がいいのか、それとも練習量に対する記憶保持の効率
         が高いのか。など)
      2)年齢で どんな差があるのか、無いのか。
      3)何らかの「教育」で 忘却特性のパラメータを改善することができるのか。

    この辺のデータが系統的にとれれば、 教育にもかなり応用できると思うのですが、
    それはsdの守備範囲外ですので どなたか奇特な人がやっていただければ幸いです。
    (それとも すでに誰かがやっていますか?? ご存じの方がいれば教えてください)